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ある家族のお話

登場人物一覧

ムラデン・R・スイテングウ(p3n000334)
君だけの赤き星
妙見子・R・スイテングウ(p3p010644)
僕だけの青空

 宝物を見に行かないか、と、その人は言うのです。
 それは、日常の中に埋没した想い出。
 当たり前のように、ある日突然、思いつきのように起きて、当たり前の日常だと笑って過ごせる、そんな特別ではない特別な一日。
「つまり、ピクニックのお誘いですね」
 と、少しばかり落ち着いた、お母さんは言うのです。長かった髪の毛を切ったのは、子育ての為に邪魔でしょう? と、そう言って笑ったからでしたけれど、お父さんからしたら、少しもったいないな、と思うのでした。
「そう。久しぶりだったかな、って」
 以前に比べれば、少し声が低くなって、でも背は高くなったお父さんは、でもかつての少年の時のように、すこし気恥ずかしげに言うのでした。傍らには、お父さんの手を握る赤毛の女の子がいて、その子は少しおっとりとした様子で、父と母へと視線を送るのでした。
「お出かけ?」
 と、赤毛の女の子が言うのへ、お父さんは頷くのです。
「そう。君達も、そろそろ、もうちょっととおくに出かけても良いかな、って。
 いや、ストイシャにも言われたんだ……ちょっと過保護すぎないか、って。あいつ子供まだ居ないくせに、よくも」
 こほん、と咳払いを一つ。
「まぁ、それは良いんだけど、とにかく、ちょっと出かけたくなった、というか。
 どうかな。また、お弁当でも持ってさ」
 そういうわけなのですが、何せ覇竜領域の外は、平和になった今でさえも、相応に危険です。まぁ、お父さんとお母さんが居るならば、そんなものはちょちょいのちょい、でしょうけれど。でも、妙見子の傍らでたたずむ、黒髪の男の子にとっても、相応に危ない場所なのは確かではあるのです。
「うーん……確かに、最近は、ワイヴァーンもあまり活発ではないですからねぇ」
 と、お母さんが言うのへ、黒髪の少年は、お父さん譲りの瞳を、勇敢に細めて、言うのです。
「大丈夫だよ。わいばーんなんて、僕がやっつけてあげるから!」
 そういって、ぎゅー、と母親に抱きつく男の子は、生意気さと、まだまだ甘えたい盛りの心が見えるものです。赤毛の女の子も、とてとてと走って行って、おかあさんに、ぎゅう、とだきつくのですが、お母さんは、そんな二人を、「あらあら」なんて、些か落ち着いた様子で、頭をなでてあげるのでした。
「ふふ、二人とも、頼りになりますねぇ」
「ふふ~」
 幸せそうに、母親譲りの青い瞳を細める女の子は、そのままうとうとと眠ってしまいそうでしたが、むむむ、と声を上げて、顔をふるふると振ってみせるのでした。
「だいじょうぶ。たみこママは、私がまもります!」
 といってみせるのですから、なんだかんだ、両親によく似た二人なのでしょう。でも、双子だからって、どっちがお兄さんかお姉さんかもめるのは、なんともお父さんと叔母さん(或いは伯母さん)らしかったわけですが、そんなところも、なんとなく嬉しく、しかし「たみこの似ているところは……?」と、複雑な気持ちになってしまうお母さんでした。
「まぁ、とにかく。
 宝物を見に行きたい……というか、見せたいんだよね。
 お母さんには、前に見せたことがあるだろう?」
 と、お父さんがそういうのへ、お母さんは、「ああ」と、合点がいったように声を上げました。「なるほど、アレですねぇ」と、楽しそうに笑うものですから、男の子と女の子は、「え! なぁに、それ!」「パパとママばっかり、ずるいです!」と、わぁわぁと言うのでした。お母さんは、ぽんぽん、と二人の頭をなでてあげて、
「ですから、見に行こう、という話なんですよ。
 それから、お泊まりの準備もしていきましょう。
 夕方ぐらいに着くように出かけて、そのまま、キャンプをしましょうね」
「キャンプ!?」
「お外で寝るの、初めてです!」
 と、子供達が元気よくはしゃぐのを、お父さんはどこか楽しげに見つめているのでした。
「そりゃ、君達がどれだけ強くたって、覇竜で野宿は危険だ。
 僕だって、もうちょっと大人になってからしたもんだよ」
「慎重だけなら、もうすぐお父さんの若いころに近づきそうですけれどね?」
「お母さんだって、そんなに変わんなかっただろう……まぁ、その。身長の話はいいや。僕は今のきみも好きだ」
 こほん、とお父さんは咳払い。
「それじゃあ、お弁当を作ろうか。
 お母さん、二人とお弁当を作り始めておいて。
 僕は、キャンプ用具なんかを出してくるから。
 終わったら、そっちに合流するよ」
「まって、僕がお父さんと、キャンプの道具持ってくる!」
 男の子がそういうのへ、妙見子は頷きました。
「そうですねぇ。お父さんだけだと、日が暮れちゃいますからねぇ」
 くすくすと笑うお母さんに、お父さんは肩を落としました。
「はいはい、じゃあ、きみはついてきて」
「私は、おかあさんとお弁当です?」
 そう、女の子が言うのへ、妙見子は頷きました。
「二人が戻ってくる前に作り終えて、どや顔しちゃいましょう」
「うわ、絶対さっさと準備終えて煽ってやろ。な」
 おかあさんの言葉にお父さんが笑うのへ、男の子も女の子も、笑うのでした。

 結局、その対決にどっちが勝ったのかと言えば、見事に引き分けだったので、きっとすごく仲の良い家族なのでしょう。四人は、お昼過ぎにお家を出ました。お家のあたりは未だ安全なので、子供達にとっても見慣れた光景でしたけれど、少し進んでみると、あっという間に見たことのない場所になるのでした。おとうさんとおかあさんにはもう見慣れた光景だったでしょう。おとうさんの、いわゆる実家があった場所は、相変わらずどこかおどろおどろしいものでしたが、その森の奥に住むおばあちゃんは、森にあふれる毒を使って、病気や怪我の治療に使っているのだそうです。時折、遠くの都会の方にも出かけるのだとか。
 さておき、そんな様々な光景は、子供達にとって、初めて見る、時に怖くて、時に美しくて、とても楽しい散歩の時間に間違いありませんでした。気の強そうな男の子が、それでもぎゅ、とおかあさんの手を握るのを、おかあさんは微笑ましく握り返してあげました。おとうさんは、子供達も、おかあさんも守るように、あたりに気をはっていましたが、それでも、優しい笑顔を浮かべて、子供達に言うのです。
「このあたりは、そんなに危なくはないからね。
 でも、おとうさんとお母さんの側は離れないで」
「おかあさんのじっか? より、あぶないんですね」
 と、女の子が言うのへ、おとうさんは少し苦笑しました。
「そういえば、そろそろお正月だから、おかあさんの神社の方にも行かないとね」
「正月に、旅人とはいえ神様と、現役の竜が帰ってくる神社、冷静に考えるとすごいですよねぇ……」
 おかあさんがくすくすと笑います。もしかしたら現地の方では、ものすごい霊験あらたかな神社として祭り上げられているかもしれませんが、子供達にとっては、たまに遊びに行く不思議なお家、でしかないのかもしれません。そのあたりは、子供の無邪気さと言いましょうか。おとうさんとおかあさんも、楽しげに笑うものでした。
「わいばーんも、あんまり飛んでないね」
 と、男の子が言うのへ、お父さんは頷きました。
「まぁ、眷属に言い聞かせてちょっと追い払ってもらったからね……ううん、今度何かご飯でも持っていってあげようか……」
「カムイグラのあたりのお魚とかどうですぅ?」
「ああ、干物にしたら日持ちしそうだからね。良いかも」
 と、おとうさんとおかあさんがご近所……というか、部下? に対しての心配りを気にしているわけですが、子供達にとってはちんぷんかんぷんなお話です。まぁ、まぁ、それこそさておき。しばらく家族が進むと、やがて開けた草原に出ました。どこか爽やかさを感じさせる草木の香りは、ここが竜の領域であることを考えても、胸のすくような、心地よい居場所でした。
「ひろーい!」
「ひろーい!」
 子供達が飛び出そうとするのを、一瞬止めようとしてから、おかあさんとおとうさんは、そのままにしました。大丈夫だろう、という判断です。頑丈な子達ですから、そう簡単に怪我はしないでしょう。あたりにワイヴァーンの類の気配もありませんでした。
「と、キャンプの準備をするから、ほどほどで戻っておいで。
 おかあさん、このあたりに用意しちゃおうか」
「そうですね。お任せください!」
 と、おかあさんが、昔のように元気よく、腕まくりなどをするのです。子供が出来て少し落ち着いた様子でしたが、こうやって外に出てみれば、かつての元気さが見えるものです。
 子供達がはしゃいでいるのを尻目に、おとうさんとおかあさんは、さっとキャンプ用具の一式を用意してしまいました。テントとか、寝袋とか、そう言うのです。子供達が変な虫を捕まえて戻ってくるころには、おとうさんが火をおこしていて、おかあさんはその火を使ってお茶を入れているところでした。
「ママのお茶だ~!」
「のみます!」
 と、子供達がデザストルトビトビバッタを放り投げて、火の側に座り込みました。デザストルトビトビバッタが「助かったぜ」と思いながらどこかへと飛んで行く方向を見れば、そろそろ空が暗くなって、太陽が沈むような時間帯でした。
「お、間に合ったね」
 そう、お父さんが笑うのです。お父さんは、どこか穏やかな顔で、夕暮れを見上げるのでした。おかあさんも、一緒に、空を見上げます。おかあさんの入れてくれたお茶のコップを抱えながら、子供達も空を見上げました。
 夕暮れは、赤い太陽を地平線の先に沈めて、少しずつ、空を青く、夜の色に染め上げていくようでした。おとうさんとおかあさんは、どこかまぶしいものを見るように、その赤と青が混ざり合うような、そんな光景を見るのです。
「これがね、宝物なんだ」
 と、おとうさんが言うので、子供達は、少しびっくりしたものを見るようでした。
「これが?」
「夕焼けが?」
 興味津々にそういうのへ、おとうさんは頷きます。
「そう。
 赤い色と青い色が溶けて、混ざって、一緒になるみたいでさ。
 最初は、おとうさんと、お母さんみたいだって、思ったんだ」
「そうですねぇ。
 ふふ、思い出します。お父さんが、私を連れて、ここに来たときのことを」
 懐かしそうに、思い出すように、お母さんは言います。まだ、二人が家族になってすぐのころ。お父さんに案内されてやってきた、この場所で。
「そのときも、とても綺麗な景色だなぁ、と思ったんですよ。
 今は――」
 そう言って、子供達を見るのです。
「二人みたいだ、って、お父さんは言いたいんですよね?」
「言いたいこと、先に言う?」
 そう、お父さんは笑いました。
「そうだね。
 今は、きみたちを見るみたいだ。
 赤い色と青色が混じって、生まれた君達……そう考えると、やっぱり、この景色は僕にとっての宝物なんだ」
「そうですねぇ。私にとっても、きっと」
 おかあさんは、二人の子供達を、優しく抱きしめてあげました。子供達は不思議そうに、おとうさんとおかあさんを見ました。穏やかに笑う二人の姿に、子供達は、やっぱりとても楽しく、嬉しい気持ちになりました。
「そっか! 僕たちなんだ!」
「ふふ、おそら、なんですね!」
 そう、二人は笑いました。それは、この世界が平和になって、当たり前のように見られるものだったかもしれないけれど、それでも、暖かく、穏やかで、かけがえのないものなのでした。おとうさんとおかあさんが守った景色なのだ、と子供達は未だ知らなかったけれど、もし知っていたならば、もっと大切なものなのだと、そう気づくのでしょう。
 これから、何年、何百年たってもきっと変わらない、大切な宝物の景色が、そこにありました。それは、永遠に続くように思えて、いや、必ず続くのだろうという確信めいたものが、家族にはあるのでした。
 これから、家族達は、様々な困難や冒険に立ち向かうのでしょう。それは大きなお話だったり、誰にでも訪れる日常の、毎日に起こる小さな事かもしれません。
 それでも、きっと家族は、今日みた宝物の景色を胸に抱いて、仲良く、幸せに生きてくのでしょう。
 だって、この家族が紡ぐ物語の最後には、いつも同じ言葉が記されていることは決まっているからです。
 つまり――めでたし、めでたし、なのですから。



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