遅延星アルコール宙独

登場人物一覧

　七つの星が一個、グラスに落ちて転がったならば。世界は瞬く間に黄金色で、君達は神様の贈り物を認識するに違いない。餓え続けた水槽の裏側はきっと夢で、惰性でアルコールを鯨飲した結末なのだ。顔色が不思議と宜しくて、真に正しい毒素は抜ける事を知らない。ねえ。いらっしゃい。今日のオススメは創作七色だとも――独り、ころからと啼く氷を見つめていた。表面を舐った粘つく甘さは、その外見からは想像し難いほどに『強い』雫だった。次は何を注ごうか。永劫に『止まない』病むような雨が、眼球のように回転している。鏡を見る必要は無かったのだ。根元から先端まで貴婦人が寄り憑きそうな蜂蜜色――誰かがぐるぐると中身を混ぜ込んで、それが頭蓋に視えたのは気の所為。酔っ払いの戯言だと隣の曖昧が嘲ったが、おかしい、そもそも己は場に『居なかった』筈だ。まるで頁が無意識の内に捲れたが如く、オマエはどろどろと泥に這い蹲る――神に縋った小人達が黄色の王様を求めて駆け回っていた。つんつんと肩に触れても彼等は走り、奔った視線が酷く気分が悪い……好いのかも知れない。痴れた内臓がブチ撒けられても世の中は人を呑み込むのだから。脱力感。気力が底に蓄えられて、まぜるのが下手だなバーテンダー。転々と椅子から地面へ肉を投げ、魂は最早ドコに向かう。この浮遊感が現実か夢か解せないが、断章を辿るのも酩酊者の義務だろう。プレアデスに盃を傾ければ、団体様のご到着だ。図書館に何を望むのだい。のんだくれの座す椅子など無い。サッサと失せなよ、お嬢さん。お嬢さんですって。嬉しいわねぇ――放り出された暗黒に『もどす』のか。息苦しさも何もない。そうさ酔わねば損なのだ。出来損ないの宇宙空間でくるくると踊れば妙なまでに冷静で在った。レディーを殺すには度数が足りない。物足りない。重力無き中心で混沌が沸騰している。カルーア・ミルクが渦を巻いたら、愈々緑の奥側が限界を越える。ぐってりと横……上下左右って何だったか……に成り、更なる向こう側へと迎え酒か。よう、アンタは何処まで泳ぎたいんだい。ええっと。そうねぇ。行けるとこまで行きたいわぁ……ところであなたは誰かしら。誰でも無いとも早く進みなさい。酒が大好きな昆虫達が、脳髄に餓えて蔓延っているのだから――危険な場所には行けないけれど、夢幻ならば畏れはない。ぶぅぅん――機械音は幻聴だ。反対方向から迫り来る私を乗り越えて、真っ赤な星達の湖を飲んで呑まれてアイするトマト。誰が何と吐いたって私は宙を掻き分けて終うのだ。おや。終いですって。まだ中途半端！　胃袋が一個でも四個でも空っぽにすれば波だってお持ち帰り――前方？　ええ。前方だ。逆三角形が聳えていて、中から涌き出す蛆の群れはミルキーな肴。ボンボンをポンポンと弄んだならばグラスに潰しておいしかったのさ。あれって絶滅危惧種なんじゃないの。滅茶苦茶な事を告げないでくれよ、あなたの大嘘『吐』き！　第四の惑星には無い、這い酔った神様の美貌は如何だ。可愛らしいわねぇ。食べちゃいたい――程々にして次の場所に往こう。乞うた魂の輪郭はもう、忘れて往こう。匙を投げた医者なんて素敵な葡萄酒の匂いで狂ってしまえ。ぐわんぐわん……熱発のような感覚が精神の芯に届いて。
　――此処は何処だろう。貌を上げる。脳味噌を圧縮するかのような鈍痛が、思考回路の邪魔をした。確かに私は魂を抜いて、奇怪蔓延る幻想を旅していた筈だ。めまいを抑え込むようにゆっくりと立ち上がり、抜けきれない黄金髪をなぞって鏡へ……部屋か。酒場ではない。あの時のあなたも夢だったのかしら……しかし二日酔いとは『らしくない』失態だ。最後の一杯の種類すらも思い出せない。ところで机の上にも床の上にも瓶やグラスが見当たらないのは――背中に冷たいものがフレた。恋が拭われたかの如く、寂しさと悲しさが同時に押し寄せる……懐かしい舌触り噛み応え……あなたは私の事を、誰かに教えたのかしらねぇ。などと虚空に言葉を漏らしても、返事何て来やしない。如何してこんなにも泣いてしまいたいのか。食前酒が此処まで想い――。
　蓮が脳天に乗っかった。何方が真実かも解せない儘に、再び闇黒を漂っている。窓の外へ肉を棄て、心が剥離した心地が喜ばしいのだ。恍惚とアルコールは繋がっており、そうとも今が至福の無限大。酔う。誰かの声が直に『心』を握り潰した――真っ白な仮面を被って舞踏会に参加しよう。酒場の皆が私を囲んで、イッキイッキと呼び掛ける。大丈夫だ。皆で飛び出せば怖くない。恐くない。今日だって皆正気なのだから――はじけた炭酸が黄金と遭って、貴婦人は改めて私たちを連れ去った。

　安息がこんこんと揺らぐ最も深い酒気の底なし。渇いて餓えてタダ踊らされ、遂には名状し難く蠕動した。接吻する羊飼いの神様に私は追い掛けられて『こう』怒られた――未だ此方に来るのは早いです。