SS詳細
Causa amentiae
登場人物一覧
●Multa personality
自由図書館の裏側、誰も知らぬ秘密の場所。
『赤羽』と『大地』は、戦闘訓練を行っていた。
天義で。海洋で。刃交えた魔種や、冠位魔種達。
敵は、これまでよりも強くなるだろう。
それはきっと、これまで『赤羽・大地』が続けてきた、ローレットの
そして恐らく、その予測は外れることは、ないだろう。
ならば。
ならば、己はこれまでよりも強くなれるのだろうか?
(『赤羽』を頼るのはだいぶ癪だけど……アイツのほうが俺よりも戦いには、なれてるから)
(『大地』はまだまだ戦いには慣れてないからナ……少しでも成長してもらったほうが、後々俺の役に立つからナ)
片割れの思惑など知らず『大地』は、魔術の教えを乞うた。
片割れの決意など知らず『赤羽』は、魔術の
そうして今。
『二人』は的を見つめていた――。
●Magi nigrum
ドゴォン。
ドガァン。
ポシュッ。
『へたくそだナァ、指の関節使って曲げんだヨ』
「……もう一回」
『そうこなくっちゃな!』
嗚呼、腹立たしい。アイツの目に俺の無様な魔術はどう映っているだろうか。
俺も顔を覆いたいが、それはできそうになかった。
最初はへたくそすぎて、コイツに迷惑を沢山かけた。今じゃ申し訳ないって思ったりするときもあるけど、でもやっぱりこれは俺の身体にいる居候だから、時々煩いなと思ったりもしないわけではない。
赤羽。俺の知らないコイツ。
魔術師としてならば、先生とでも呼ぶべきなのだろうか。
でも、絶対に癪なので呼んでやらない。
そんなことを考えながら撃った魔法は、さっきよりはマシだけど、やっぱりとんでもない方向へ。
練習だからなのか、少々気が緩んでいるのかもしれない。
「……今のはどうだ」
『んっとナ。力出し過ぎだゼ』
「もう少し丁寧に教えろ」
コイツは感覚型なのだろう。あらゆる点であてにならない物差しを使ってくる。
『あー。三割くらい力抑えてみロ』
「解った」
本当に。腹立たしいほどに、教えるのだけは、うまい。
けど。他の面でなら、俺だってもう少し張り合えるはず。
俺だってコイツよりマシなところがると思ってる。思いたい。
(まあ、でも。それでも教えてもらえてるんだから、感謝はするべきなんだろうな)
まだ『学生』だった俺を、ちゃんと戦闘をできるように仕込んでくれているのだろう。
なら、俺だってちょっとくらいは戦えるようにならないと、いけない。
(……はは。俺、感化されてんのかな。でも、やっぱり、死にたくないから)
面白いほどに死を避ける俺とお前。
利害の一致。だからきっと、俺とお前は『一緒』に戦うのだろう。
気づいてる。アイツは、なにか企んでるんだろうって。
俺なんかじゃ思いつかないくらい、すごいことを。
俺に出来るように、わかりやすく教えてくれてること。俺が戦えないときに、戦い方を教えてくれたこと。
嗚呼。本当に、コイツは、俺とは住んでる世界が違うんだ。
(……俺も、もっと。頑張ろう)
そう、思ってる。
思ってた。
だけど、身体は思うよりも疲労がたまっていたようで。
ぶちっ。
身体の内側から、何かがちぎれる音がした。
訓練をする手を止めて、赤羽に聞いてみる。
「……なんか、疲れてきた」
『ア? こんなところで終わりかヨ。
これだから平和な世界出身はよォ』
「……冗談だ」
『ホントかヨ』
「そうに決まってる」
……気のせい。だな。
俺はやっぱり、もう少し運動をしたほうがいいのかもしれない。
俺にとって、戦いはいつだって別世界の事みたいだった。
そう思うしかなかった。
でも。色々な戦いを超えるうちに、少しずつ変わっていった。
変われていった。それは、すごくいい変化だったのだろう。
俺の内側で、何かが壊れる音がする。
きっと、それを乗り越えれば。さらに強くなれるに違いない。
だから、こんなところで止まってなんかいられない。
もっと誰かの為に戦えるようになりたいから、一緒に強くなろう、赤羽。
●Magi ruber
ドゴォン。
ドガァン。
ポシュッ。
『へたくそだナァ、指の関節使って曲げんだヨ』
「……もう一回」
『そうこなくっちゃな!』
嗚呼、こいつアホなんだなって思っタ。
魔術飛ばす軌道がトンチキすぎて見てらんねーノ。
最初に魔力を放出し過ぎてぶっ倒れちまうんじゃないかって思ったけド、案外間違ってなかったかもしれなイ。
けど。
腹立たしいことに、コイツはなかなかに筋がいいシ、折れる気配も見せないシ、そして残念なことに魔術的なセンスもあル。
それでこそ俺の魂が入ってる『器』だが、なかなか癪なんだなァ。
「……今のはどうだ」
『んっとナ。力出し過ぎだゼ』
「もう少し丁寧に教えろ」
『あー。三割くらい力抑えてみロ』
「解った」
本当に。腹立たしいほどに、筋がいイ。
けど。コイツが上手く魔術を使えるようになってるのは、コイツのセンスだけじゃあ、ないんだなァ。
(いつかこの身体を俺のモンにするなら、それくらいは手伝ってやらねえとナ?)
俺の魂は火の車だ。いつ壊れて、いつ音を立てて燃え出すかも、わからない。
なら、
(ハハ、だって、死にたくねーもんナ)
面白いほどに死を避ける俺とお前。
利害の一致ではあるが、俺はそんなんじゃ満足してなイ。
気づいてるんだロ、大地?
俺がお前を支配しようとしているこト。
嗚呼。本当に、可哀そうで、
(笑えてくるんだよなァ)
感覚。神経。お前のしらない内側を、壊し、弄る。
ぶちっ。
「……なんか、疲れてきた」
『ア? こんなところで終わりかヨ。
これだから平和な世界出身はよォ』
「……冗談だ」
『ホントかヨ』
「そうに決まってる」
アハ。
バカみてエ。
アハハハハハ。
アハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
神経切られてんのニ、身体壊されてんのに、『疲れた』だァ?
そんなことじゃあ、俺は止まってやんねーゾオ?
もっと壊してやるから、一緒に強くなろうナ、大地。
●
魔術回路、増築完了。