PandoraPartyProject

SS詳細

武器商人と冥夜とクロサイトの話

登場人物一覧

武器商人(p3p001107)
闇之雲
クロサイト=F=キャラハン(p3p004306)
観劇家
鵜来巣 冥夜(p3p008218)
Black rain

 寒い夜だ。穀雨の名が泣くほどの霧雨。玄関先で喚いているのが何者か、既にわかっていた。小枝をぱきりと折った武器商人は、それを暖炉の炎へ投げ込んだ。玄関が開かれたのが波のように意識へ伝わってくる。扉を開いたのは武器商人だから当然のこと。ふたつの足音が近づいてきた。
「さっきから嫁が嫁がとそのことばかり。家を守ろうという気概はないのか!」
「妻さえ良ければ私はそれで。……声が大きいですよ。ここはご主人様のお屋敷です、静粛に」
 今日が初顔合わせとは思えない険悪な響き。
「話にならないですね」
「俺がオシャベリをしたいとでも思ってるのか、よりによってこんな雨の日に! わかっていて今夜訪ねると決めたのか、この悲劇野郎!」
「はあ、馬の骨は語彙が豊富で結構なことですね。率直かつ端的でありながら物事の本質をお見事に捉えた表現は、この私など足元にも及びませんとも」
「俺がこらえてやっているというのに揉め事が大好きだな、その舌は。まさか伝説の大蛇のように八ツに分かれちゃいないだろうな?」
 乱暴にドアノブを回す音。おやいけない、こっちを開くのを忘れていた。ソファへ深く腰掛けたまま武器商人はショールを羽織り直した。やかましく鳴っていたドアが突然開く。
「おわっ!」
 黒髪の秘宝種が顔から絨毯へ突っ込んだ。その後ろからひょっこりと姿を表したクロサイトが口元に手をあてる。
「スライディング土下座ですか? さすがにご主人様への礼儀は心得ているようで安心しました、ふっ、くく……」
「殴られたくてたまらんようだな、悲劇野郎め」
 顔をあげたレガシーゼロ、冥夜はクロサイト相手に毒づくと姿勢を正した。
「遅くに失礼いたします、店主。今宵はお願いがあっ……」
「ご主人様、ああ、招き入れてくださりありがとうございます!」
 冥夜を無視してクロサイトが武器商人へ駆け寄り足元へひざまずく。もの柔らかで品の良さを感じさせる整ったかんばせが武器商人を見上げていた。武器商人は彼の頭を撫でると隣のソファへ座るよう促し、冥夜に視線をやる。
「用向きは知っているとも、おすわり、セパード」
 冥夜は一礼すると空いていたソファへ腰を下ろした。
「さっそくですが本題へ入ります。私には……」
「攻め手を増やすが似合いだろうねぇ」
 さっきから最後まで言えずにいると冥夜は思った。同時に、この『店主』へ底知れないものを改めて感じ顎へ手を添える。
「何故そのようにお考えなのですか」
「まずは茶でもお飲み」
 武器商人はゆるゆると手を伸ばし、いつの間にか現れた丸テーブルからティーカップを取るとパウンドケーキを勧めた。ブランデーの香りがくゆる。
「ご主人様、ご存知でしょうが私は家へ戻らねばならなくなりまして、修行の成果でも見せなくてはと」
「覚悟は決まったのかぃ?」
「……矢文で、赤札が、これ以上は、さすがに、ええ」
「ヒヒッ! そんな気はしていたけれども。そうだねぇ、フォルネウスは守護者になるがいい」
 武器商人は華奢なフォークでパウンドケーキを崩すと、小鳥の餌ほどのかけらを味わった。向かいに座る冥夜は緊張した面持ちで武器商人を見つめている。じつに忠犬、例えるなら牧羊犬、愛嬌もあるし頭もいい、貪欲さも貪婪さも隠し持っている。猟犬の勇猛まで走り出せばきっとあっという間。ただ最初の一歩は導いてやらねばなるまい。武器商人は足を組んでみせた。
「理由はね、ちゃァんとある。安心おし。フォルネウスもセパードも神秘へ長けているから、それを伸ばすのが道理。神秘の、と言ったけれども、呼び方は魔力でも霊力でもいい。根源は同じだ。ここでは単純に『力』と呼ぼう。フォルネウスの場合は混沌を無数に走る力の流れを掴み取り操っている。セパードは己を削り輝くことで大きな力を魅了し使役する」
 武器商人はフォークを教鞭代わりにゆらゆら揺らした。 
「セパード、キミの祓えは確かなものだ。ただ今のままでは目標の相手ともなると、文字通り『掃う』、遠ざける、よくて退けることしかできない。ならばこれからは、封じる、屠る、滅ぼす、消し去る、と段階を踏んでいくがいい。呪術の基礎理論は存在の否定。極論すれば剣の攻撃だって敵対存在の否定だ。否定され傷つかないモノはいやしない、より強い否定を叩きつければ対象を雲散霧消させることができる」
「おお……」
 冥夜は感嘆を漏らした。どこまで知られているのか気にはなったが、それよりも教えがシンプルで、わかりやすかったからだ。経験と技術の雑然とした積み重ねが頭の中で体系立って整えられる。叔父から受けた鉄拳交じりの指導が、いかに非効率だったことか。
「まずは捕縛を意識することだね。麻痺だとか封印だとかは、低級な術ではあるが意外と馬鹿にできない。そのうえで強い精神力を用いて確実にとどめを刺せるようにならなくては。祓ったモノすべてが消滅するわけではないと、セパードならわかっているだろう?」
 自尊心をくすぐる声音。たしかにと冥夜はうなずいた。禍事罪穢れは根深くも、あさきゆめ。悪夢の蟻地獄に囚われた人を救い出すのが退魔。その悪夢の残滓はというと輪廻転生でもするように寄り集まり新たな犠牲者へ憑く。ゆえに冥夜のような退魔師が必要とされ、鵜来巣家は続いてきた。終わらないイタチごっこ、だからと投げ出すわけにもいかない。あさきゆめとの戦いは生存競争でもあるのだ。それに何より……金が欲しい。
 冥夜は商売道具を取り出した。独自開発のアプリケーション「JUIN」。冥夜の切り札。冥夜はJUINを立ち上げ、武器商人へスマホを差し出した。
「おかげで視界の霧が晴れた気分です。もしよろしければ、こちらも評価していただけませんか」
 受け取った武器商人はそれをいじりだした。ふわり。画面から律令の如く急急にせよとの呪文が溢れだしネオンブルーに輝いて美しい円を描く。真円、満月、宇宙、完璧の象徴。コードを眺めていた武器商人が薄く笑う。
「いい仕事をするじゃないか。妖精さんかい、ヒヒ、勤勉なことだ。長い祓言葉を圧縮し高速詠唱を可能にしたものだね」
「お言葉通りです。命がけの戦いにおいて、敵がのんびり待ってくれるわけがありませんから」
「分岐が多いのが気になるね。もう少し詰めて精度を上げたら、このアプリを使って溜めこむ時間が必要なほどの力を瞬時に解放できるようになるだろうとも。それとここの指定は間違っているよ」
「たまに妙な挙動をすると思っていたら……ご指導いただきありがとうございます」
 穏やかな微笑を浮かべ、冥夜はやっと茶を一口。レモンティーのシンプルで爽やかな酸味が舌へ広がる。
 クロサイトが期待を込めた瞳を武器商人へ向けた。
「ご主人様、私は?」
「フォルネウスは使いすぎだね。もう少し抑える練習をしないと」
「……まだまだと思っていたのですが」
「逆だよ、逆。バケツ一杯の水をぶちまけているようなものだ。バケツが大樽になったらそりゃ強力だろうけれど、いっそ、そのまま投げつけたほうが強かろ? 我(アタシ)の眷属だけあって力の流れを掴むも操るも上手くいっている。あとは発動までの手順を丁寧に行うといい」
「私自身は不満な量しか力を行使できないと感じています」
「そうだろうね。実は過剰なんだよ、かわいいフォルネウス。だけどねぇ、現状のまま力を強引に引き寄せても体がついていけなくなるよ」
 クロサイトはケーキといっしょにフォークをくわえた。どこか困ったような拗ねたような、悩んでいるような表情。武器商人の教えに、まだ実感が伴わないのだろう。そんなクロサイトの頭を武器商人はもう一度撫でてやる。伸びてくる、ほっそりした手を見て、自分から頭を下げ撫でられ待ちをするクロサイトに武器商人は相好を崩した。
「ひとまず、そこで衝撃の青を撃ってごらん。あァ、加減してだよ?」
 かしこまりましたとクロサイトはぺこり。立ち上がり数歩。武器商人と冥夜へ背を向け、部屋の中央、何もないところを狙い軽く掌底をくりだす。
 ――ドン!
 閃光が奔り、部屋が揺れた。ティーカップがソーサーの上で踊って中身がこぼれる。水滴が服へ跳ね、むっとした冥夜が、ハンカチでその部分を押さえながらクロサイトを睨みつけた。
「背後まで衝撃が来ているよ。加減してそうなのだから力が拡散しているのがわかるかい? 総量ではかなりを行使しているんだよ」
「ああ、なるほど……」
「拡散はひとつの才能だ。今のところフォルネウスは意識して使いこなせてはいないけれど、拡散を超えて放出、さらには全面へ展開できるようになれば高位の守護者になれるだろう。心に決めた存在だって守れるようになるだろうね。そのためには、そうだね、海から蒸発した水が雲になり雨が降りまた海へ還るように、力を充ちみたすサイクルを作り上げてしまうといい」
「ですが、威力が物足りなくなるのではないでしょうか」
「最初はそうだろうとも。けれどもそれ以上に戦場では何が起きるかわからない。予想外の事態に備えて手順を丁寧に行い体へ覚えこませておくといい」
「はい、わかりました」
 クロサイトはすなおにうなずいた。そして物寂し気な横顔になる。
「……妻の眼鏡にかなうでしょうか、私は」
「ヒヒッ、そこは安心おし。期待外れの旦那へ三行半を叩きつけたりなんかしない奥ゆかしい方かね?」
「逆ですね、逆」
 再び苦笑いしたクロサイトは席へ戻ると、変わらず湯気を立てているそれを楽しむ。そして寝物語でもせがむように武器商人を見やった。
「私たちが行使している『力』とはそもそも何なのでしょう、ご主人様」
「それに関しては私も興味があります」
 冥夜も落ち着いた様子で武器商人へ向き直った。
「長くなるよぅ? 居眠りしない自信があるなら聞くといい」
 深夜、霧の底、世界の琴線を弾く講義は密やかに続く。
 誰も寝てはならぬ。その妙なる調べを耳にしたいのならば。

  • 武器商人と冥夜とクロサイトの話完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別SS
  • 難易度
  • 冒険終了日時2020年04月24日 22時10分
  • 登場人物3人

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