PandoraPartyProject

SS詳細

「グラトニオス」

登場人物一覧

珱・琉珂(p3n000246)
里長
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲

 二人での名前を冠した菓子を作ろう。
 そんな話が立ち上がってからというものを、琉珂は菓子作りに研究を重ねていた。
 元々、彼女の料理は摩訶不思議。息でもしているかのように何処ぞへと走って行ってしまう様な奇天烈料理だ。
 勿論、覇竜領域では料理をするたびにそそくさと駆けて行ってしまうのだから大問題そのものではあったのだ、けれど――
「折角だもの、ゲオルグと頑張りたいの!」
 度重なる謎の犠牲(?)を発生させながらも琉珂はゲオルグとの約束を果たすためにベルゼーと名付けられた菓子を作る為に尽力していた。
 灰色の王冠グラオ・クローネなどのような、何か心がこもった歌詞が良い。
 されど、それを作り上げるのも至難の業だ。元々、覇竜領域には余りに素材が乏しい。ゲオルグ自身は外の交易品などを持ち込むかと提案したが琉珂はそれを断った。
 折角ならば、彼の愛したこの覇竜領域の素材をすべて使いたいのだと彼女がそう言ったからだ。
 そうした知識であればこの地で暮らしてきた者の方が詳しい。材料集めなどは琉珂を始めとする亜竜種に任せておこうとゲオルグはベルゼーを思う彼女に全てを一任しておくことにした。
 彼女自身、ベルゼーには恩義がある。それこそ、父親代りであったというのだから懐いていた事には違いがない。愛情深い少女であった事も確かだ。ベルゼーの関連する事で善からぬことを企てる事もないだろう。
 時折、様子を見に行くと誓ってゲオルグ自身も日々を忙しく過ごしていた。流石に世界を救った英雄だ。ゲオルグ自身もそうしたネームバリューに応じて仕事をすることが多くなっただろうか。
「琉珂」
 久方ぶりにフリアノンに顔を出すことになったゲオルグはエプロンを着けた琉珂を見てから微笑ましいと目を細めて笑った。
 どうにも、彼女に対して孫に接するような、もしくは実の娘を見る様な愛情を抱きがちにもなる。ベルゼーが愛情深く接し続け、里でも愛情をもって育まれたことがよく分かる天真爛漫な彼女がゲオルグを見るとぱあとその表情を華やがせてくれるのだ。
「来てくれたのね! ゲオルグ!」
 あまりに嬉しそうにそう言うものだから、周囲がどよめいた。一応は彼女自身は里長という立場にある。
 少女が里長であるのだから、そんなフリアノンの長に喜びを滲ませて呼ばれるだけの存在は何者かと一瞬奇異なる視線が注がれたが、それがゲオルグであるということを認識した者から、そうした波は引いていった。
 つまりは、ゲオルグが琉珂の「お料理教室の先生」のような扱いになっているという事だろう。なんとも妙な心地ではあるが、琉珂が料理に精を出し、その理由が里おじさまとまで呼ばれたベルゼーの為だというのだから里の者たちも好意的に受け入れてくれているというのは喜ばしい。
 元々、琉珂とゲオルグが考えてベルゼーの名を冠した菓子を作ろうと目標決定をしていたが、それを覇竜領域の者たちがしっかりと受け入れてくれる保証はなかった。が、こうした対応を見ていると琉珂はそうした状況であることを彼らにも伝えており、彼らもそれを受け入れてくれたという事なのだろう。
「準備は?」
「ふっふっふ、オジサマが好きだったものはたくさん集めて、いろいろ試作したのよ! !」
 彼女の料理は破天荒すぎるために、他の誰かがしっかりと用意してくれていたのか。里の者たちも、ベルゼーを厭うていない。
 彼にとって、あれは彼自身の定められた運命のようなものだったのだろう。当人の性格や在り方とは全く真逆なサガ。そのせいで彼の終がどれだけ悲惨な者であろうとも、出来る限り彼が愛した全てを守り通したかったことは分かっている。
「皆がね、いろいろと教えてくれたのよ。私が知らなかったオジサマの事だって!
 だから、あの木の実が好きだとか、あの生物の肉が美味しいらしいとか、本当にいろいろと教えてくれたの。
 毎日、毎日……私が知らなかったオジサマの話が出てくるたびに、もう少し、きちんと話してあの人の事を知って居られたらよかったのに、なーんて、思ったりして」
 そうと目を逸らした琉珂にゲオルグは「後からでもきっと、知れるさ」とそう囁いた。
 その頭に掌を当ててやれば彼女は笑う。ベルゼーも良くこの少女の頭を撫でていたのだろう。優しく褒めて、これからの未来を願う様に囁いて。
 そうして、彼女が向かうべき未来さきが明るいものであればと願っていたのかもしれない。優しい思い出の傍には何時だってベルゼーが居るような少女だ。
「ふふ、だから頑張りましょうね。ゲオルグ」
 やる気を充ち溢れさせ、何よりも彼の為にと思って邁進してくれる彼女にならばなんだって任せても構わないような、そんな気さえしていた。

 厨房に取り揃えられている食品をゲオルグはぐるりと見回した。どれもが覇竜領域で採れるしなばかりだ。
 その為だろうか、外で見られる菓子の食材とは大きく変わっている。例えば、灰色の王冠グラオクローネを一般的に作るための品などは揃ってはいなかった。
 だが、それこそが覇竜らしさであり、ベルゼーが愛し慈しんできた場所だったのかもしれない。
「さて、琉珂。ある程度は練習をしたとは聞いているが自身はあるか?」
「全然。やっぱりね、私が料理をすると逃げてしまう事が多くって。何か変な事をしているのかしら? うーんって感じ……」
「確かに琉珂はレシピ通りに作る事はない。ならサポートをしようか。レシピに引き戻すようにと考えよう。
 その素材がどんなものかというのも一緒に見極めていけば問題はない筈だ。まず、ゲオルグが手にしたのはベルゼーが菓子代わりによく摘まんでいたという赤い木の実であった。
「その木の実はオジサマがよく摘み食いしていたの。毒があるんだけれど、種を除けば問題ないわ。甘くっておいしいのよ」
「姿自信は苹果に似ているが」
「りんご……かもしれない、でも、味わいは何方かと言えば、んー……レモンに近いのかしら……」
 悩ましげにつぶやく琉珂にゲオルグは流石は覇竜領域の木の実だと感心した。琉珂は丁寧にその実を割り種を取り除いていく。慣れたものだと感心したほどだ。
「これはね、種に毒があるとは言ったけれど砕いてしまえばそんなに重篤な症状は出ないと言われているわ」
「成程。ならば、調理にも利用しやすいのか」
「ええ。1粒位なら毒性だって全然だって言うから、オジサマは良くつまみ食いをしていたわね。
 けど、今思うとオジサマはこの実の毒になんて耐性があったのかもしれないわ。結構丸呑みしていた」
「……」
 ゲオルグはそれでいいのかと考えた半面でベルゼーらしいのだとついつい可笑しくもなってしまった。
 彼がそうして楽し気に食事をしている光景と言うのがまざまざと浮かぶようでもあったからだ。
 赤い木の実から種を取り出してから磨り潰し、次はと琉珂が手にしたのは何処からどう見ても流木にしか見えないようなものだった。
「木の枝か?」
「に、見えるでしょう。これ、皮を剥いで使うの」
 ざりざりとナイフで表皮を剥いでいく琉珂はその中から見えた白い部位を取り出して砕いていく。その作業を繰り返していくと小麦粉のようなパウダーが姿を現すのだ。
 ゲオルグもそれを真似て琉珂を手伝った。琉珂が「こういうのにしたい!」と提案したのは木の実などが入ったパウンドケーキだった。
 小麦粉の代わりに利用するとなればそれなりの量も必要になる筈だとゲオルグは無心で調理を続けていく。
「私ね、小さなころにオジサマから森にある食材を教わったのよ。何が美味しいとか、何を食べちゃ駄目だとか。
 食いしん坊なオジサマが好きなものを私に教えてくれていたと思う反面、もしかすると、生きていく為に必要だと考えてだったのかもしれないわね」
「ああ、そうだな。ベルゼーは琉珂を大切にしていた。きっと、琉珂が道に迷っても構わない様に、と用意をしてくれていたんだろうな」
「私、きちんとそう言う事は覚えたのよ。だから、オジサマが教えてくれた色々な木の実なんかをちゃんと使っていきたいの」
 ゲオルグは柔らかに頷いた。琉珂は幼い頃からきっと好奇心も豊かで暴れん坊な性格だっただろう。そんな彼女が森の中で迷うといった可能性は十分にあり得た。
 彼女は幼少期から竜種らにも育まれていたこともあり匂いなどから他の竜種に襲われる事は少なかったかもしれない――少なくともベルゼーが良く面倒を見ていた幼い頃であれば、べったりと他竜種たちが世話を焼いていたこともあり、安全だったという意味合いがあるのかもしれない。
 そうした安全性を担保できたとしても食事の面だけは当人がどうにかできなくてはいけない。故に、しっかりと叩きこんだのだ。
 どれが食べれて、どれは食べれない。その上で、彼女が覚えやすいようにこれは美味しいだとか、美味しくないだとか。そんな理由をたくさん詰め込んで。
「これはウパルルの樹っていうんだって。竜種たちの古い言葉で何か意味があるらしいけれどそれは忘れてしまったわ」
「ああ、学ぶことよりも生きることを重視していたんだろう」
「そう言ってくれると嬉しい。けれど、知識って大事よ。オジサマもそう言っていたの。
 誰かに伝えるためには、学ぶべきだし。誰かを導くためにもやっぱり学んでいくべきだって。私には、そういうものが少なかったのかもしれないわね。
 ……うん、そんな湿っぽい感じはとりあえずなし! で! 一先ずはしっかりと調理をしていきましょう。
 折角ゲオルグが時間を作ってくれたもの。ウパルルの樹からパウダーを作って、さっき磨り潰したファイアードレイクの尾実を混ぜます」
「そんな名前だったのか?」
「実り方が似ているんですって。よく混ぜたら、乱風鳥の卵を割り容れるわ。
 この卵は体に良いって言っていて、オジサマは玉子酒にするのを気に入っていたらしいのだけれどね」
 器用に混ぜている、が、手つきがやや怪しいだろうか。ゲオルグはそれを支えながらも琉珂が語る思い出話にも耳を傾け続けた。
「ファイアードレイクの尾実とウパルルの樹のパウダー、それから乱風鳥の卵が上手に混ざったならば、次。ええっと、どうするんだったかしら……?」
「一般的なレシピだとバターなどを使うが、それは?」
「そうだった! えっとね、じゃじゃーん。これはぐるぐる回る事がとっても得意なトカゲが腹に抱えている事で出来上がるバターみたいなやつ!」
 何を言っているんだろうと言った顔をしたゲオルグに「お腹にミルクみたいなものを溜め込む性質があるトカゲがいるんだけどね」と琉珂は説明を始める。
 それを丁寧に混ぜてから、生地をきちんと型へと入れていく。間には彼が好ましく思っていたというたくさんの木の実などを詰め込んだ。
 後はこのパウンドケーキが走り出さないようにと見張るだけだろう。ゲオルグは緊張しながらも琉珂に「走り出さないようにと説得してくれ」と頼んだ。
 頷く琉珂がオーブントースターを思わせる覇竜領域特有の炎庫へとそれを入れ込んでから緊張したように振り返った。
 これでベルゼーと名付ける事になるパウンドケーキが完成する。琉珂が焼き上がりを楽しみに待つその横顔をゲオルグは微笑まし気に眺めていた。
 彼との時間は掛け替えもなかった。彼が産まれながらにしてであったというそうした悲しみそのものは存在していたが、それでも彼は自身の在り方を受け入れていたのだろう。
 そこまでを否定してはならないともゲオルグ自身も、そう認識していた。愛おしい友人の事を思えばこそだ。穏やかな心地にありながらもゲオルグは傍で笑っている少女の横顔を眺めていた。
 ――彼女も、幸せに生きてくれるだろうか。何時だって楽しげに笑う琉珂。彼女を大切に大切に抱き締めるようにして生きていたベルゼーが何を思い、何を願うのかなど手に取るようにわかる。
 彼女以外の覇竜の民の事だってベルゼーは大切にしていたのだ。今のように、彼女たちが笑っていてくれたならばいい。
「琉珂、茶を淹れようか」
「えっ、お願いしても良いの?」
「勿論。とっておきの物を淹れよう。ベルゼーの分もどうかな」
「勿論! ありがとう!」
 ぱあと明るく笑う彼女に焼き上がりが楽しみだと微笑みかけてから、ゲオルグはくるりと背を向けた。
 きっと、これからだって彼女のを見ていたかっただろうに。それが叶わないのであれば、せめて自身がその傍にいてやろう。
 ゲオルグ=レオンハートは一人の少女の未来が明るくなるようにと願うだけで鼻先がつんと痛かった。ベルゼーの姿がどうにも頭の中にチラついたからだ。
 そんな悲痛な表情を彼女に見せたくはなかったのだ。彼女だって、愛するべき存在をその手にかける事を怖がっただろう。
 それでもと駆け抜けていく彼女がをしっかりと言ったのだから。
(こんな顔をしていては、きっと心配されてしまうな。……彼女の未来を思っての事だったが、ベルゼーと言う存在に囚われているのは此方だったか)
 肩を竦めてからゲオルグは息をついた。丁寧に茶器を選び茶を注いでいく。
 パウンドケーキが焼き上がるまで、うきうきとした調子で待っている琉珂をちらりと盗み見ては彼は楽しげに笑うのだ。

 ――オジサマ。

 そう言って笑って、彼女はこの場所を走り回ったのだろう。思い出ばかりが残されてしまった大きな大きないえ

 ――オジサマ、こっちよ!

 手を引いて、いたずらっ子のような顔をする彼女を窘める男もいたのだろう。此処に居れば、その光景がまざまざと思い返されていく。
 焼き上がったのだとはしゃぎまわる少女の声にゲオルグは現実へと引き戻される。
 彼の為を思って焼き上がったパウンドケーキはさわやかな風味をさせていた。所々に入っている木の実が心地よい。
 琉珂が「おいしい」とそう笑うその顔を見てからゲオルグは緩やかに頷くのだ。これが。彼の名前の付けられた新たな菓子だ。
 混沌世界には覇竜領域で食べられる新たな菓子として広がって行けばいい。その一助として自らがレシピや食材を手に広げる事だってきっと良い事だろう。
「オジサマは、喜ぶかしら?」
「ああ、もちろん。きっと、その名を平和の象徴のように呼ばれたならば喜ぶだろう。彼は、そう言うだっただろうから」
 その言葉に琉珂はぱちくりと瞬いてから大きく、大きく頷いた。
 暴食でない、彼の名を菓子に名付けよう。なんたって、
「そうね、オジサマったらそう言う人間だった!」


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