PandoraPartyProject

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蛇眼

登場人物一覧

茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女

 毎日が、楽しい。秋奈はそう笑った。
 ――だって、体の中にはの声がするからだ。累々と響き、片々と重なり、稍稍と自分と同化していく。
 彼女の事を秋奈はアリエっちと呼んでいた。
 アリエっち。そう、彼女には実体がない。真性怪異の一つであり島そのものだ。ただ、自分の無茶が積み重なって時折頭の中から声がするような、気がしていた。
「やっほー、アリエっち。元気そ? 元気ってか肉体ないから精神的なモン?
 先輩に会いに行くつったらバチボコぶちギレ祭りってーかんじでー、まじやばば~? おもろ。そんな感じ。
 んでさ……暇? 何してる? てか、こん?」
 問い掛ける秋奈の前で何かがぞろりと動いた。
 大地を這い蹲ったそれがずるずると引きずられて犇めき合ってから緩やかに顔を上げる。
 自分と同じ顔をした何かがそこには出来上がった。土塊の張りぼてだ。ただ、話すための口が必要であっただけなのだろう。
 こてんと首を傾げたは言う。

 ――どうやって、話せばいい? ずっと、聞こえてた。

「じゃあ、真似っこして良いぜぃ。こっちは秋奈ちゃん。そっちはアリエっち」

 ――秋奈っち。

「そーそー、その調子。てか、マジ適性あるくない? やばじゃん。いーね」
 彼女は土着の信仰そのものだった。神様だった。だからこそ、その日常は変わらない。
 今日も誰かが身を投げるようにして鎮めようと願うのかもしれないが、そんなもの思い込みで作られているだけだ。
 秋奈は目の前の神様のより効率的な過ごし方を知っている。
 蛇と言うのは執念深くて強欲だ。だからこそ、欲しいものは欲しいがままに全てを飲み食らうべきであろう。
 秋奈はよく分かってしまった。目の前のアリエというのは、蛇を身に宿している巫覡であったその人は、きっと自由自在に歩き回れるのだろう。
 。それがどれだけ悍ましい存在であったって腹の中に入ってしまえば一緒だというように。
「アリエっちはさ、秋奈っちと一緒になりたいぜ、とか思う?
 や、一緒になりたいってのは結婚とかそういうのじゃないんだけどさ? まあ、わかる? へへ、わかれば嬉しいけどさ」

 ――わかる。

「だよね、一緒になって混ざり合って消え失せちゃったらそれが一番とか思わん?
 思ってくれるならそれが一番なんだけどさあ、どーよ。混ざってくれようとする?」

 ――しない。

 ぱちくりと秋奈は瞬いた。どうしてだろう。きっとアリエは欲しいものは何もかもを飲み込んでしまう筈なのに、どうしてそうしないのだろう。
 じっと見つめる秋奈にふっと小さく笑ったアリエが「音呂木」と指さした。
 後方に何かの気配を感じた。それは感じ慣れたものだ。凡そ心配性の先輩が無理やりここに入ってきたのだろう。
 誰かの神域に入れないくせに、ここは可能であると踏んだのだろう。いや、アリエならば受け入れてくれるとも秋奈はそう感じていたのだけれど。
「ああ、そっか。音呂木の巫女だから? そんな寂しーこと言うなよ。
 じゃあ、間借りしてよ、秋奈って体にさ、それで

 さくさくと葉を踏み分けてやって来たのは予想通りの先輩彼女だった。
 呆れ顔を浮かべてから「秋奈さん」と呼び掛ける。滝つぼをじいと見つめたまま微動だにしない秋奈の背中に声を掛けてくれたのだ。
「勝手にまた出かけて。今日は神社の手伝いだった筈でしょう? 無断欠勤と言うのですよ。
 そういうのはいけません。叱られてしまいますよ。だから、気を付けてくださいね。私はそう言うのに割かし厳しい方なのですから。分かりますか」
 嘆息した彼女の声を聴きながらはくるりと振り返った。
「ん、そーかも? でも、体が動いたらお終いじゃん?」
 嗤う。にんまりと唇を蛇のように大きく開き引き結んで。ひひひ、と息を飲むような声を漏らして。
 じっと目の前の彼女が見つめていた。何かを言いかけた唇が少しばかり開かれて閉ざされる。
 まるで、それ全てを受け入れたかのような顔をして。
「ああ、そうですね」
 それっきりの言葉を吐き出したのかと思えばうっすらと笑った。
 じりじりと何かの音がする。秋奈はそれを聞きながらくすくすと笑う。
 これは少しだけ、いたずらだ。何処までも行こうか。

「秋奈さん」



 ――頭の中から声がする。あれはおいしそうだなあ、欲しいなあ、ねえ、もっともっと
 人も神も関係ない。友達と一緒なだけなのだから。
 秋奈の瞳が細められた。蛇の眼に変化して、煌々と、笑って。


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