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変わらぬ日々を貴女と
登場人物一覧
初夏の爽やかな風が金色の髪をゆるく浚う。
フリルのついた薄桃色のボンネットを押さえ、アルエットはふわりと振り返った。
「わぁ、四音さん見て見て! あっちの湖すっごく綺麗なの!」
嬉しそうにはしゃぐアルエットの隣で四音は目を細める。
「そうだね。湖面に光が反射してキラキラしているね。アルエットが好きそうだ」
「うん! 何だか宝石みたいでいいよね……近くに行ってみよ!」
アルエットは四音の手を引いて湖の畔へと遊歩道を歩いた。
静かで平和な日常を四音と共に歩いて行ける幸せにアルエットの胸がいっぱいになる。
一歩、あるく毎に想い出が昨日の事のように蘇った。
母と過ごした雪景色。父の大きな手。兄の優しさ。
もうひとりの『アルエット』の代わりに、生きて行くと決めた日。
沢山の傷と、悔しさと、苦しさを噛みしめて。
其れでも今こうして笑顔で居られるのは、みんなのお陰だ。
「それと、四音さんのお陰……」
「うん? どうしました?」
「あのね……いますごく幸せだなぁって」
アルエットは四音の手をぎゅっと握りながら湖面を見遣る。
其処には二羽の水鳥が浮かんでいて仲睦まじく寄り添っていた。
まるで、今の自分達のように。
「アルエットが幸せなら、私も幸せですよ」
「そう? えへへ、嬉しいの」
頬を染めたアルエットは、絡めた指先をぶんぶんと振り回す。
しばらく揺らした指先が自然に止まって、四音の滑らかな肌の感触を楽しんだ。
「ねえ、四音さんこの辺りでお弁当にしない?」
少しだけ登った草原でアルエットはバスケットを持ち上げる。
ここなら湖畔を吹く風が気持ちいいだろう。
アルエットはバスケットからシートをふわりと広げた。
「あっ!」
吹いて来た風に煽られシートが空を舞う。
「おやおや」
四音はトンっ、と地を蹴り翼を広げてシートを掴んだ。
シートを手に舞い降りてくる四音を見上げ、アルエットは嬉しそうに顔を綻ばせる。
陽光を受けキラキラと輝く四音の髪。神々しくも美しいかんばせに見惚れてしまう。
自分の親友は神秘的で神様みたいなのだ。
「はい、捕まえてきましたよ」
「ありがとうなの!」
シートを受け取って草の上に敷いたアルエットは飛ばないようにバスケットを置く。
二人で並んで座り、お弁当を広げた。
「じゃーん! 今日はね、サンドイッチを作ったの!」
「おお、それは楽しみですね」
「ふふふ~♪」
アルエットと四音は一緒に暮らしている。混沌を旅しながらずっと一緒に。
勿論、朝からサンドイッチを作っていたことは知っていた。
だが、四音は敢えて中身がどんなものか見ないようにしていたのだ。
アルエットが一生懸命作ってくれたという事実だけでお腹がいっぱいになる。
実際の所、四音は人間の味覚というものを理解しているわけではない。
四音の本体は粘菌で少女の身体を借りているに過ぎないのだ。
それでも、アルエットが食べて欲しいと出してくれたものは美味しいし、アルエットが美味しそうに食べているものは美味しいのだ。
「いただきます! あーむ! ん~! おいしいねぇ!」
「はい。美味しいです……でもアルエットの方が美味しそうですよ?」
「え!?」
アルエットの唇についたソースを指先で拭う。
もし、アルエットが老いて死んでしまった時は、その身体を貰い受けよう。
全て食べ尽くして、一つとなるのだ。
そうすれば離れる事の無い永遠を共に生きることができる。
もしそのときがくれば、アルエットの味というものが分かるのだろうか。
嗚呼、けれど。
翼を食べた時の驚いた顔は可愛かった。
「……もう一度、翼を食べても?」
「え!? えぇ!? ダメだよぉ、痛いでしょ?」
「そりゃむしったら痛いでしょうね。でも……」
四音はアルエットの背に手を回す。
いつ、羽根をむしられるかとアルエットは身体を震わせた。
四音の指先が翼に触れれば、びくりと肩が上がる。
「痛いだけではないかもしれませんよ?」
「……う」
そわそわと四音の指先が動くのがもどかしい。
胸が高鳴り、何だか恥ずかしくなってくる。
「だ、だめー!」
「おっと」
四音を押し返したアルエットはエメラルドの瞳を潤ませた。
「四音さんの意地悪っ」
「嫌いになりましたか?」
「違うもん! 大好きだもん!」
ぷくっと頬を膨らませるアルエットの愛らしさに四音は「ふふ」と笑みを零す。
「私も愛していますよ。カナリー」
「……うん。私も四音さんが大好き!」
お揃いの指輪が陽光に煌めく。
ゆっくりと過ぎて行く幸せな時間を彩るように。
二人の間を優しい風がふわりと駆け抜けていった。
- 変わらぬ日々を貴女と完了
- GM名もみじ
- 種別SS
- 納品日2026年06月26日
- テーマ『これからの話をしよう』
・アルエット(p3n000009)
・鶫 四音(p3p000375)
