PandoraPartyProject

SS詳細

愛の始まり

登場人物一覧

澄原 龍成(p3n000215)
刃魔
ボディ・ダクレ(p3p008384)
一緒に帰ろう

 ガチャリと鍵を閉めた。
 揃いのチャームが着いた鍵だ。
 この鍵を使うことはもう無いだろう。
 澄原龍成とボディ・ダクレは燈堂家の離れを今日出て行く。

「世話になったな……」
 振り返ればこの家の持ち主である燈堂暁月が立っていた。
 チャームを取って二つ纏めて鍵を返す。
「はい。確かに返して貰ったよ。でも、やっぱり寂しくなるね。何だかんだ、長いこと一緒に暮らしてたからねぇ」
「そうだなぁ……」
 思い返せば記憶は重たい本のように積み重なる。

 最初は暁月達とも敵対していたのだから、人生何があるか分からない。
 ボディと龍成が最初に対峙した時は『澄原』と名字で呼ばれたと、ふと思い出した。
 家族との確執故にその名を呼ばれること自体、当時は嫌だったのだ。
 ナイフと鉈。始めは刃を交えた。
 どんな時でも言葉を荒らげないボディが語尾を強くした。
 それ程までにボディの『心』をかき乱した。
 龍成も同じようにボディへ感情をぶつけた。
 命を大切だと知っているはずなのに、龍成自身がその中に含まれていない歪さにボディは怒りというエラーを吐いた。
 この男にだけは負けられないと。膨大なエラー握り締め、龍成を殴りつけた。
 龍成は『生きて欲しい』と思われているなんて思ってもみなかったのだ。

「ふう……」
 昔の事を思い出し、龍成はため息を吐いた。若干恥ずかしい。
「どうしました?」
「何でもねぇ」
「そういう時は『何でもある』時です。昔の事でも思い出していたのでしょう」
「ぐっ……」と息を詰まらせた龍成はボディの肩に手刀を入れる。
 荷物を運び出す為に、屍兵の姿になっていたのだ。
 今、龍成の隣に立っているのは前面にモニターがついている箱を頂く巨漢の男だ。
「……最初は知りたいと思ってました。助けられて良かったと」
「いや、それ今話し出さなくていいから! 恥ずかしいから! ほら、もう行くぞ! ボディ!」
「え~? 私はもっと君たちの昔話ききたいけど?」
 くすくすと笑いながら暁月はボディと龍成を見遣る。
「そうですね。僕も聞きたいですね」
「廻!? いつの間に!」
「だって僕の部屋隣だし……お別れの挨拶ぐらいしたいけど、駄目だった?」
「駄目じゃないです」
 相変わらず廻には甘い龍成に、何だかじわっと腹が立って、ボディは龍成の耳を引っ張る。
「痛い痛い! 何なんだよボディ!」
「何でもありません」
「おい、お前それさっき自分で『何でもある』時って言ってたヤツだろソレ!」
 龍成の言葉にボディのモニターが『???』と表示される。
「ふふ……でも、お二人の賑やかなやりとりが見れなくなると思うと、やっぱり寂しくなりますね」
「廻様……問題ありません。何時でも龍成を連れて来ますし、引っ越し先に来て頂いても構いませんよ。廻様なら龍成も歓迎するでしょう……ただ、そうですね。その寂しい、は少しだけ分かるかも知れません」
 出会った頃であれば分からなかった。
 けれど、今なら理解できる。
 元々あったものが無くなってしまう喪失感は、嫌というほど味わった。
「私も龍成が居なくなった時、とても苦しくなりました」
「え……いつの話」
「まあ、龍成はよく居なくなるしね」
 暁月は「うんうん」と頷く。
「いや!? そんなしょっちゅう居なくならねえからな!?」
「自覚がありませんでしたか? ROOで私がどれだけ心配をしたと思っているのですか?」
 龍成が何度も何度も殺される音声だけが届いた時の、ボディの心境を思えば、無理も無い。暁月と廻は目を瞑って頷く。
「まあ、ともあれ……二人とも元気でやるんだよ」
「落ち着いたら遊びに行きますね」
「おう。今までありがとな。本当に助かった」
「お世話になりました」
 礼儀正しく頭を下げた龍成とボディに暁月は優しく「どういたしまして」と告げる。

 ――――
 ――

 二人で暮らす家は、『澄原』の顔を利かせてもらった。
 自分一人であれば何処に住んでいようとも、それこそ路地裏で夜を明かそうともどうでもいいと思う。
 けれど、ボディと共に生活をするのであれば、良い家に住ませてやりたかった。
 だから龍成は姉である晴陽に頭を下げ、良い部屋を用意したのだ。
 権威を笠に着るのは好きでは無い。
 それでも、これからボディと二人で未来に進む為に龍成は覚悟を決めたのだ。
 姉からの返事は勿論良好なもので――

「……高級マンションじゃねえか」
 低層ではあるものの、入り口にはオートロックが完備されており、緑が手入れされ、管理人が常駐しているタイプの高級マンションである。
 普段は寄りつかない弟が頼ってきたということは、姉として全力を尽くさなければならない。晴陽はあらゆる人脈を使いこのマンションを押さえたらしい。
「いいのでしょうか……」
 龍成の隣で雛菊姿のボディが表情を無くしている。
 建前上は親友との『シェアハウス』だったはずだが、これはどう見ても新婚やファミリーが住むようなマンションであった。
 それでも、晴陽は部屋を押さえただけだ。
 二人で歩んでいくのなら、契約自体は自分たちでしなければならないと龍成は姉に念押しした。残念がっていたが、其処だけは譲れなかった。
「俺たちが二人で買った家だろ。いいんだよ」
 龍成とボディは二人で、一緒に家の鍵を開けた。

 引っ越してからの毎日は目まぐるしく時間が過ぎていった。
 荷ほどきに、新しい家具の購入、インフラ周りの契約など、ありとあらゆるものを自分達でやっていかねばならない。
「……これ絶対一人じゃ出来なかったわ」
「そうですね」
 段ボールを畳ながら龍成とボディは「はぁ」とため息を吐く。
 リビングのソファに座り込んだ龍成は少しだけ目を瞑った。
 疲れがピークに達したのだろう。
「少し寝ますか?」
「うーん、二十分ぐらい目を瞑りたい」
「はい」
 目を瞑っていた龍成はぐいっと引っ張られるままソファに転がる。
 後頭部にボディのふとももの感触があった。
 ひざまくらをされた龍成はその心地良さのまま意識を手放す。
 以前であれば、嫌がって即座に起きてただろう。
 けれど今は違う。こうして頭を預けてくれることに胸が満たされるようだ。

 ボディは龍成の頭を撫でながらゆっくりと自分の感情を解いていく。
 最初は只の友達だった。助ける事が出来たのが嬉しくて、もっと龍成の事が知りたいと思ったのだ。
 日々を重ねる内に、一緒に居て楽しいと思えた、そうして生まれた感情の理由も分からないまま胸を高鳴らせもした。
 友達、親友、同居人、どのラベルも何だかしっくり来ないのだ。
 龍成に対する感情はそれだけではないと気付いたから。
 きっとこれは人間が持つ『好き』や『大好き』や『愛おしい』に該当するものではないのか。ボディはエラーが出る度に考えた。
 愛おしいから一緒に生きたい。
 同じものを見て笑い、同じものを食べて美味しいと言って、同じ悲しみを分かち合いたい。龍成の隣で同じ時間を過ごせたなら、きっと幸せである。
 現に今こうして、ソファに横たわる龍成の頭を撫でれば愛おしさがこみ上げるのだ。
 今までのように『親友』であってもいいのだろう。
 きっと何も変わりはしない。龍成はずっと傍に居てくれる。そう確信できる。
「それでも、私は……」
「ん? もう二十分経った?」
 眠りから覚めた龍成と目が合った。
 その紫色の瞳に見つめられると胸が締め付けられる。
 息が上がって、頬が赤くなるのだ。
「どした?」
 短く優しい声と共に、龍成の指先が頬を撫でた。
 それだけで泣きそうになるぐらい気持ちが溢れ出す。

「……っ、龍成、きいて欲しいことがあります」
 ボディの真剣な表情に龍成は起き上がった。
 ソファの隣に座るボディへ向き直り、言葉を待つ。
「私は……、私の身体は屍兵の姿だったり、女性の姿だったりします」
「うん。そうだな」
「でも、龍成は私は私だと言ってくれました。男だとか女だとか人だとかAIだとか怪物だとか関係無く……そうですよね?」
 真っ直ぐにエメラルドの瞳が龍成に問う。
 それはボディ・ダクレという存在が、己の全身全霊を掛けて告げるもの。
「ああ、そうだよ。俺はボディはありのままで良いと思ってる」
「だったら、私のこの気持ちも受け取ってくれますか。
 ボディ・ダクレは澄原龍成のことが大好きです。
 この身全部、心も全て、貴方を愛してます。だから……」

 ――結婚してください!

 真剣な表情でボディは龍成に愛の言葉を紡ぐ。
「ははっ、やっと、伝えてくれたと思ったら。結婚て」
「駄目ですか? 無理ですか?」
「いいや。駄目でも無理でもねぇよ。俺はお前のありのままで良いって言っただろ? ボディが自分の気持ちに気付くまで待つって。だから、お前が俺に気持ちを伝えてくれた時点で結果は約束されてるんだぜ?」
 立ち上がった龍成は自室から何かを取って戻って来る。
 ソファの前に跪いた龍成の手にはリングケースが乗せられていた。
 リングケースを開けば、ダイヤモンドがセッティングされた『婚約指輪』が嵌まっている。
「お前が段階を吹っ飛ばしたお陰で格好つかねーけど、一応、俺からも伝えさせてくれ。
 ボディ、俺と結婚してほしい。
 絶対に幸せにするとは断言できない。
 でも、一緒に隣を歩いていくことは出来ると思ってる」
 龍成はボディの左手を取って、薬指に指輪を嵌める。
 手の甲に口付けをして「愛してる」と龍成は囁いた。
 その瞬間、ボディは顔を真っ赤にしてソファに倒れ込んだのだ。

 ――――
 ――

 教会のドアの前で緊張した面持ちのボディと暁月が立っている。
 モーニングコートを着た暁月と、ウェディングドレス姿のボディだ。
「本当に私で良かったのかい? 父親役」
「はい。燈堂家は私にとって『実家』にあたる場所です。だからその家の主である暁月様は父親に該当すると思われます」
「ふふ、そうかい。なら父親としてエスコートはしっかりしないとね」
 ドアが開いた瞬間、緊張で胸がドクドクと鼓動を鳴らす。
 慌てないようにゆっくりと歩いてくれる暁月が頼もしく思えた。
 これまで経験したどんな戦場よりも緊張してしまう。
 赤いヴァージンロードの先には、白いフロックを着た龍成が立っていた。
 ヴェール越しでは龍成の表情は覗えない。
 けれど、恐らく同じように緊張している事だろう。
「……幸せにね」
 暁月の囁く声と共にボディの手が新郎である龍成に受け止められる。
 目の前に居る神父の聖なる言葉に続いて、愛を誓うのだ。

「……健やかなる時も病めるときも、互いを愛し尊重し、慈しむことを誓いますか?」

 短い誓約ではある。
 けれど、その言葉に嘘偽りなどない。
 これまで積み重ねてきた想い出が、感情が、胸の奥底から溢れ出す。
 何度も何度も失敗した。
 迷い苦しみ、理解できないと逃げ出したくもなった。
 けれど、龍成は傍に居てくれた。
 心が成長するまで待ってくれた。
 だから、これからは胸を張って隣を歩きたい。
 心の底からの『愛』を証明したい。

「私は、どんな時も龍成の隣を歩きます。龍成が挫けそうな時には支えます。楽しい時には笑い合います。悲しい時には傍に居て慰めます。
 だから、永遠の愛を誓います」
 ボディの凜とした声が教会の中に響く。
「俺はずっと待ってた。ボディと同じ道を歩める時を。
 でも、生まれ変わるとかそういうんじゃない。
 今まで歩いて来た道を、同じようにずっと一緒に進んでいくんだ。
 此所にその永遠の愛を誓う」

「では、近いの口付けを……」
 ボディに掛けられたヴェールを龍成がそっと上げる。
 胸元の傷を覆い隠すようにデザインされたウェディングドレスはボディにとてもよく似合っていた。
 長い睫毛が伏せられ、顔が上を向く。
 龍成はボディの腕にそっと手を回し、ゆっくりと顔を近づけた。
 温もりが感じられるほど近くに龍成の気配がする。

「ボディ……愛してる」

 小さく囁かれた言葉と共に、唇に柔らかい熱が触れた。
 一瞬の余韻のあと、盛大な拍手が教会を包み込む。
 それは、二人の門出を祝うもの。

 今度はヴァージンロードを二人であるく。
 赤い絨毯を一歩一歩踏みしめて。
 長い未来への旅路を、ここから始めるのだ。



PAGETOPPAGEBOTTOM