PandoraPartyProject

SS詳細

歓楽街の底なし沼

登場人物一覧

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!

「ババァと話にきたんじゃねぇんだよなぁ」
「あんだって?」
 カウンター越しに女が眉を跳ね上げる。酒焼けした声だ。とキドー(p3p000244)は思った。
「ババァと話したい気分じゃねぇっつったんだよ」
 偶には河岸を変えてみようといつもの酒場ではなく別の店に訪れてみたのだが、酒は薄いし相手をするのも萎れた肌を白粉で隠すような女では面白くない。
 ふん、と鼻を鳴らすと咥えていた煙草を灰皿に押し当てて消し。
「勘定」
「まぁまぁ、待ちなよ。来たばかりじゃないか。 ウチの若い娘呼んで来るかさぁ」
「けっ、どうせアンタみたいなババアが来るんだろぉ?」
「んなこたぁないよ。ミレイユちゃん!出てきてお客さんのお相手しな!」
 奥の扉が店主の声に応えて小さく音を立てる。キドーは胡乱気にそちらを見やり、小さく感嘆の声を上げた。
 肉付きのいい体だ。張りのある柔らかそうな乳房に、出来の良い壺の様にくびれる腰と膨らんだ尻。ぽってりとした唇は如何にも肉感的で男を誘うように艶めいている。
「あらぁ、初めましてお客さん。お隣座ってもいい?」
「おいおいおい、こんな娘いるなら始めっから出しておけよ。
 へへっ、ミレイユちゃんだっけ? いいぜ座んな、何飲む?」
 早速隣へと座るミレイユに鼻の下を伸ばすキドーに店主は呆れた視線を向ける。
「その子、新人だから手加減してやっておくれよ?」
「大丈夫だって、いいからババアはミレイユちゃんの飲み物作ってな」
 余計な世話だとばかりにキドーは店主の方へと一瞥もくれることなくミレイユの肩を抱いた。
「やだぁ」
「うへへへ、いいだろぉ?」
 口では拒絶の言葉をあげるものの、「分かって」いるのだろう。受け入れるように体を摺り寄せる仕草と、柔く上等な絹の様な女の体の感触に益々気分が良くなり口元が緩む。
「新人なんだってぇ?遠慮せずなんでも頼めよ」
「じゃあ、私ウォッカ。ストレートで」
「ひぇ」
「んふふふ~、私が早く酔った方がお客さんもやりやすいでしょ?」
「ああ、ああ、そういう事ね。可愛いじゃねぇの」
 にまぁ、とミレイユの口元が歪む。白い腕がするりとキドーの頭を抱き込んで……。
「そんなこと言って、お客さんの方がちっちゃくてかわいいんだからぁ」
 豊満な胸にキドーの頭を押し付けてしまう。顔面全体に柔らかく暖かな感触が広がって、ゴブリン特有の長く前に伸びた鼻がすっぽりと谷間に挟まれる。
「へへへへ、こいつぁすげぇ新人だなぁ。すげぇ、うん、ほんとにすげぇよ」
「ああん、お客さん鼻息がくすぐったぁい!」
 そんな調子で時間は過ぎ、グラスでは足りぬと空のボトルがカウンターにいくつも積み上げられて夜が更ける。

「お客さん、お客さん、そろそろ帰ってくれなきゃ困るよ」
「うう~ん、みれいゆちゅあん……」
 煙草とアルコールの匂いが蔓延する中でキドーは店主に肩を揺り起こされた。
「……ああ?あんだよ、ミレイユちゃんは?」
「もう帰したよ。アンタ全然起きないんだもん」
 重たい頭を振りながら体を起こすキドーに、見てみな、と示された壁掛け時計を見ればもう深夜というよりも早朝と言った方がいい時間になっている。
「けっ。おい、ババア幾らだ」
「1万ゴールドだね」
「ハァ!?」
「ぼったくりじゃないよ。明細書いてやったから見な」
 酔いも一瞬で吹き飛び、ひったくるようにして明細を見ればそのどれも覚えのあるものばかり。
 ああ、たしか気分が良くなってなんでもボトルで持って来いといって、それから……。
「払えるかい?ウチはツケはきかないよ」
 しゃあしゃあとカウンターの向こうで腕を組む店主にキドーは苦虫を噛み潰したような表情を向ける。
 わざわざ底なしに飲むミレイユを寄越したのは自分がババア呼ばわりする事への意趣返しに違いなかった。
「テメェ、アイツのどこが新人だよ!あんな新人いるわけねぇだろ!」
「あれはミレイユに言ったんだよ「新人だから手加減してやれ」って。
 お客さん、『底なし沼のミレイユ』を知らないみたいだからさァ」
「俺にじゃなかったのかよ!」
 怒りのままに乱暴に金をカウンターに叩きつける。チェシャ猫のような顔で「毎度ありぃ」と返す店主の顔が鼻につく。
 そのまま踵を返すと扉を半ば蹴り開けるようにしてキドーは店を後にした。

「ったく、とんでもねぇ店だったぜ」
 薄明の街でもう二度と行くもんか、とつぶやきながら、ふと鼻の頭を撫でる。
 抱きしめられた瞬間、ずっぽりと鼻が谷間に嵌り込んだ感触がまだ少し残っていた。

  • 歓楽街の底なし沼完了
  • NM名七志野言子
  • 種別SS
  • 納品日2020年04月13日
  • ・キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244

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