PandoraPartyProject

SS詳細

また明日がずっと言えるように

登場人物一覧

フラヴィア・ペレグリーノ(p3n000318)
夜闇の聖騎士
セシル・アーネット(p3p010940)
雪花の星剣

「いってきます!」
 セシル・アーネットはそう、お母さんに言って家を出る。春の息吹が優しく頬を撫でた。
 やがて夏が来て汗を流し、秋がきて美味しいものを一杯食べて、冬が来たなら暖かくして聖夜や新年を祝い、新しい春を待つのだろう、そんな日常さえももしかしたら過ごせなくなるかもしれなかった。
 影の領域での戦いは無事に終わって、世界は平和になった。これから先も何かは起こるだろうが、それは世界の滅びとは関係なく起こる日常に過ぎないのだろう。
「セシル」
 同じように家を出た父がそう、セシルの名前を呼んだ。同じようにこちらを見て、兄さん達が見ていた。
「お迎えだぞ」
「――うん、いってきます」
 こくんと頷いて、視線を門の方に向けた。門の向こうに停まった馬車から顔を出した少女はセシルを見て緩やかに微笑みを浮かべると、扉を開けて馬車を降りたった。
 射干玉の髪に星を抱いて、ふわりと靡かせたフラヴィア・ペレグリーノは着地をすると自分の衣装に変なところがないか確認して、セシルを呼ぶ。
「フラヴィアちゃん、おはよう!」
 フラヴィアの下へと駈け寄ってそう声をかけたら、彼女は柔らかく微笑んで「おはよう」と挨拶を返してくれた。
 あの決戦の時よりもずっと背が伸びたセシルを見上げる眼差しはあの頃と変わらない。
 あどけなさの残っていた表情が少しだけ大人になってこてりと首を傾ぐ。
「どうしたの?」
 不思議そうにそう言うフラヴィアの姿は、彼女のお母さんに似てきたように見える。少しだけ昔の出来事に思えてしまう冠位傲慢との戦いで知った、彼女の母の事。
「ううん、何でもない……お洋服、似合ってるね」
「ふふ、ありがとう」
 小さく顔を振ってそう言うと、フラヴィアは嬉しそうにはにかんで笑う。
「セシル君も、似合ってるよ」
 そうして、セシルの事をじっと見つめてフラヴィアは微笑む。お互いに少しばかり大人になって変わった所も、変わらないところも色々とある。
「行こう」
 そう言って手を取ったセシルにフラヴィアが「うん」と頷いて手を繋いでくれる。
「いってらっしゃい」
 そう言ってくれる家族に「行ってきます」と声をかけたら、馬車がゆっくりと動き出す。
 混沌世界を掛けた戦いが終わって、色々な出来事が片付いて――世界は進み始めた。だからこそというわけではないが、少しずつ色々な物が変わろうとしていた。
「……緊張してるの?」
 繋いだ手にフラヴィアが少しだけ力を入れてセシルは自分がもまた、彼女と繋いだ手に力が入っていたことに気づいた。
「あはは……うん、そうみたい」
 少しだけ苦笑いして、そう言ったセシルに、フラヴィアは「大丈夫だよ」と囁くように言う。
「だって……私達が挨拶をするのは、セヴェリン卿――ううん、お養父様だもん。
 だから、緊張しなくて大丈夫……私は、楽しみなくらい」
 えへへ、とはにかむ様に彼女は笑う。


「セシル殿、よくおいでくださった」
 偉丈夫はセシルを見て静かにそう言うと、小さく頷いて見せた。初めて会った時よりもその人の髪は白い物が増えている。もうすぐ老将と呼ばれる世代に入るであろう彼ならば当然のことだろう。
 天涯孤独とも思われたフラヴィアの事を養女として迎え入れてくれた、たった一人の遠い遠い親戚だ。冠位魔種との戦いの過程で、ペレグリーノの家はたった二人だけしか残らなかった。
「は、はいっ!」 
 真っすぐに此方を見つめる彼の視線に、セシルは背筋がピンと伸びるような気がした。
 ペレグリーノの家は、もう彼とフラヴィアしか残っていない。
 セシルのアーネット家には、セシルの上に2人も兄がいる。だから、はこうなるのは自然の流れだった。
「フラヴィアの事を……どうか、よろしく頼む」
 そう言って彼が深々と頭を下げセシルの隣にいた、フラヴィアの手に力が入る。
 アーネットの家を継ぐのは、どちらにせよ兄になるだろう。
 セシルのは自由度も広かった。これから先、どう生きていくか。
 両親も兄も、皆がセシルの選択を尊重してセシルのしたいようにしなさいとそう言ってくれるのは嬉しかった。
(皆が僕のことを大切に想ってくれている。僕も同じくらい……皆がくれたその気持ちに僕の分も重ねて、フラヴィアちゃんを大切にしたいな)
 固く結んだ手に視線を向けようとしたら、隣のフラヴィアと目が合って小さく微笑まれた。
「――僕のほうこそ、よろしくお願いします」
 小さく息を吸って、吐いて、大きく息を吸った。
「フラヴィアも、これからもセシル君と一緒に上手くやっていきなさい」
「はい、お養父様」
 こくんと頷いてからセシルの方を見てフラヴィアが嬉しそうに笑う。これから先も、きっと色々な事がある筈だった。あの戦いから少しだけ時間が経ってお互いに少しだけ大人になったけれど、セシルもフラヴィアもまだまだ若い子供にすぎない。
 温かな眼差してフラヴィアとセシルを見て彼はコクリと頷いた。婚約者になるってどう変わるんだろうってそう思うことはあったけれど、今はまだ何が変わったかよく分からない。
「セシル君」
 フラヴィアが仄かに笑ってセシルの名前を呼んだ。
「お養父様。遊んできても構いませんか?」
「あぁ、構わない。いってらっしゃい」
 優しくも厳めしい顔に宿る双眸をそっと伏せてセヴェリンが頷く。セシルとフラヴィアは一度彼に頭を下げてからそっと部屋を後にしよう。
 ぎゅっと、手と手を重ねて、強く握りしめるのは忘れない。
「まだまだ時間があるから、どこか行く?」
「そうだね、遊びに行こう。何処が良いかな」
 こてんと首を傾げながら上目遣いにセシルを見るフラヴィアに頷いて、ずっとずっと離れないように。
 外に出たらまだ穏やかな空、空気は涼しくて澄んでいて、町の中に繰り出したらきっと楽しい。
「そういえば、新しくお菓子屋さんが出来てたの。おやつを食べに行かない?」
  じっとセシルを見つめるフラヴィアが人差し指を顎の下に中てて首を傾ぐ。
「お菓子屋さん? うん、行ってみよう」
 こくんと頷いたセシルにフラヴィアが華やぐように明るく笑う。行ってきますと使用人の人達に告げて2人は町の中へと足を踏み出した。
 白亜の都はいつもと変わらず峻厳で、けれど穏やかな一日を作り上げている。
「――ねぇ、セシル君。大好きだよ。私、幸せになりたい。
 セシル君と一緒に、ずっと、ずっと――だから、これからもよろしくね」
 お店に向かって歩く途中、ぎゅっとセシルの手を取ってフラヴィアが優しく笑顔を微笑み告げた。
「僕も……大好き」
 少しだけ照れ臭くも感じながらも、セシルは何処かはにかんで笑おう。
「フラヴィアちゃんのことを幸せにしたいんだ」
 またいつか、死が二人を別つその日までこんな風に二人で楽しく幸せに生きていけたら。
 そうしていきたいと思ったら、セシルは自然とフラヴィアと握っていた手に少しだけ力が籠る気がした。
 明日も、明後日も、ずっとずっと未来まで、こんなにも穏やかな毎日が過ぎていく。
 それが出来るようになった事がセシルは嬉しかった。


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