PandoraPartyProject

SS詳細

未来に誓うメリーバットエンド

登場人物一覧

アイラ・ディアグレイス(p3p006523)
生命の蝶
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)

●来客
 ――カランカラン。

 薄黒の髪揺らし、蝶を連れた少女――アイラは、良き友人であるErstineが営む茶店を訪れた。灼熱の砂漠を抜けた先にある『砂都茶店Mughamara』はラサで密かな人気の茶店となっているようで、アイラが人が少ないであろうと考えたランチ前の時間帯も、客足は絶えなかった。
「あらアイラさん! いらっしゃい」
「こんにちは、エルスさん。ええと……お忙しそうですね、ボクもお手伝いしましょうか?」
「いえ、大丈夫よ。少し待っていてくれるかしら?」
 店の扉に『本日貸し切り』の札をかけて戻ってきたErstineに慌てた様子を見せたアイラ。『私がこうしたいからなのだけれど……駄目、かしら』と拗ねた素振りまで見せられては致し方あるまい。アイラとてそこまで無礼ではない。それにアイラは騙されやすい方である。
 震える声音に思わず『はい!!』と元気に返事まで返してしまう。幾許かあとに見えた嬉しそうなErstineの様子には、アイスブルーの目をぱちぱちと瞬かせるばかりだった。


●約束は悪戯に
 カウンター越しに似た色の二人の少女。

 片や吸血鬼、月を忌み夜の檻に囚われた鎌使い。
 黒の正装を纏い、今は経営する茶店の店主として客を歓迎していた。
 片や半獣、冬を拒み乍らも雪を纏う蝶の魔術師。
 青の魔装束を纏い、今は木製の使い込まれているであろう椅子の上へと腰を下ろしていた。

 ヒトならざるモノが集っている、と言おうとも誰が信じようか。それ程までに少女達は『人間らしい』表情を見せるのだから。

 アイラは注文したショートケーキとアイスティーにご満悦。そんな様子を見たErstineは愛おしそうにくすくすと笑みを浮かべる。
 暑さに弱いアイラにとってラサなど生き地獄のようなものだ。けれど、親愛なるErstineのためだ、暑さなど振り切ってみせようではないか。その思いを胸にやって来た頃には汗まみれ、軽く脱水の域。へふう、と溜息を漏らす頃には身体も少しクールダウン。
 さて、お喋りを始めよう。女の子の殆どはお喋りが大好きなのだ。
「そういえば、アイラさんはどうしてここに?」
 不思議そうな顔をしてサファイアの瞳を瞬かせるErstineに、アイラは誇らしげに――とはいかず。アイスティーをぐぐっと飲み干してから改めて誇らしげに語った。
「エルスさんの最近のご様子が気になりまして。
 ……ほ、ほら。ボクとエルスさんって、街角や依頼の時にしかお話していなくて、こうやってお話したことはなかったかなぁ、って」
「成程ね。勿論、私は嬉しいから構わないわ。何でも、沢山。話しましょう?」
 カウンターに頬杖をつき、幼い様子で笑うアイラを微笑ましく思うErstine。然し乍らアイラもそこまでお子様ではない。何でも、にピクリと反応すると、にんまりと悪い笑顔で問い直すのだ。
「何でも、ですか?」
「……? ええ、なんで、も……」
 と、言ったところでErstineの顔はみるみる蒼白になる。それとは真逆に、アイラの頬は嬉しそうに紅潮していくのだが。
「恋バナとやらをしましょう、エルスさん! あ、アイスティーのおかわりも、おねがいします」
「わ、私の事なんて……っ!
 ア、アイラさんはどうなの? 私はアイラさんのお話を聞きたいわっ?」
 涼し気な硝子のグラスに氷をみっつ、それから予め冷やしておいた紅茶を注ぐ。普通ならキーンとした頭痛もいい所だが、アイラにはその位が適温だと云う事をErstineは知っている。
 黒のストローを刺してグラスを渡し、強調するように『ね?』と首を傾げて。アイラはストローからちゅーっとアイスティーを吸い上げると、美味しい、と呟き乍ら口を開いた。
「んー、と、ボク……ボクらのお話、ですか。……そういえば、夏になれば付き合って一年になります。記念日のお祝いをしたいなぁ、って」
「あら、そうなの? ふふ、それは良いことね。何か贈り物をするのかしら?」
「はい。その、彼はボクの盾ですから、魔術式を身体に刻もうかと思って。無茶ばかりしますから、消えない証をボクが刻むんです」
「ま、魔術式……? よくわからないけれど、頑張って頂戴ね?」
「勿論です! エルスさんに言われたら……頑張らない訳にもいきません。もともと頑張るつもりだったのですけれど、ますます頑張りたくなりました」
 幸せそうに右耳を揺らす蝶に触れて、アイラは頬を染めた。その表情は恋する乙女そのもの。なんだか熱くなってきました、と手で顔を仰ぐアイラが可愛らしいから、Erstineは微笑ましそうに見守って。
「そうだったのね。アイラさんにはチョコレートの作り方も教えてあげたから、そんなに幸せそうだと私まで嬉しくなるわ」
「その節はお世話になってしまいました……えへへ。
 でもでも、ボクのお話だけじゃなくて、そろそろエルスさんのお話も……ですよ?」
 なかなか勘のいいアイラは、Erstineが話を逸らしていたことをさりげなく指摘すると、逃がすまいといい笑顔を見せる。Erstineも流石に観念したのか、周りには誰も居ないのに念を入れて周りをきょろきょろ見渡してから、アイラの耳朶に口を近付けて耳元で囁いた。
「こ、ここだけの話なのだけれど……っ」
「はい!」
「あの方の誕生日に、贈り物をしてみたの……」
「わ、わっ……わぁぁ……! ど、どきどきしちゃいますね、ボクのことじゃないのに。
 それでそれで、反応はどうだったんですか?」
「一応、ええ、その……贈ってみたはみたけれど……その、それから会う機会はないのよ?
 そ、それに……数ある女性からの贈り物の一つになってると思うから……っ!」
 その一言を聞いてアイラはむっとした様子で口を開いた。
「なんでですか! 女性なんて星の数ほどいるかもしれませんけど、同じ人を好きになった人に負けるとでも思うのですか?!」
「そ、それはっ……!」
 珍しく感情を顕にしたアイラはあろうことか普段隠している狼の耳まで現して、声を大にしていた。Erstineが自信を持たないことを歯痒く思っていたアイラにとって、その発言はどれ程苦しかっただろうか。
 アイラが普段心優しい娘であることを知っているErstineにとっても、アイラが感情を剥き出しにして『吠えた』というのは、驚かざるを得ない。
「あっ、ぼ、ボクったら尻尾まで……!
 ご、ごめんなさい……その、はしたないところを。でも、エルスさんはとっても素敵なひとです。誰がなんと言おうと。
 だから、貴女が自分に劣等感に似た感情を覚えていたとしても、ボクは、貴女が好きですよ」
 凍てついたアイスブルーを愛で溶かして。アイラは優しく微笑んだ。ご機嫌に飛び出した蝶を慌てた様子で砕き、ふうと息を吐き。アイラは不愉快にさせていないだろうか、と様子を伺うようにErstineを見やる。Erstineは照れ臭そうに頬を染め乍ら頬を緩ませ、『私もよ、アイラさん』と小さく返した。
「さ、さて、ボクがお恥ずかしいところをお見せしたところで、何か話題を変えましょうか。恋バナばかりだと、ボク、飽きちゃいます。
 あ、そうだ! エルスさんのお誕生日って、何時なんですか?」
 ストローをグラスの底に沈めては浮かせて。アイラは閃いたように声をあげた。くすくすと笑い乍ら、Erstineは指を五と一の形にしてアイラに告げた。
「私の誕生日は六月六日……ゾロ目、なのよ?」
「ろくがつの、むいか、ですね?」
 ふむふむと頷いてから、アイラはポンと手を叩いた。
「なら、パーティをしましょう!」
「えっ? あ、アイラさん……?」
「ボクは……残念ながら、パーティというものをされたことはありません。
 ですからボクは、誰かのお誕生日をたくさんたくさん、お祝いしたいのです。
 生まれてきてくれてありがとう、って、たくさん。伝えたいんです」
「私のは気にしなくていいのよ……?」
 だめですか、と先程の仕返しのように、目を潤ませて見つめられてはErstineも敵わない。渋々首を縦に動かすと先程の涙は何処へやら、嬉しそうに笑うアイラの姿がそこに。
「ふふん。それじゃあ、六月六日にエルスさんのお友達もお誘いして、エルスさんのお家にお伺いしますね。ご都合は宜しかったですか?」
「か、構わないわ……その日は特に何も無かったと思うの」
 くすくす。ふふふ。幸せそうに響く二人の少女のこえ。幸せだろう。何せ、こんなにも楽しいのだから。
 しかし。
 店の壁に貼られた五月カレンダーの下、六月。その六日は満月であることを、Erstineは忘れていた――。

●過去の記憶、未来の自分
 アイラが店を去った後、Erstineは皿を洗っていた。この幸せな気持ちを壊したくないから、今日は早めに店仕舞いをしてしまおう、そう思いながら。
 ショートケーキとアイスティーを食べ終え支払いも済ませたアイラは『また来ますね』と呟いて、ラサの灼熱へと戻って行った。
 その背が昔よりも逞しくなったことを喜ばしく思いながら、自分も負けていられないな、と改めて気合いを入れ直す。
(そうよ……私は恋にも満月にも、負けていられないわ!)
 ぐっと拳を握る。その手の中には白い泡。壊れやすい泡は、儚くて、美しい。

 幸せとはいつか壊れるものだ。
 六月六日、満月。Erstineはその日を『楽しみに』待つのだった。

  • 未来に誓うメリーバットエンド完了
  • NM名
  • 種別SS
  • 納品日2020年05月01日
  • ・アイラ・ディアグレイス(p3p006523
    ・エルス・ティーネ(p3p007325

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