PandoraPartyProject

SS詳細

舂く

登場人物一覧

珱・琉珂(p3n000246)
里長
ベルゼー・グラトニオス(p3n000329)
煉獄篇第六冠暴食
零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ

 その場所は、全てを見下ろすことができる。だからこそ、彼にはぴったりなのだと宛がわれた墓所だった。
 混沌世界の中でどこを探したって彼に一番にぴったりなのは此処であっただろう。静寂よりも喧噪を好むだろう心優しいだったとさえ、零は考えている。
 ベルゼー・グラトニオスは冠位大罪などと言われた世界の爪弾きものではなかったと、青年は思うのだ。
 常に腹を減らしており、困ったように笑うその人が傍にいたならば食事の用意をしてやるだろう。何か食べたいというならば共に考えてやることだって出来た。
 そうは出来なくなったのは、その人がもうこの世には存在していないからだ。
 生きているだけで世界を壊す。どれだけ誰かを愛していようとも。その愛は暴食という罪に変わってしまうのだ。
 故に、彼は死を選んだ。死を選び抜いた果ての事を零は憂いてなどは居なかった。
「よっ、元気してたか?」
 定期的にこの場所に訪れるたびに必ずそうやって声をかける事にしていた。まず、笑みを忘れずに明るく朗らかに挨拶をする。
「とりあえずさ、食事とか持ってきた。これ、知ってるか? 最近の深緑での流行でさ」
 パンとコーヒーを墓の前に並べてから零は明るくに語り掛けるのだ。
 世界が破滅に向かい、そうして救われてから幾年か。零もすっかりとこの世界に打ち解けてパン屋として日々を忙しなく過ごす毎日だ。
 その中でも忘れ得ぬ友人の墓参りにはひょこりと顔を出してから、必ず決まってパンを持ち込むと決めていたのだ。フランスパンにはたくさんの具を挟み込んでサンドウィッチとして持ってきてやれば一時凌ぎにでも目の前の男の腹が膨らむだろうか。
「それでさ、近所の子供がな? 野菜を挟むなとか怒るんだ。野菜は食えた方がいいって言ってるのにさ」
 毎日、毎日。代わり映えのしない日々であれども、彼に言いたいことは尽きやしない。傍にいたならば野菜嫌いの子供に暴食を司った男は何と言ったのだろうか。
 ――なんて、考えるだけでも、胸がきゅっとなる事だってあった。
 彼は居ない。自分たちが殺した。それでも、憂いては居ない。罪などではない。
 ただ、に後悔はなくとも。友人を見送ったその苦しみは拭いきれやしなかったのかもしれない。
「なあ、ベルゼー。最近は如何だよ。腹いっぱい食ってるか?」
 墓の前で、そう問い掛ける零に「勿論。たっぷりと食べているわよね」と誰ぞの声がかけられた。
 緩やかに振り返れば春めく髪が揺らいでいる。ぱちりと開かれたその若草色の瞳は何時だって自信満々なのだ。
「琉珂」
「ふふ、こんにちは。お墓参りに来てくれていたのね? さっき、里の子達がパン屋さんが来たって言ってたから。
 なら、こっちに来ているんじゃないかと思ったの。パンを買いそびれたからって追いかけてきたわけじゃないのよ?」
「琉珂の分のパンはちゃんと預けておいただろ?」
「あら、私ってオジサマのなのよ? それはとびっきり食いしん坊なんだもの。足りるかしら」
 揶揄うように言う彼女に零はふっと笑みを零した。何時だって彼女は元気いっぱいで、まさしくベルゼーが育て上げたそのものなのだろう。
 少女はその生き方を血によって縛られていたのだろう。だが、それでも何ら不幸などありませんと言った顔をして笑うのだ。
「新作のパンも持ってきてくれていたでしょう? あれ、もう一つくらい欲しかったのよね。オジサマは気に入りそうだったから。私も好きになる予感がしたのよ」
「ベルゼーが好きそうだなって思ったのは確かに。
 でも、琉珂が好きなものも一応持ってきたつもりだった――けど、ああ、そっか。に持って来たかったんだな」
「正解。やっぱり、ご飯って言うのは一人で食べるのも勿体ないでしょう。私はオジサマとも一緒に食事を楽しみたいのよ。
 零もそうだと思うけれど、私もそう。美味しいものはみんなで共有しておきたいじゃない?」
 揶揄うように彼女が笑えば零は大きく頷くのだ。
 琉珂は天真爛漫に、堂々と生きている。自身が血に縛られた生き方をしていて、早くに両親を喪った彼女にとっては里おじさまと呼ばれていたベルゼーこそが親代わりであったとしても。
 彼女は出会いも、別れも、何もかもが大切でかけがえのないものだと分かっていたのだろう。
「オジサマに私も自分で料理を作って持ってくるとかも全然喜んでくれると思うんだけどね?
 ほら、私の料理ってじゃない? なんでかしらね、上手く作れなくって……私の料理、勝手に走っていくんだもの」
「普通の料理は走らないんだぜ」
「知ってる。でも、走るわ。驚いちゃう。凄い勢いでクラウチングスタートまでかますんだもの。
 里の在り方とか、竜種との共存とか、生きていく基礎の知識はオジサマがくれたわ。でも、お料理は習っていなかったのよね。
 ……習っておいた方が良かったのかしら? オジサマにお料理を持ってくることもできないような里長になってしまったもの……」
「まあ、料理係は任せてくれていいんだけれどな? ほら、うん、俺がいるし。
 フランスパン以外も一応作る事は出来るから役には立つはずだって。前の世界で食べて来たものとかも調理する事も出来る筈だし」
「教えてくれる?」
「あー……」
 教えても料理が逃げたからなあ、と言いたげな顔をした零に「酷いわ」と琉珂が拗ねたような顔をした。それもジョークの一つだと知っている。
 そう分かって笑いあえる程度には彼女とも仲良くなった。どちらかと言えば友人関係というよりも兄妹のように接しているというべきなのだろうか。
 二人を繋いでいるのはやはり、ベルゼーで。ベルゼーという存在が強く零をこのへと結ぶように呼び立てているのはきっと確かなのだ。
「琉珂はさあ、これからどうしたい? あ、いや……里を護っていくのは一番だけどさ。琉珂自身。
 ほら、親父代わりだったベルゼーもきっと聞きたいだろうからさ」
「えー? ……んー、そうねえ。目標はやっぱり里長として頑張る事だけれど。
 ふふふん、分からないわ。ただ、まっすぐに、一生懸命生きていかないとって思っているだけかもしれないわ?
 でもでもね、それでいいのよ! 私、何かあるたびにオジサマにちゃーんと報告するもの。知らないことをたくさんたくさん知っていきましょうよ。
 そんなときに、零も手伝ってちょうだいね。私が何かに踏み込むときに、零も手伝ってくれるなら、オジサマだって安心してくれる筈だから」
「まあ、そうだな。琉珂一人で放っておくのは不安だからなあ」
 揶揄うように笑った零を琉珂は肘で小突いてから可笑しそうに笑った。
 ――これからも、きっと、この日常は続いていく。彼が爪弾きにされてしまったこの世界でも、彼が残したものは芽吹いて生きていく。
 きっと見守っていきたかっただろう、日々を進む者は諦めてはならないのだろう。
「さ、琉珂。墓の周りを掃除するぞ」
「ええ、張り切っていくわよ!」
 見下ろす。フリアノンの美しさを。そこで生きる者の日々を。
 どうか、彼が見守ってくれているようにとただ、ただ、そう願い続けるのだ。

 おやすみなさい。また今度。――次は、何を食べたい?


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