PandoraPartyProject

SS詳細

平和な日々を生きていくだろう貴方へ

登場人物一覧

ニーズ=ニッド(p3n000308)
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ

「ニーズ、ただいま!」
 レイリー=シュタインはそう笑いかけた。
 両手でおやつらしきものを食べていたニーズ=ニッドがそんなレイリーの声を聞いて顔を上げて蛇のような瞳を瞬いた。
「……おかえり」
 食事をしていたニーズが緩やかに言う。混沌の命運をかけた死闘はようやく決着を見た。
 幾人もの仲間達が命の限りを尽くした果ての結末は間違いなくハッピーエンドと呼ばれるものの一つであった。
 これから先、小さな不満が存在していたとしてもそれは人々が人々として暮らしていくからこそのもので、世界の滅亡とは縁も所縁もなく進んで行くのだ。
「ニーズは無事だったかしら?」
「……うん」
 こくりと頷いた少年は見た目よりも精神的に幼く、茫洋した雰囲気もあって何を考えているのか分かり難い。かつて救い出した彼は、レイリーにとって大切な人達の一人であり、弟のような存在であることは間違いなかった。
「無事なら良かったわ……」
 ほっと胸をなでおろしたレイリーに彼はこてりと首を傾げていただろう。
「レイリーも無事でよかった」
「ふふ、本当なら私の晴れ舞台も魅せてあげたかったけど、終焉なんて危険なところに貴方を連れて行かなくて良かったわ」
 そう言ったニーズに笑いかけてからレイリーは彼の対面に腰を掛けた。
「あぁ、おやつ、食べていていいわよ」
「ん……ありがとう」
 こくんと頷いたニーズは食事を再開する。美味しそうな食事はこの辺りでは知られた郷土料理だったか。
 食べ進める速度は変わらず、熱心でそれがこの少年にとって好ましい味であった事を教えてくれる。
「ねぇ、ニーズ」
 ぺろりと食べ終えたニーズが手を合わせて「御馳走様」とそう言ったところでレイリーは声を掛けた。
「ニーズはこれから先、何をしたい?」
「これから先?」
 こてりとニーズが首を傾げる。
 世界の滅びが来なくなった、平穏な未来。その世界で彼は何をして生きていくのだろう。
 これまで通りにその日暮らしを続けながらのんびりと過ごすのだろうか。
 あるいは、この世界を旅する旅人になる? どんな未来だってこれから先は叶えることが出来る。
 それを未だ決めきれないレイリーから問いかけるのはなんだか少しずるいような気もしないでもない。
 ただ、その選択の一つには大事な人を守るためにこの世界から旅立つという選択肢もあった。
 もちろん、それを選ぶかどうかもまだ決めていない。
「どうだろう……特に何かをしたいとかはまだ考えてない」
 ニーズは少しだけ考える様子を見せた後で結局そう言った。
「そう……」
 きっと、今のニーズにはまだこの世界に平和が齎されたからとかはあまり関係がないのだろう。今後はどんな風に生きていきたいのかなんていう考えは居ないのかもしれなかった。
 姿こそ線の細い大人の青年に見えてもまだ精霊種として設立して時間の経っていないこの子は子供のようなものだ。
「それなら将来したい事とかあるかしら? もしも何かあれば私が手伝えることならなんでも手伝うわ。だから、遠慮せずに言ってね」
 そう続ければニーズは「ありがとう」と仄かに笑みをこぼしていった。
「今のところは特にないかな……」
 そう重ねたニーズはそれから暫くして「あ」と小さく呟いた。
「一個、思い出した。世界がそれなりに平和になったならさ、旅に出ようと思うんだ。
 色んな本とか、お話とかを聞いて回ろうと思う……たくさん本を買って読んだりさ」
 そうニーズは続けて頬を緩める。
「そう……素敵な夢ね!」
「そうかな? ありがとう、レイリー」
 そう言ったレイリーにニーズは薄く笑う。
「レイリーは……?」
「そうね……まだ決まってないわ。でも、さっきも言ったけどもしも何かあれば私が手伝える範囲なら何でも手を貸してあげるから、遠慮しないでね」
「……うん」
 そう頷いたニーズは視線を降ろしてまたメニュー表を覗き込む。
 新しく頼みたい商品でもあるのだろう。
「気にしないで食べていいのよ」
 そんな姿に微笑んだレイリーにこくんと頷いた彼は早速とばかりに店員を呼んで新しい商品を注文していく。
 自棄に細い青年の身体のどこにそれが入ると言うのだろう――ある種、それが蛇のようにさえも感じられようか。
 外見からは想像もできない大食漢の青年のその理由は今までの人生であまり食事がとれなかったというのもあるのだろう。
「でも、そう……ニーズは旅人になるのね」
 鉄帝国で生まれた青年は此の砂漠の国に居てのんびりと食事を楽しんでいる。こんな風にこの子は別の場所でも生きていくのだろう。
 精霊種グリムアザースたる青年の人生は、きっとこれからずっと長く続いていく。
 別の世界に渡るのならばともかくとして、この世界に残るならば、レイリーのそれよりもきっとずっと長く。
(貴方のこれからを応援しているわ)
 新しいご飯にを輝かせる彼を見てレイリーは微笑んだ。


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