SS詳細
お化け屋敷にようこそ!!
登場人物一覧
●今日はキャッキャうふふのデートだったよね……?
上谷・零(p3p000277)からデートのお誘いを受けたアニーは、迷うことなくそのお誘いを受けた。
(零くんとデート!)
今までにも二人っきりで出かける、所謂デートは何回もしているが、どのデートも大切な思い出で、ドキドキと幸せが沢山詰まっている。
だから今回もそうだと思っていたし、実際途中までは楽しく二人で買い物デートだった。
「練達は他にない物がいっぱいで見てるだけでも楽しくなっちゃうね」
買ったのはこれからの季節に使える小物ばかりだけど、水に濡らすとひんやり冷えるタオルは二人で試して、そのひんやり感に思わず色違いの物を買ってしまった。
後は扇風機も欲しかったけど、流石に扇風機の入った箱を持ってデートを続けるわけには……。と二人揃って断念した。
「後でもう一回見に行こうか」
なんて言ってくれるから、アニーも嬉しくなって笑顔で頷く。
あぁでも、(アニーの)(零くんの)家にだけあったら、それを口実に遊びに行けるかも? なんて思ってしまったのは内緒にしておこう。
そんな幸せと嬉しいドキドキはそこまでだった。
「零くん……?」
「気に、ならないか……?」
微かに震えるアニーと、ごくりとつばを飲み込む零の前には、突如として現れた廃墟と化した空間。
今までの奇麗な壁はどこに行ったのか、気が付けば薄汚れた壁には蔦が這い、たまにちかちかと点灯する薄暗くなった照明の下、ひび割れ微かに中が見える。
「や、やだやだやだやだむりむりむりむりっ!
暗いのは怖い! おばけはもっと怖いぃぃ!!!」
中から聞こえてくる微かな悲鳴も併せて、アニーは一歩後ずさって首を横に振った。
「ご、ごめん……!
でもお化け屋敷が懐かしくて行ってみたいけど、正直一人じゃ心細いというか……。どーせなら一人より、誰かと……というかアニーと行ってみたいっていうか……!」
涙目で首をふるアニーに狼狽えつつも、零も引けない。アニーの拒絶反応から見て、ここで引いたら男のロマンの一つ、お化け屋敷でどっきどきハプニング☆ の機会は永遠に失われてしまうから。
「あ、もし来てくれるなら俺も何か一つ、何でも言うこと聞くからさ!
……だめ、かな?」
どこか捨てられた子犬のような零に、アニーは思わず胸がきゅんとなる。
その子犬は、
(ほら、デートでお化け屋敷って定番って言うらしいし一度ぐらいは……! やってみたいんだよな……!)
なんて内心思っていたりする。
必死の思いが伝わったのか、折れたのはアニーだった。
「絶対……離れないって約束してくれるなら……!」
涙目で震えながら言うアニーに、今度は零の胸がぎゅっと締め付けられる。
自分の我儘で怖い目に合わせるのだ。彼女の傍を離れない。繋いだ手を離さないと強く心に誓う。
「大丈夫!絶対離さないから……約束する!」
強く手を握りしめれば、アニーはプルプルと震えながら縋りつくように零の手を握り返した。
●隣にいるアニーが可愛すぎて仕方ないんですが
「ようこそ呪われた館へ……」
不気味に笑う案内人から説明を受けた二人は、早速手を繋いだまま中に入った。
薄暗い洋館のエントランスホールでまず二人を待っていたのはお決まりの急に閉じて鍵のかかる玄関。
「ど、どどどどどうしよう零くん! ドアしまっちゃったよ!?」
ガチャリという音にアニーは慌ててドアノブを回すも、少ししまわった時点でがちゃがちゃと音を立てる。
「だ、大丈夫だアニー! 出口はこの先だから!」
繋いだ手を強く握りしめて安心させようとする零。その言葉にドアではなく零のほうを見たアニーは、零の後方に立つ生気のない人影に喉元まで悲鳴が上がる。
「アニー?」
「れれれれれれいくんうしろぉ!」
泣きそうになりながら後ろを指さすアニーに、零も恐る恐る振りかえる。だがそこには誰もいない。静寂の世界があるだけ。
「嘘……。さっきまで、女の子が……」
「アニーが嘘つくなんて思ってないよ。きっと何か仕掛けがあるはずだ」
安心させるように言うと、アニーは半泣きのまま頷く。
可愛い。
正直この時点で可愛い。
いや、アニーはいつも可愛い。
涙が微かな光を反射させてアニーのルビーのような瞳をキラキラと輝かせる。
思わず胸をときめかせる零だったが、いつまでもアニーを怖がらせるわけには行かない。
「俺が先に行くから」
少しでも怖がらせないようにと手を繋いだまま一歩先を歩き始めた零に、今度はアニーがどきりとときめく。
(零くんも、震えてるのに……)
自分も怖いのに、アニーのために前に出るその姿に恋する乙女にはとても輝いて見えた。
二人の足音だけが響く中、ゆっくりと進んでいく。
「何も、ないな……」
アニーが女の子を見たというあたりまで来たが、人の気配も動くものの気配もない。
「でも、この辺りにいたの……」
不安そうに周囲を見渡すアニーに、零はこくりと頷く。
「まだ入り口だからそこまで過激なのは出てこないはずだ。急いで抜けよう」
エントランスを抜けるドアはもう目の前。二人は頷きあって足を速めた。その時――。
――モウイッチャウノ?
幼い女の子の声が聞こえた。
恐る恐る振りかえると、アニーの腰辺りまでしかない幼い女の子が、アニーのすぐ後ろに立っていた。
――アソボウ?
ぼさぼさの髪。擦り切れた元は綺麗であっただろう服。貼り付けたような笑顔を浮かべた生気の感じられない表情。そして、何よりアニーに向けて伸ばされる、赤黒く汚れた手。
「いやぁぁぁぁぁ! 無理ぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
咄嗟に零に抱き着くと、アニーは買ったばかりの荷物を振り回す。
幸い軽くて柔らかい物ばかりなので当たっても痛くないが、それよりも零は全身で感じるぬくもりと香りに硬直してしまった。
なにこれあったかい。柔らかい。いい匂いがする。
思わず抱きしめ返すと、パニック状態のアニーは早く逃げてと零を急かす。それを受けて、はっと我に返った零はアニーを抱き上げて走り出した。
半ば体当たりでドアを開け、すぐに閉めればほっと一息。
「アニー。もう大丈夫。ドアを閉めたからあの子は来ないよ」
腕の中でぎゅうぎゅうと抱き着いてくるアニーにドキドキしながら声をかけると、少し落ち着いたのか、アニーは涙にぬれた顔を上げた。
「もう大丈夫……?」
「あぁ。ドアを閉めたからもう大丈夫」
安心させるように笑顔を向ければ、アニーはほっと肩の力を抜く。
そして――。
(こ、これ……お姫様、だっこ……だよね……!? この状態で運んで貰ったの……!?)
気づいてしまった。零に、お姫様抱っこされていることに……!!
(すごい、近い……! 零くんに、抱きかかえられてる……! ど、どうしよう。わ、私……!)
「重いよね……」
今までのときめく乙女から一転、アニーは暗いオーラを漂わせる。
お姫様抱っこは乙女のロマンだけど、抱きかかえられると全体重を預けることになる。つまり、大体の体重がばれてしまう欠点もあるのだ。
「え!? いや、そんなことないぞ!?
羽みたいって言ったら信じてもらえないけど、凄く軽いし、柔らかくて、良い匂いだ!」
そんなアニーを見て今度は零が慌てふためく。ついでに色々堪能していた物を口にしてしまった。
「と、とにかく、アニーは凄く軽いから! 何ならこのまま出口まで運べるぐらい!」
「えぇぇ!? 重くないなら安心だけど、それは流石に零くんが大変だから歩くよ!」
二人揃って赤くなってわたわたぱたぱた。
お化けたちが出て行って良いのか戸惑うぐらいの狼狽え具合だ。
「と、とりあえず進もうか……」
「うん……」
赤くなったままぎゅっと手を握りしめて歩き出す。だけどその手は零にしては妙に小さくて硬くて――零がいるのとは反対の手で。
恐る恐る握られた手のほうを見ると、そこにはエントランスに閉じ込めたはずの少女が薄く笑っていて。
「……!!!! いやぁー!!!!!!!」
限界を超えたアニーの悲鳴が響いた。
――アソボウ?
「遊ばないぃぃ!!!」
泣きながら零にしがみつくと、零は慌ててアニーの手を引いて走り出す。
「こっちだ!」
少女とは逆方向に走り出した二人は、廊下を曲がって曲がってやっと一息。だけど恐怖はまだ終わらない。
カチカチと響く音は廊下に置かれた古時計の秒針が動く音。
やけに響くそれを不審に思ったころ、秒針は始まりと終わりを指す。
ボーン……ボーン……ボーン……。
低い音で狂った時間を告げる古時計。何が起きるのかと身構えていた二人だが、そんな二人にお構いなしに時計は静かになる。
「……行こう」
「うん……」
緊張で手が汗ばむけど、繋いだ手を離すのが怖い。
無言のまま硬く手を握りしめて歩いていた二人は、違和感に襲われる。
普通の廊下だ。薄暗くて周りが良く見えないけど、絵が飾ってあるだけで特に不審な点はない。
二人が通るのに合わせてお淑やかに微笑んでいたいた女性がニタリと笑い、触れるか触れないかで額縁の中から手を伸ばす子供たち。そして。
――トラエロ。
――トラエロ。
――ツカマエテ
――ワタシタチのナカマに!
一斉に笑い出し、二人に向かって手を伸ばすキャンバスの住民たちに、二人は悲鳴を上げて抱き合った。
「ぎやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
恐怖のあまりパニックに陥ったアニーに抱き着かれ、零はアニーの手を強く握って走り始めた。
(なんだよあれ! お化け屋敷ってこんな本格的なの!? 想像以上に怖いんだだけど!!)
元いた世界で入ったお化け屋敷より、明らかに怖さの桁が違うことに恐怖を困惑を隠せない。
だけど今は隣にアニーがいる。無理を押して一緒に入って貰ったアニーにこれ以上怖い思いをさせないためにもしっかりと彼女の手を握っているが、一人だったら確実に全力ダッシュで駆け抜けている。
すり抜けるお化けに追いかけてくるアンデット。一見可愛いのに、花びらの間にニタリと笑う口のある花たち。
幾度となく響くアニーの悲鳴にお化けたちは大喜び。
けたけたと響く笑い声を背に、零はアニーを庇うようにしながら前に進む。
「大丈夫だアニー。出口はもうすぐだ!」
遠くに見えた明かりに声を張り上げると、アニーも震える声で応える。
「うん!」
――ニガサヌ!
最後に鎌を振り上げる鎧の隙をついて、微かに光が漏れているドアを開ければそこは――。
●最後のホラー
「あれ? ちょっと前に冷感タオルをお揃いで買っていったお客さんですよね? なんでバックヤードに?」
きょとんと首を傾げる雑貨屋の店員。
コンクリートの壁に雑多に置かれた商品の入った段ボール。
「え? え?」
状況が呑み込めない二人は、雑貨屋の店員にお化け屋敷に行ったことを説明した。
「必死になって出口から出たら、ここにいたんです」
「いやいや、ここドアなんてないですよ?」
「「え!?」」
二人の声が綺麗にはもって、慌てて振り返るも確かにそこにドアなんてない。
「そもそもあのお化け屋敷子供向けのなのに、不思議だなぁ……」
首を傾げる店員に促されてバックヤードから出た二人は、近くの喫茶店で温かい飲み物を頼んだ。
「お化け屋敷も怖かったけど、出た後も何がどうなってるんだか……」
「まだ震えが止まらないよ……」
涙は落ち着いたけど、まだ恐怖による震えは残っている。
「……こうすれば、少しはあったかいかな?」
目の前で震えるアニーを見た零は、思い切ってアニーの横に座った。
その行動に、触れ合う場所から感じるぬくもりに、アニーが目を見開く。
「まだ寒いか……?」
心配そうにのぞき込んでくる零に、寒いを通り越して熱くなっていく。
「だ、大丈夫! 零くんのおかげで、ぽかぽかになったよ!」
「そうか? なら良かった」
ほっとした様子で微笑む零に、アニーはそっともたれ掛かる。
「でも、思い出したらまた怖くなるから、もう少しこのままでいてくれる?」
きゅっと手を握りしめられ、零はそっと握り返す。
「勿論だよ。アニーが望むなら、いつだって傍にいるし、凭れてくれて良いよ」
甘いココアとクッキーよりも甘い空気の二人。
だけど残念。折角お化け屋敷に紛れて招いたのに逃げられちゃった。
もっともっと遊びたかったなぁ。
また遊びに来てね。
その時はもっと沢山、アソボウネ?