PandoraPartyProject

SS詳細

Happily ever after

登場人物一覧

プルー・ビビットカラー(p3n000004)
色彩の魔女
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら

 ――あなたの色彩せかいは何よりも鮮やかで、心地よい。

 美しく、眩い光のような。そんな色彩をずっとずっと見ていたかった。
 流れる様な深緑の気配。そうと細められたは蒼穹の気配が宿されている。鮮やかな紅玉のドレスをその身に纏った彼女はその白い指先をそっと伸ばして呼ぶのだ。
「こっちよ」
 手を差し伸べられたならばジルーシャは笑みを浮かべるのだ。
 特異運命座標として、混沌世界の平和を守り抜いた。それはジルーシャにとっては愛する人が幸せだと笑ってくれる世界を護り抜くのと同義であった。
 ジルーシャから見ればプルーという女は不思議な世界を見ているひとであっただろう。
 全てを色彩に例え、極彩色の世界を愛し慈しむその人はこの世界を包み込んだダーク・モスに憂い、ライラック・グレイの雲を眺めては心を痛めていたのだ。
 ジルーシャの無事を祈る彼女は「ずっと、フロスティ・グレイが包み込んでいるの」と悲しげに言っていた。
 それでも、彼女との幸せな未来の為ならば、ジルーシャは進む事が出来た。
 プルーに「安心して頂戴」とそう笑いかけたならば、彼女は少しだけ困ったような顔をして笑うのだ。
「ええ、貴方ならば大丈夫だと信じているわ」
 その言葉に、その優しさにジルーシャは前を向くことが出来た。
 ジルーシャにとって、プルーは本当に不思議な人だった。するりと己の世界に入り込んできたかと思えば、いつの間にか大切な人になってしまった。
 彼女の為ならばなんだって出来てしまう様な自信があった。
 例えば、そう。
 長生きだって出来てしまう。幻想種の彼女よりもジルーシャの一生はきっと短い。それでも、彼女の為ならばなんだって出来る自信があった。
 精霊たちにそんな相談をすれば思わず笑われてしまったけれど、本当に自信が溢れていたのだから。
「その言葉だけで、何だって出来ちゃうわ♪ だから、待っていてね、プルーちゃん。
 アタシ、絶対に帰ってきて、それからアンタに一番大事な事を言うんだから!」
「それって今聞いてはいけないのかしら? きっと、待っている時間も華やぐわ。
 カーネーション・ピンクな夢のあるお話しかしら、それともアザー・ブルーの決意が雨のように降るのかしら」
「やだぁ! 今そんなの言っちゃ恥ずかしくなって死んでも死にきれないじゃない!」
「あら、になってくれるならきっと良いわ?」
 プルーの揶揄う声がジルーシャは心地よかった。頬に手を当てて照れ隠しをするように少し俯いたジルーシャをプルーは笑い続ける。
 ちらりとそのかんばせを盗み見たならば彼女は朗らかな微笑みを浮かべたままに「聞かせて頂戴」と囁くのだ。
「わ、笑わない?」
「もう笑ってしまったわ」
「も、もう……ッ」
「けれどね、ジルーシャ。キューピッド・ピンクの愛おしさも、慈しみも、今この世界で生きて待っている私には必要な事なの。
 だから、私の眼を見て教えてほしい。というのは、我儘かしら?」
 そう言って細められた彼女の瞳に愛おしさばかりが溢れ出す。ああ、なんて幸せなんだろう。
 ジルーシャは彼女から与えられる愛情を本当に、本当に真っ直ぐに受け止めていた。
「我儘じゃ、ないわ」
 そっと手を伸ばしたならば、プルーが微笑んでジルーシャの掌をおのれの頬にぴたりとあてる。
「我儘じゃ、ないの。アタシだって、伝えたいもの」
 それでも、伝えてしまった時に――もしも、生きて帰れなかったときに、この人の呪いになりたくなかった。
 その気持ちはきっと、分かり切っていただろうに彼女は「おねがい」と重ねてくれる。
 その声に、心がぎゅうと締め付けられた。愛おしくって、ときめきだけが何度となく自分の傍にある。
「ええ」
「ジルーシャ」
「ええ、ええ」
 その美しい瞳が自分を見てくれている。鮮やかな紅色のドレスを揺らがせた美貌の人の耳に飾られたアクセサリーに触れてからジルーシャは深く息を吐いた。
「アタシ、プルーちゃんが好きよ。とっても、とっても。
 ……本当に愛しているの。アンタがこの世界に生きていてくれるだけで、アタシどれだけでも強くなれる。
 アンタが見る世界の美しさも、鮮やかさもアタシは何もかもが好きになれる。アタシにとって、アンタは必要な人になった」
「ええ」
「だからね、プルーちゃん」
 この言葉は餞別になどしたくはなかった。
 この言葉は呪いになどするわけもなく、この言葉は、いっそのこと、世界を包み込んでくれる愛になって何もかもを救ってくれたらよいのに。
「アタシは」
 その瞳を覗けば、逸らされるわけがない熱がそこにあった。
 美しい。イージアン・ブルーに揺らぐその瞳にジルーシャは閉じ込められたような心地になって行く。
「アンタを愛しているの」
「私もよ、可愛い私のウィスタリア」
「だから、この世界が平和になったら、旅をしましょう。ずっとずっと、離れないように手を繋いで。
 それから、結婚式をあげましょう。ささやかなもので良いわ。アンタを祝福する花の中で、アタシ、アンタとの永遠を誓いたいの」
「ふふ」
 ジルーシャは「死亡フラグとか言わないでちょうだい!?」と先んじでそう叫んだ。プルーは可笑しくなって「言わないわ」と彼の瞳を覗きこむ。
「喜んで。貴方に似合う花も用意して頂戴。美しい色彩に包み込まれて、貴方との未来を、そこに見ていたいの」

 ――愛する事は、きっと力になった。
 死んでも死にきれないなんて冗談で言ってしまったけれど、どうやら死なずに済んだらしい。寧ろ意地の範囲だったかもしれない。
 未来が曇ってしまわぬ様に意地になったのは確かだった。毎日、毎日、変わりゆく世界を見ていく為には何としても彼女の元に帰り着かねばならなかったのだから。
 最初のに彼女は可笑しそうに笑った。それから次からはおかえりもただいまもずっと日常として繰り返される。
 美しい花が咲く日に、結婚式を挙げようとそう誓い合ってから、少しの季節が巡って、漸くその日がやってきた。
「プルーちゃんったら本当に良かったの?」
「何が?」
「だっ、だってドレスよ? プルーちゃんは赤が似合うじゃない。とっておきの一番美しいサタンズ・スパーク。
 良かったのかしら? タラズマン・レッドの美しさだってアンタを包んだら一級品になるわよ」
「いいのよ。だって、今日は私達にとっての記念の日なのよ。なら、貴方の色を身に纏いたいものじゃない」
 目を細め、微笑んだプルーが身に纏ったのはジルーシャを思わせるウィスタリア。
 彼女が自分からその色を選んでくれたという事が何よりも嬉しかった。
 彼女を白い花で飾りながらジルーシャは「アンタがいいならいいんだけれど」とそう呟いた。
 ジルーシャが彼女の為に用意したのは白と深紅のブーケ。彼女の色彩をふんだんに取り入れたいと、鮮やかな紅を選んだのはその身を包むドレスの印象からなのだろう。
 ブーケの花も彼女に聞いた方がよかったかとジルーシャは表情をころころと変える。
 その表情の変化がプルーは好きだった。彼のころころと変わる表情と、何時だって飽きがこない話口調や楽し気な仕草が愛おしい。
「貴方が選んでくれたのだから、此れでいいのよ。私にとって、一番はジルーシャが選んだ全てだもの」
「もう……それならアタシだって、プルーちゃんの色を纏ったわよ……!」
「ふふ。そうね。でもいいの。幾らでも私の色を纏う機会は来るわ。これからずっとずっと、一緒なんでしょう?」
 ひらりと揺らぐヴェールが美しい。ジルーシャはその言葉に感極まって思わず泣きだしてしまいそうだった。
「ええ、ええ」
 この人が、そうやって自分に愛を捧げてくれている。
 どれだけ愛おしいと感じていたって彼女が答えてくれる確証がなかった日々を歩いて来た。
 それが正面から真っ直ぐにこうやって愛を囁いてくれるのだ。それを喜ばない訳がないだろう。
 プルーは穏やかに微笑んでからジルーシャに手を伸ばした。
「さあ、一緒に生きましょう。私の王子様」
「ええっ、行くわよアタシのお姫様!」
 美しい光の下、鮮やかなる花々に囲まれながらも、ジルーシャはゆったりと歩いていく。
 この世界で二人で生きている。そっとジルーシャがプルーの身体を抱き上げた。
 プルーはくすりと笑ってから「突然ね」と揶揄うようにそう言った。だろう。優しい瞳がそっとジルーシャを見つめてくれている。
「ふふ。ねえ、愛おしいアンタと誓いの言葉を交わしておきたいの。
 病める時も、健やかなる時も。どんな時だって、一緒の色彩せかいを見て生きていきましょ」
「ええ、もちろんよ。
 時折、 オーキッド・ホワイトが全てを包み込んでしまうかもしれないわ。それでも、マリーゴールドの日々を愛する事がきっとできる筈だもの。
 ねえ、私たちが進む未来はどんな色彩に溢れているかしら。楽しみだわ。ジルーシャ」
 世界は鮮やかなる色彩に包み込まれている。美しく、そして、これからだって色彩を変えていってしまう。
「ずっとずっと大好きよ、アタシのお嫁さん♪」
「私もよ、愛おしい私のウィスタリア」
 視線が交わって、プルーがジルーシャを眺めてから笑みを深める。
 ――そうして、ゆっくりと唇が重なった。


 これからも、ずっとずっと続いていく。新しい旅の始まりに鮮やかなる花を飾って。
 きっと、ジルーシャは歩き出して手を伸ばすのだ。彼女の手をぐっと引いて、何処へだって連れて行ってしまうと言わんばかりに走り出すように。
「さあ、プルーちゃん、今日は何処に居る?」
 そんな在り来たりな毎日と幸せばかりを飾った日々を二人でずっとずっと、歩んでいく。


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