PandoraPartyProject

SS詳細

シレンツィオ・ロマンス

登場人物一覧

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
アルテミア・フィルティスの関係者
→ イラスト
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女

●『再会』
「……」
「……………」
「……………………」
 海洋王国大号令で手に入れた外洋――既に廃滅を失った平和の海にぽっかりと浮かぶシレンツィオ・リゾートは混沌の富裕層にとって人気のロケーションになっていた。
 目新しさもあり、絶景の美しさも備える高級リゾート地は特に若いカップルに好まれ、ここで結婚式を挙げる人間も多いという。
「……」
「……………」
「……………………」
 そんなシレンツィオ・リゾートの喫茶店。
 洒落た大通りを臨むオープンエアーの席に三人の男女が座っていた。
 三者三様、言葉は少なかったがそれぞれがそれぞれなりの顔をしている。
 アルテミア・フィルティス (p3p001981)――彼女は視線を少し明後日に逸らし、軽く汗をかいて頬を掻いている。
 ドーマン家伯爵令息、ヴァン・ドーマン――彼は白いカップに口を付け、静かにティータイムを過ごしている。
 そして、三人目――シフォリィ・シリア・アルテロンド (p3p000174)は一番愉快な有様だった。
 口を何事かぱくぱくと動かしかけては思い止まり、喉まで出かかった言葉を呑み込む仕草を繰り返している。
 そんなシフォリィを眺め、アルテミアは「あはは……」と乾いた笑い声を上げ、目を閉じたままのヴァンは優雅なお茶を続けている。
「……あの、えーと。ヴァン……?」
 その何とも言えない気まずい膠着状態を破ったのはアルテミアだった。
「その、今日はね……」
「うん。君と会うのはだったと思うけど――
 どうしたかのかと思ったよ。急にシレンツィオまで来て貰いたいなんて言うから。
 アル、君はやっぱりお転婆だな。見ていて飽きないし、男の振り回し方もだ」
 立て板に水を流すような調子でそう言ったヴァンにアルテミアは嬉しいような複雑なような微妙な表情を浮かべていた。
(……変わらない。一年前と何も)
 アルテミアはヴァンという男の器量をすっかり信じていたが、それを改めて確認出来たのは嬉しい事だった。
 燃えるような恋を過去に置き去り、変わらぬ優しい笑顔で『親友』をからかう姿は胸を温かくするものであった。
(……て、そうじゃない! 今日は……)
 チラリ、と表情を窺った親友シフォリィは頬を膨らめた――何とも難しい顔をしていた。
 恐らくそれはアルテミアがヴァンの姿にいたからで……
 いや、天地に誓ってそこには疚しい気持など無いのだが――
(……シフォリィさん、何だか前よりちょっと……可愛く……なってるわよね……?)
 ――どちらかと言えば気を張る事の多かった『頑張り屋』はこの程、随分と『素直』になっていた。
 以前は少し影がある時もあり、ここまでストレートに感情を出すタイプでは無かったように思われた。
 その理由が彼女の複雑な経歴にあるのか、それとも思い詰めがちな生来の気質にあるのかは知れなかったが……
(……少なくとも頬を膨らめて分かり易く拗ねるようなタイプじゃなかったわよね……?)
 そんな風に思わずにはいられないのだった。
 閑話休題。
「と、兎に角! 今日は来てくれてありがとう。
 久々に貴方に会いたかったし――一年はいい区切りだったと思うから。
 大事な二人の親友とこの時間を過ごしたかったのよ」
 上手く態勢を立て直したアルテミアは何とか今日の『本題』をヴァン目掛けて切り出した。
 実を言えばその言葉は半分は本当で、もう半分は軽い秘密を含んでいた。

 ――アルテミアさん、ちょっと、その。
   凄く言いにくいんだけど、頼み事があるんだけど……聞いて貰える?

 青天の霹靂はおずおずと――本当に言い難そうに。
 シフォリィが歯切れの悪いお願いをした事に起因した。
 その内容は、今日という機会を作る事。
 アルテミアはシフォリィが何かとヴァンに突っかかっていた事を知っていた。
 最初はてっきり仲が悪いのかと思っていたのだが――少なくともシフォリィ側が違う事にはすぐに気付いたものだった。
(あれは、仲が悪いんじゃなくて――)
 必死に自分を追いかけるヴァンに駄目出しをするその姿は小姑のようだったが、動機は恐らく『アルテミアを心配して』では無かった筈だ。
 いや、最初はそうだったのかも知れないが、最後は違う。
「――コホン」
 アルテミアの沈思黙考を破るようにシフォリィがわざとらしい咳払いをした。
「ドーマン卿。貴方は一流の紳士だと思っていたのですが、違うのでしょうか?」
 ほら、相変わらず可愛くない切り出し方をする。
「……と、申しますと? アルテロンド嬢」
 目を開けたヴァンは澄ました顔のまま、シフォリィの瞳を覗き込む。
 切れ長の瞳に映った自身の姿にワンピース姿のシフォリィは早くなる動悸を自覚していた。
(……わざとらしく他人行儀な呼び方をして!)
 仕掛けて、やり返されて憤慨するその姿は――成る程、アルテミアが感じた通り随分と幼い。
 上手く猪を転がすヴァンは手慣れた調子で不器用な女を揶揄っているように見えた。
「こういう場では紳士が会話をリードするのがマナーでは?
 ほら、私もそうですし――アルテミアさんは貴方が求めた令嬢ですよ!
 だったら、いい所を見せてくれてもおかしくはないと思うのですけど!?」
「ははあ」
「アルテミアさん、美人でしょう。
 中々釣り合う男なんていませんよ!
 最近はもっと綺麗になって――見惚れてしまうのも分かりますけどね!!!」
 熱暴走をしたシフォリィは自分が何を言っているか正しく把握していないだろう。
 何故か、他の女を――それもこれだけ複雑な経緯を辿った親友を謎のマウントの材料に使っている。
 冷静に考えれば、シフォリィの感情と今日の目的を勘定に入れればそれは圧倒的な悪手であり、サーキットを逆走する暴走の如き所業であるのだが……
(ああああああああ……!)
 ……頭を抱えるアルテミアは知っていた。
 親友の気質を知っていた。
 嗚呼、恋する乙女に煮えるなと言っても余りに詮無い。
 折角セッティングをして貰ったものの、どうしようもない位に不器用なこの女は機会を正しく使うような術を持ち合わせて等居なかったのだから。
「アルが美人なのは良く知ってるさ。世界で旦那さんの次に――あ、おためごかしは辞めよう。
 それに関しては世界で一番僕が知っている。ま、対抗する事じゃないし、定量化で判定出来る事でもないけどね」
「ああ、そうですか! それは良うございましたね!!!」
「君は元気で面白いなあ、『シフォリィ嬢』」
 今度は名前で呼んだヴァンにシフォリィの頬に朱色が走った。
 混乱なのだか、憤慨なのだか、興奮なのだか、ときめきなのだか――
 綯い交ぜになって切り分けられない複雑な感情を抱く彼女は「ふうふう」と呼吸を整え「それでいいんですよ!」とまた身勝手な返答をした。
「でも、面白いって何だか含みを感じるんですけど――」
「――そう? 本音を素直に伝えたまでだが」
 優雅な仕草でまたお茶を一口。お茶請けのクッキーを上品に指先で摘まんでヴァンは笑った。
「食べる?」
「食べますけど!!!」
 流れで「あーん」するような恰好になって、騒ぐ口にクッキーを放り込まれたシフォリィはそれで少し静かになった。
 だから、なのだろう。
「さっき君はアルが美人だなんて――当たり前の事を言ったけど。
 君は『綺麗』より『可愛い』だな。いや、綺麗も否定しないんだけどね――やっぱり可愛いよ」
「――――」
 不意を打ったヴァンの一言にシフォリィはアイスブルーの瞳を見開いた。
 年上の、このプレイボーイが噂通りの人物ではない事を彼女は既に知っている。
 浮ついたような言動も、歯の浮くような気障な台詞も彼の軽薄さを肯定しない。
 彼は最初から軽薄では無く、浅薄でも無い。ただ他人の目を気にしないだけで――誰もがそう思うような軽い調子で、真実を語る人だった。
(……最初は気に入らなくて。アルテミアさんに近付く悪い男だと思ってて)
 すぐに気付いて、でも訂正は出来なくて。
(何度も突っかかって、邪魔をして……)
 分かっていたけど、動機は何時か別のモノにすり替わっていて。
(失恋をした彼を、アルテミアさんをだしにして呼び出している――)
 シフォリィはヴァンの言葉をもう一度噛み締めた。

 ――君は可愛い人だな。

 彼がそんな風に言うのなら。
 彼がそれを期待してくれるのなら、そう思ってくれるのなら。
 女は度胸。シフォリィ・シリア・アルテロンドは――覚悟を決めて『可愛く』ならなければならないのだと彼女は思う。
「……けど」
「うん?」
「もうこの際だから、言っちゃいますけど!」
 顔を真っ赤にしたシフォリィは大きな瞳を潤ませて思いの丈を吐き出した。
「今日! この場を! 頼んでセッティングして貰ったのは私で!!!
 理由は貴方の顔を見たかったからで、シレンツィオならいい雰囲気になるかなとか思ったからで!!!」
「……………」
「それもこれも、もうずっと! ずっと前から!
 私、あなたの事が気になってしょうがないんですよ!
 貴方がどれだけアルテミアさんの事好きなのか――嫌ッて程知ってますけどね!
 そういう理屈じゃなくて、ああもう! 死ぬ気ですよ、こちとら!」
 恥フォリィ・シリア・アルテロンドーー最高にして最悪の大見得がオープンエアーに響き渡る。
「――どれだけ時間かけても、その気にさせます!
 貴方が素直じゃない女が苦手でも!
 出会いが遅かったなんて……言わせてやりませんから!!!!」
 言うだけ言ったシフォリィは席を勢い良く立って通りの彼方に走り去る。
「……行っちゃったわね」
「ああ」
 ヴァンは幽かな微笑みを浮かべて頷いた。

 ――自己評価が間違ってる。君はずっと『素直』だよ。
   君の頑張り次第だけど。僕も次の恋に出会えるのかも。

 困った顔をするアルテミアにその内心を告げず、楽しそうに笑っていた。

おまけSS『恥フォリィ』

「こ れ は ひ ど い」
「お前が始めた物語だろ」
「……いや、確かにそう頼みましたけどね。
『今回とことん恥フォリィでお願いします』とか書きましたけどね?
 地の文でまで嬲られているのですが……」
「君が嬲られてるとか言うとヤバい趣を感じるね」
「綺麗なラブコメのあとがきに不適切な事言わないでくれますか???」
「お前が始めた物……」
「ま、まあまあ。い、一応いい感じにまとまった事ですし……」
「は! アルテミアさん? 既婚者マウントですか?
 いい身分ですね! 素敵な旦那様が居る方は!!!」
「え、ちょ……シフォリィさん?
 散々マウント芸で私に蹴りを入れてきたのは貴方じゃないの!?」
「それは! 私では無く! そこのコレ書いた人の責任ですよ!」
「い、いえ。違うわ。シフォリィさん自身も愉しんでたわよ!?」
「く……余計な知恵を……」
「と、兎に角。HappyEndじゃない。これの上で、ほら最後は公認がね?」
「……う、うむ。まあ、その……そうですね」
「幸せになれて良かったね」
「非常に複雑ですが、一応礼を言っておいてやりますよ!」
(……ああ、可愛くない。それでこそシフォリィさんだわ……)

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