PandoraPartyProject

SS詳細

→ スライムから村を守れ![通常]【難易度:EASY】▼

登場人物一覧

アト・サイン(p3p001394)
観光客
アニー・K・メルヴィル(p3p002602)
零のお嫁さん


 それはある日。
 『お花屋さん』アニー・メルヴィル(p3p002602)がひょんなことから借り物である調理器具を壊してしまった事から始まる。
「はあ……困りましたね、買い直すとしたらあんなに高いなんて」
 ついさっきその手の店を訪ねた彼女は困った様に腕を組んでため息を一つ。結果はこの通り。
「壊しちゃったわたしが悪いだけに、お金を借りるのもなんだか気が引けるし……う~~んっ」
 花屋を営んでいる彼女でもすぐに出せる金額ではないゆえに、知人から借金という選択肢も潰え、どうしようかという所。
 彼女の足は自然とある場所へ向かい──
「クエスト……どれも怖い依頼ばかり……何かお手伝いできるお仕事でもあればいいのですが」
 アニーはギルド・ローレットの掲示板を眺めていた。

(新規の依頼……? スライム一匹だけみたいだし難易度は低そうっ)
 並ぶ戦闘依頼。その中で今朝貼りだされたばかりの依頼書を見つけたアニーは咄嗟にそれを剥がし取った。
 その内容は、どうやらとある僻地の村落付近で巨大なスライムの這いずった跡が見つかったと同時に行方不明者が一人出たらしい。
 つまり村が襲われる前にスライムを退治して欲しいという依頼である。
(これなら誰か一緒に来てくれれば……!)
「はぁ……果ての迷宮の続報も無いなら今日は行きつけの店で時間を潰そうかn……
「いた!! アトさま~~~!!」
「うわぁなんだ!?」
 そのへんにいた冒険者や特異運命座標と視線が動き、次いで目に止まった『観光客』アト・サイン(p3p001394)の姿にアニーは猛ダッシュで飛び込んで行った。
 ダイナミックな来客にアトが目をチカチカさせて見れば、見慣れた少女が目をうるうるさせて両手を合わせているではないか。
「やあアニー……な、何ごと?」
「お願いですー! どうかわたしと一緒に来てください!!」


 急かされるがまま飛び出す二人。
 既に王都から離れ数時間。
 老練ながら健脚を誇る駿馬は早くも辺境地間際。
 これから向かう依頼は極めてイージーな魔物退治。誘いに乗ったアトからすれば回復役のアニーも居る時点で実にラクな仕事だ。
 それでも危険な戦闘依頼である、それがまさか調理器具の買い直しの為とは。
 人知れず苦笑しながら、彼は目を細めた。
 目的地である僻地の村が見えて来たのだ。が、様子がおかしい。
「──イヤな予感がする」
 立ち昇る黒煙、火の手が遠目にも分かったのだ。

 ────駆け付けたその先には、あちこちで火の手が上がっている荒れた光景が広がっていた。
 炎渦巻く村落、幾人もの村人が屍を晒している惨状。
 村へと降り立ったアト達は言葉を失った。
「ひどい、何が起きてるの……っ」
 思わず口元を覆うアニーの手が震える。
「盗賊か? ……だとしても無差別に過ぎるか。それにこの傷はどこかで見覚えが──」
 死体を観察していたアトはある部分に注目する。
 衣服に残る刺突痕。紫に変色した傷口は毒による物だと解る。
 だがやはり全てが荒く、粗い。
「……まさか」
 瞬間。どこからか助けを呼ぶ声が村の奥から挙がる。
「アトさまっ!」
「──ッ!」
 振り向き様のクイックドロー。
 半壊した家屋を突き破って現れた影に銃弾を叩き込みながら咄嗟にクロークを翻して、アームガードで防いだアトから多量の血が飛び散る。
「ッ! ……何でコイツがここにいるんだ」
 眼前に現れた赤々と濡れたスライムに覆われるヒト型の怪物。
 それは、かつて戦ったナイトメア・ブロブだった────

 初めて直視する生々しい人の死。
 見知った友人の血。
 明確なまでに『人』を襲うモンスターという存在を初めて目にするアニーはヒールを唱えながら震えていた。
「なにあれっ……中に人が……? アトさま血が出てっ……!」
「落ち着いて、アニー」
 対して。まるで動じていない、いつもの友人の声。
「慣れてない君には酷だろうけど、まず見るんだ、連中は視覚で僕らを捉えてるんじゃない」
 粘液が地面を滑る音。
 アニーは不安気にアトの背中を見る。
(あれに有効なのは火だ。だけど、運が無いな……さっきのでカンテラを割られた)
 冷静に、彼は深く息を吸う。
「君の力が必要だアニー。
 ──あれはここで殲滅しなきゃいけない、絶対に」
 愛剣を抜いた観光客はゆっくりと息を吐いた。
 銃声に集う異形どもが迫る。村の奥から来たのだとすれば恐らくは、先の悲鳴の主もそこに隠れているのだろう。
「やれやれ、何がEASYだ……完全にレベル詐欺じゃないか」

 ──泥状の水沫が幾重にも交差する。
 取り込まれたばかりの人間を基とする新生ブロブの動きは、アトから見れば幸いにも鈍い。
 だが。
(それとこれとは、別か──!)
 四体の怪物から繰り出される波状攻撃は彼の血肉を確実に削いで来るのだ。彼とて余裕がある筈は無い。
 空を切り裂く肉蔓、咄嗟に崩れかけた民家へ転がり込む。
「アトさまがんばって……! ああっ、あぶない!」
 後ろから見守る歯痒さは焦燥感に。
(少しでも早く、少しでも痛みが消えるように……!)
 反応が遅れればそれがアトにとっての命取りになる。
 癒しの光を放ちながらアニーは危うい場面の度に悲鳴を溢す。
(アトの言う通り。きっとここで私達が負けたら、生き残った村の人が危ないものっ
 ぜったい、絶対……負けるもんですか──!)
 村に来てから不安と恐怖に押し潰されそうになっていた少女。
 アニーはアトの戦う姿を、そして漸く周りが見えて来た事で、ついに覚悟を決める。
「~ッ、熱っ……! えーいっ!」
「アニー!?」
 崩れかけた家屋へと近付いて行くブロブどもに燃え盛る木片を投げつけ、火花が散る。
 アニーが肌と袖を焦がしながら放った一矢は四体のブロブに一瞬だけ隙を生んだ。
 少なからず火を恐れ、そしてアト以外の獲物を見つけたが故に。
 あまりにも危険で、無謀な行為。
(何してるんだ、アニー…………いや。今なら、やれる────ッ)
 フードの下で眼光が揺れた瞬間。
 電光石火の如く踏み込んだ一撃がブロブを刺し貫き、ゲル状膜の下で肉塊が震える。
 赤々と濡れた粘液膜の下で形成された鋭い骨が全身から射出され。身を翻し、剣山を根元から叩き折った刹那、横合いから肉の蔓が背嚢を弾き飛ばす。
 頭蓋への一撃を首を振って躱しながら貫いていたブロブをそのまま斬り払い。追い縋る様に更に踏み込んだ一呼吸の間、剣閃と銃撃による火閃が左右に瞬いて爆ぜ飛ぶ!
「ッ────!!」
 不意に突き立つ、体内の半ばまで侵入する刃の感触。咄嗟に身を捻り、返した刃でブロブの頭部を刎ねた。
 三体の怪物が地面に崩れ落ちたのと同時に、彼も膝から落ちながらパンドラの輝きを霧散させるのだった。
「~~っ! しっかりしてくださいアトさま! いま回復を──っ!?」
 ずたずたになった右腕から血飛沫が上がるのをアニーはスカーフで止血しながら、ヒールを唱えようとした。
 しかしその光は半ば傷口を塞いだだけで、出血を止め終える前に沈黙する。
 ──最悪のタイミングで起きた魔力切れだった。
(────)
 辛うじて剣を握れる程度の腕。無茶をする為の回復も奇跡(パンドラ)も尽きた。
 迫るブロブは未だ健在の状態である。
(このままじゃ、二人ともやられる……)
「アトさまこっちに来て!」
 アトはか細い腕を貸すアニーに連れられ、外へ出ようとする。
 千切り飛ばされていた背嚢の中身が二人に蹴飛ばされ転がる。
 悲鳴を上げる肉体の代わりに動くアトの思考が、ある一点を見出す。
「……!」
 アトの視界に入ったそれは、民家の物であろう水瓶らしき壺だ。
(これだ──!)
 拳銃を素早く収め、彼の手際はここぞとばかりに光る。
 引っ手繰ったロープを民家の支柱と水瓶に絡ませ、ロープを手にアトは再び拳銃を抜き放ち頭上に向けて撃った。
 ブロブがそのゲル状膜を震わせて駆けて来る。
「下がるんだ! あの家の陰に!」
「はい……っ!」
 背中に這う冷たい気配を振り切るように、二人は走る。
 近くの民家の角へ滑り込んだアニーに続き、後ろを垣間見たアトがその手のロープを一気に引き寄せた。
 派手な破砕音に次ぐ水音。
 アトの目論見通り、上手く『油壷』をブロブに叩き付ける事に成功したのだ。

「はぁ……はぁ……ッ、後は奴にこれを撃ち込む、だけだ」
 リジェネレートでも一騎打ちを挑むには未だ傷が塞がっていない。
 ボロボロの手に手を重ね、漸く観光客流剣術を繰り出すのが精一杯。
 だから、背嚢の中身から取り上げたフレアガンを狙い撃った瞬間に一撃決めるには手が足りなかった。
「……君が撃つんだ、アニー」
「え……っ」
「僕じゃ、この手で狙いをつけた隙にやられるだけだ……ッ」
「でも、もし外したらっ」
「君は外さない──!」
 真っ直ぐに、アニーの瞳を見て。
 拳銃も撃った事の無い、今日でさえまともに戦っていない少女の手に渡される信号弾の重み。
 彼女は泣き出しそうになりながら──今も目を逸らしたくなる様な傷の痛みに耐えて剣を握るアトを見た。
 彼は諦めてなどいない。


「いいかい……っ、3つだ。3つ数えたら、撃て……!」
 自分達を探し回っているあの化け物を倒そうと全力を尽くしている。
(……大丈夫……っ)
 不安はある、だが。彼が言うならやれる筈だ。
 だってそうだ。隣に居るのはアニーの信頼する”あの”アト・サインなのだから。
「1──」
 少女は慣れぬグリップを握り締め。
「2───」
 次いで、アトの真似をして深く息を吸った。
 恐怖を煽る様に、怪物の引き摺る粘液の音は近い。だがそれ以上に、隣り合う彼の頼もしさの方が遥かに上回っていた。
「「3───!!」」
 直後、閃光が迸る。
 紅く、朱く、赤く燃え上がる。
 信号弾の閃光によってアニーの視界が白く染まる。

 結果は見るまでもなく、最後に聞こえたのは異形の断末魔だった────


 ──依頼成功──

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