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『付け焼刃』の後遺症

登場人物一覧

華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人

 良い子が過ぎると誰かが言った。その時の私の盲目さは、酷く上向きで『かわいらしく』映ったとは思えない。積もりに積もった雪の重さが、とける筈なのに溶けない現実。海の底からも決して浮かべない、天使の真実はひどく泣き虫なのか。冠位魔種の権能を脳内で繰り返しながら、丸く加工された矛先を眺めている。眼球が色彩を帯びる為に『在る』ならば、私はきっと煉獄に堕ちるべき一体なのだろう。独り、部屋の片隅で佇んだ。向かい側に黙する鏡は『負』を巡らせ、枕元の深淵へと導いている。愛している。愛しているのだ。しかし今は『そんな』爆ぜる渦巻きではない。ざくりと踏んだ足の裏は洗う事の出来ない汚れに染まっている――ああ。知っている。努力が足りないのは理解している。奇跡もあの人の振り向きも、頭に立って吼えるにも、きっと能力を得る為には一歩一歩が大切なのだ。頭を垂れる……如何だ。さっきから此方を観ている女は、顔色が悪いだけの母親じゃないか。いや。母親などと称えられはしない。女は沸々と嗤っている罪と罰に『呼ばれている』に違いない。割りたい。この冷えた面を撲って、壊してやりたい。そんな衝動に『すら』駆られる事なく、静かに鍋底へと棘を投げる。聳え立つ壁は四方に造られ、進展させるには壊す他に無い。ねえ。壊し方を教えて欲しい。欲しいと思った時点で女の負けだ――地面が潮風に攫われる、幻覚か何かで息苦しい。全部だ。全部が羨ましくて吐きそうなのだ。絶望と言われた領域は最早『突破』され、活躍は多々と聞いている。其処に名前を並べたかったのか。違う。其処に自分を刻みたかったのか。違う。なんで誰にでも振り向くのか。面倒臭いのは受け入れるから、残酷な意味を聞かせないで――募る魔は惹かれるようで、されど裏返るには恐ろしい。
 怖ろしかったのだ。何度も咀嚼する酸っぱさを。我慢を拗らせた甘ったるさを。往々に応じた皆の貌が、追い掛けても追い掛けても退いて往く。息が止まって崩れた膝が、くすくすと女を嘲笑している。同じ蒼色なのに弟子とか笑って、あのころころ変わる表情が面白可笑しいのか――鏡を退けて蹲る。頭を抱えてぐるぐると巡る『緑』に閉じ籠っているのだ。お酒。七色に染まった美しい、大人の照れ々れが混ざっている。星に成るような浪漫が溢れ、ちょうだいと迫っている妖精のような酔う……何故なのかは判らないが、もう少しで二十歳だってのに子供っぽいと擽られそう。そんなんだから不器用なんだ。ええ。器用貧乏だって言われたのが嘘に想える。此れは幻聴に違いない。それでも抉るような想像が心臓を殺しにくる――狂っているのだ。狂ってなければ女は死んだ方がマシと絞まるだろう。優しさは何処に失せたのか。ああ。あのお世話好きな修道女さんは魅せ付けたがりで、勿論妄言だと呑み込める。そろそろ止まってくれないか、思考、思考、思――翼を萎ませて現から逸れる。
 凛々しい。あの啼き声は夜と共にやってきて、素晴らしい光輝を示すのだろう。苦労して掴んだ旗だと頷けはするが、なんで掌にしっくりこない。意識と無意識が衝突して天と地が絶叫する、戦場に『立つ』彼女達――海賊は確か辿り着いたと聞く。海賊帽を譲られた子を知るだけでめまいがする――ばたばた。ばたばた。足をのばして毛布を蹴り飛ばす。悪い子になりたくなってきた。器が罅割れて追い風は向かい風。許されたいのか。赦せないのか。ごちん。足先が硬いものにぶつかった。痛みが脳味噌の後から訪れる。ないてない。
 嫌だ。厭だ。イヤだ。自分が自分では無くなる感覚が、内側からじっくりと蝕んでいる。するりと粘つく心情が、不安定な己を巻き取っているのだ。空を飛ぶ事も難しい事で、地下に棲んでいるミミズのような膨れ面。このまま行けば喰われてしまう。そんな勇気もないクセに遠吠えを望むのか、女――狡い。ずるいよ。ズキンと続いた鈍さは足先とは真上の隣人だ。最近病的になったねと、誰かさんに言われた気がする。鈍かった事には気付いているのだ。無謀でも蛮勇でも構わずに最前列へと駆ければ良かった……巡る競争に置いて『枯れ』ている。
 いっそ頭でも切り取ってやろうか。そうすればあなただって抱き締めてくれる。まあ。それも何れは『誰か』に取って代わられる。宝石のような経験達がどんどん濁って染みるのがわかる。目の当たりにした伝説は儚げなのに『あたたか』かった――もう誰か助けてとも吐き出せない、貫いた矢は引き抜けないのだ。温度差で風邪を患ってしまいそう。ああ。それも良いかもしれない。でも、あなたが触れた額は『うそ』に包まっている――眠れそうにない。

 小鳥が囀っている。窓を開ける気力もない。日常を送るだけの意味も曖昧だ。
 ――緑色の怪物が、起きる事すらも威している。
 私が私に奇跡を起こす他にない。どうしたら前を向けるだろう。
 ――結晶を作るのに焦ってはいけない。

  • 『付け焼刃』の後遺症完了
  • NM名にゃあら
  • 種別SS
  • 納品日2020年06月24日
  • ・華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864

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