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しあわせな色の幸せなカタチ
登場人物一覧
●それはとっても、大好きな
今日も今日とて、ランドウェラは向こうをふらふら、こっちをふらふら。なんといっても、彼は『旅人』。
しかし、無計画にふらついてる訳ではなく。お目当ての品は、ちゃんとある。求め求めて、辿り着いたのはとある街。
旅人の探しものは星……の形をした砂糖菓子、『コンペイトウ』と彼が呼ぶもの。ふわふわと掴みどころのない彼が、一貫して愛するお菓子。混沌にやって来た時も持っていたのだが、気が付けば容器はからっぽで。
「ああ、やっちゃったか……」
この世界での振る舞い方、過ごし方、力の振るい方。勝手が分からず苦労する事も多く、そんな時も、この小さな星々が励ましてくれたのに。
キボウの星は、ここはもう無い。けれど、この混沌には日々、沢山のモノが流れてくる。
何しろ混沌だ。もしかしたら、この地でも見つかるかも知れない。
「……よし、探しに行こう」
●星が導く、不可思議な
「……ん?」
辿り着いたのは、大きな街のメインストリートか。普段から人が多そうな場所だが、それにしても、日常のそれとは『色が違う』。
談笑しながら行き交う人々に、ずらりと並ぶ食べ物、雑貨。それらを扱う、追いきれないほどの露店の数々。
「お祭りの日……かな」
世界の色彩は一段と豊かに、それでいて、喜びの色に満ちている。
何処の世界でも、祭りの色は賑やかで。感じる世界と人々の感情は、色鮮やかに。色で世界を知覚するランドウェラにとって、実に心が躍るモノのひとつだ。
「そうだ。ここなら、もしかしたら……」
最近は大規模な召喚があったと聞く。こんなにも色とりどりなこの場所ならば、あの星も何処かに埋もれているか。
よし、と意を決し、露店を端から端まで見て回る事にする。
まず感じたのは美味しそうな色、肉の串焼き。……全然違う。
次に感じたのはカラフルな、純然たる『色』。お目当ての星にも、様々な色がある。もしかしたらと近づいてみれば、その正体はカラフルな水飴。惜しい。けれど、かなり違う。
その次に感じたのは、キラキラと輝く色。少し硬い印象だ。様々な石を使ったアクセサリーか。
「……」
入って来る色の数が、情報の量が多い。人と情報の波に疲れた旅人は、ふうと溜め息。
こういう時こそ、あの甘い星々があったら、嬉しいんけど――
カラカラカラと、台車を引く音。移動する店か。
「……あ」
台車の中身は、先ほどの水飴や宝石のようにカラフルで、それらより少し柔らかく――あまくて甘い、小さな色の――
「……待って! それ、それもらえる!?」
「あいよー」
台車の主は車を止めて、小さな星をざっくり掬って瓶に詰め込み、蓋をして手渡す。
ひんやりとしたガラスの感触。瓶からは、虹色混じりの淡いブルーを感じる。リボンのように結ばれたイエローの紐が、中身の星をより引き立たせている。
「ああ、良かった……!」
愛してやまない小さな星、大好きなコンペイトウ。
「疲れてるし、久しぶりだし。一個だけなら……」
右腕は動かないので、左腕だけで蓋を開け。大切に大切に、瓶からひとつ取り出してみる。パステルイエロー。しあわせ色の、星のカタチ。
見つめるだけでも幸せだけど、口に入れても甘くて幸せ。ゆっくり溶かしながら食べても、噛み砕いてジャリジャリ感を楽しむのも、どちらもまたいい。
すぐに食べきってしまうのは勿体ないけれど、久しぶりの大好物だ。あ、どうしよう。手が止まらない。もうひとつ、もうひとつだけなら。
「――……?」
いくつ目だろうか。アクアマリンの星を口に含んだ時、幸せな甘さの更にその奥。
心の奥? ……どの辺りだろう? 手の届かない場所が、ギュッと締め付けられるような。不快ではない。
色にもコトバにも出来ない『これ』は、一体何で『誰』なのだろう?
もうひとつ食べたら分かるだろうか? そう思って、白い星をもうひとつまみ。変わらず甘い。 真っ黒な視界と思考の中、輝くのは砂糖菓子の星明かりのみ。
「何だったんだろう……」
しかし。とっても甘くて、こんなに素敵なコンペイトウにまつわる『これ』ならば。
きっと、僕の心の奥にもコンペイトウが、真っ暗な場所でもキラキラ光る甘いしあわせが、存在しているのろう。だからこんなにも、この星型の砂糖菓子に惹かれているんだ。
そう思うと、余計にこの砂糖菓子が愛おしく思えて。
「お兄さん、コンペイトー! もう10個もらっていい?」
しあわせの数は、あればあるほど良いのだ。