PandoraPartyProject

SS詳細

アカイロ、オトイロ

登場人物一覧

R.R.(p3p000021)
破滅を滅ぼす者

 R.R.(p3p000021)は炎のような男だ。
 ただし情熱的などという明るい意味合いではない。『破滅』を火種に『憎悪』を油として燃え続け、火種を求めて延焼し、何れそれらが絶える時がくればふっと消えてしまう――そんな先の見えない、生きた炎だ。
 故に、本来は火種以外に、生存に関わる最低限以外は興味が向かないはずだった。が、R.R.は生まれながらにして炎というわけではない。炎になる前の、人だった時の姿がある。今は燃えカスに過ぎない残滓だが稀にそれが表に出て、興味の例外を生み出す事も有り得ない話ではない。

 R.R.は偶然根城としている廃村の集会場から見つけた例外――ギターを手にしていた。
 本来ならガラクタの中に埋まっていたそれを見つけてもわざわざ掘り出すような事はしない。それが武器に使えるわけでもなく、ましてや命を繋ぐ食料にも機材にもならない。
 最低限、その裡から外れたそれを手にして弦を弾いてみる。空気を乱し音が鳴った。
 一本一本、確かめて弦を弾き、音から歪みを見つけて弦を調整して直していく。

 この世界に来る前、彼は音楽をやっていた。プロのアーティストではなく学生の音楽グループだったが、仲間たちと共にそれはそれはとても楽しく演奏していた。今となっては楽しい学園生活もなにもかも残滓と化してわずかに残るばかりだが、色々な楽器に触れて培った技術は体に刻み込まれている。
 彼の調整は申し分なく、ガラクタの中に捨てられていた事を加味してもきちんと音は鳴る。簡単な演奏に使うなら然したる問題はあるまい。
 腰を落ち着けてからゆったりと音を奏で始める。
 この場に楽譜はないが、R.R.の魂に音符が寸分の狂いなく刻み込まれている。頭で「弾こう」と意識しなくても手が勝手に旋律を作り出す。

 明るい歌。
 楽しい歌。
 激しい歌。
 悲しい歌。
 落ち着いた歌……。

 R.R.の魂が覚えてる限りの曲でメドレーが奏でられる。時には体に染み込んだ歌がひとりでに歌を唄わせる。
 誰もいない集会場の中でたった一人のセッションが繰り広げられていた。それは寂しく、虚しいばかりの光景ではない。R.R.が二度と立ち会えないかもしれない思い出と邂逅する場であり、どこか温かな空気を纏っていた。
 ふと、R.R.は次の曲で最後かもしれないと思った。
 その曲は観客がいればどこか寂しいと思っただろう。それもそのはず、本来その曲はギター一人で主旋律を補えるものではない。他にメンバーがいて初めてその曲は完成した姿を観客に届けられる。しかし唯一の観客は寂しいとも、物足りないとも思えなかった。
 ――音の中で赤色を見た。
 血のように残酷で不気味な赤ではない、炎のように恐ろしい赤でもない。
 とても懐かしいのに取り戻せない――何故かそんな気のする赤だった。
 赤色はR.R.の前に近づく。近づいて「ぶつかる」と思った瞬間に横をすり抜けていった。
 探そうにもそんな赤は何処にもなく、気づいた時には演奏はとっくに終わってしまった。

「あれは……」
 ギターから手を除けて思わず言葉を吐き出す。
 なにか、とても懐かしいものを見れた気がする。それに届かなかった寂寥感もあるが、灰色の乾ききった心に染み込んだ暖かい残滓に満ち足りた気分だった。
 今の暖まる気持ちもまた燃えカスの中に戻っていくかもしれない。それでも、虚ろの中で「破滅を滅ぼす」という意義以外に自分にできる事を見つけられた。
(まだこんなにも残っていたのか)
 ギターを長年を共にした相棒のように丁重に置く。
「悪くない」
 まだ、全て燃やし尽くした後に己が残っているのなら音楽をして暮らすのも悪くない。
 淡い希望がどこまで続くかはわからない、思考の片隅とはいえその時はそう思えた。

  • アカイロ、オトイロ完了
  • NM名樫木間黒
  • 種別SS
  • 納品日2020年05月27日
  • ・R.R.(p3p000021

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