PandoraPartyProject

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『鳴り響く鑑賞会』。或いは、ウィルインの芸術祭…。

登場人物一覧

ベルナルド=バードケージ(p3p002941)
アネモネの花束
イズマ・トーティスの関係者
→ イラスト
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

●芸術祭の誘い
「画家の知り合いがいたでしょう? 彼に仕事を依頼することは出来ない?」
 ある秋の日のことだ。
 ヴァインカル・シフォーにより持ち込まれた奇妙な依頼に、イズマ・トーティス (p3p009471)は首を傾げることになる。
「画家? あぁ、ベルナルドさんのことか。仕事の依頼は出来ると思うが、またどうして急に?」
 音楽家であるヴァインカルが、画家に仕事を依頼する。
 なるほど確かに、混沌世界には自画像を残したがる音楽家というのも少なくはない。だが、ヴァインカルがそう言った自己顕示欲とは無縁の女性であることをイズマは良く知っていた。
 だからこそ、イズマはその依頼を疑問に思う。
「音楽の街・ウィルインがあるでしょう? そこの権力者からの依頼でね。協賛として出資している手前、腕のいいアーティストを参加させなきゃ面子が潰れるとか……まったく面倒な話だわ」
「? それならウィルインの音楽家や画家に依頼を……あぁ、いや。そうか、その権力者、さては出遅れたんだな」
「そう言うことよ。名の知れたアーティストは、既にほかの協賛者のお手付きでね。横から奪うような真似は出来ないとかで」
 そこで依頼者は考えた。
 ウィルインのアーティストを使えないのなら、外部から招けばいいのだと。
「それでベルナルドさんに白羽の矢が立ったわけか。もしかして……君もか?」
「うちの楽団も呼ばれているわね。それで、どう? 頼んでもらえないかしら?」
 表情を変えず淡々と告げるヴァインカルだが、その実、少し困っているのだとイズマは察した。何故なら普段よりも、少しだけ視線が泳いでいる風であったからだ。
「まぁ、話してみよう」
 きっといい返事がもらえると思うよ。
 ヴァインカルの抱える困りごとを解決する手伝いができるのならば重畳と。
 イズマは依頼を受けることに決めたのだった。

●ウィルイン“大”芸術祭
 その街は、音と色に溢れていた。
「忙しいところを呼び出してしまってごめんなさい。来てくれて助かるわ」
「なに、構わんさ。諸事情あってな、筆取る時間もありゃしねぇ……と思ってたから、イズマからの誘いは渡りに船だった」
 周囲をきょろきょろと見まわしながら、ベルナルド=ヴァレンティーノ (p3p002941)は呵々と笑った。忙しいのは確かだが、ベルナルドは友人の頼みを無碍に断るような薄情者ではない。
「それにしても活気があるな。音楽家が多いようだが……画家やらガラス職人やらもいるのか」
「音楽の街だから、音楽家が多いのは当然だな」
 人々の掻き立てる喧噪を打ち消すほどに、街には音が溢れていた。
 ロックにジャズ、クラシック……名も知らぬような民族音楽。様々な音と歌声が、街の至るところから聴こえているのだ。
 目を閉じ、音に耳を傾けながらイズマは口元に笑みを浮かべる。
「芸術や創作は面白いものだよ。音楽とは違うプロセスで作られた表現とその手法、そして現れる自分には無い解釈と価値観。それらを読み取るのが面白い」
 音楽ばかりを聴いているだけでは、新しい音楽は生み出せない。
 インスピレーションを湧き上がらせるためには、音楽以外の芸術や文化に触れることも大切だ。流石というべきか、ウィルインの都市運営者たちはそのことを正しく理解しているようである。
「自分には無いものを取り入れたり"俺ならこう表現する"と考えたりするのは音楽に活きる」
「結構なことだな。まぁ……妙に肖像画が多いのが気になるが」
 露店で売っていたポストカードを手に取って、ベルナルドは苦笑を零した。
 ポストカードに描かれているのは、どうやらウィルイン在住の音楽家であるらしい。ヴァイオリンを手にしているところを見るに、おそらくヴァイオリニストなのだろう。
「さっき向こうの広場で演奏していた者だな」
「彼、有名なヴァイオリニストよ。あんな広場で演奏するような人じゃないはずなんだけれど……?」
「ゲリラライブって奴じゃないのか? この街じゃ、どこでいつ演奏するのも自由なんだろう?」
 ベルナルドの言う通り、街のあちこちには有名、無名を問わず無数の音楽家たちが演奏をしていた。いかにウィルインが音楽の街として名を馳せていても、大きな舞台や音楽ホールの数には限りがあるためだ。
 ウィルインに暮らす……或いは、芸術祭のためにウィルインを訪れた音楽家のすべてに適切な演奏場所を提供するのは無理があるということだろう。
「そう言った意味では、ステージを借りられた俺たちは運が良かった。ヴァインカルさんのおかげだな」
「私の……というよりは、楽団のおかげね」
 そう言ってヴァインカルは肩を竦めた。
 くすりと笑みを零したイズマが「緊張してる?」と問いかける。
 まぁ、問うてみただけだ。ヴァインカルの答えなど、聞くまでもなく最初から分かり切っているのだから。
「まさか」
 “孤独な蛮族”らしい、戦場に向かう戦士が如き笑みを浮かべてヴァインカルは答えた。
「いつも通りに演るだけよ」
 ステージの開演まで、あと三時間。
 3人は意気揚々と会場の方へと足を向けるのであった。

 イズマとヴァインカル、ベルナルドに与えられた“ステージ”は、とある貴族が有する屋敷の庭である。
 大通りから少し奥に入った場所にある比較的小さな屋敷だ。
 屋敷の周辺にある路地なども貴族の私道であるらしく、“ステージ以外”までを含めれば破格なほどに広い土地を使用できる。
「メインのステージは屋敷の庭を使用するとして……だ」
 そう言ってイズマは、手元の地図と庭の隅に積まれた木箱や布の包みを交互に見やった。木箱や布包みは、この日のためにベルナルドが手配した絵画である。
 どの絵画も、ベルナルド自身が描いたものだ。その数は30点にも及ぶ。
ベルナルドがこれまで完成させてきた絵画の総数からすれば、それでもごく一部というのだから凄まじい。
「どの辺りまで絵を飾る? 警備のことを考えると庭の範囲内に収めるのがいいと思うが」
「……いや」
 地図に指を這わせながら、ベルナルドが思案する。
「ここから此処まで、私道にも飾りたいな。屋敷の塀を壁として扱えば、画廊のような空間を演出できるはずだ」
「ベルナルドさんがそう言うなら、それでいこう。急いで展示を終わらせないとな」
「何処にどの絵を飾るかは指示する。運ぶのを手伝ってくれ」
 リハーサルの時間を考えれば、会場の準備に割ける時間はさほど多くない。
 速やかに打ち合わせを終えた3人は、休む間もなく絵画を運び始めるのだった。

 開演時間の30分前。
 少しずつ、屋敷の庭に人の姿が増え始めた。
 屋敷の庭に特設されたステージの裏で、3人は最後の打ち合わせをしているところだ。ざわざわとした喧噪が、3人の耳にも届いている。

「聞いたか? わざわざ天義から画家先生をお呼びしたんだとよ!」
「道理で、雰囲気のある絵ばかりと思ったんだ」
「でも心配じゃないか? 怪盗“ブラックバード”が盗みに来るかも知れねぇよ」

 聞こえて来る会話に耳を傾けながら、イズマはくっくと笑みを零した。
「ベルナルドさん、怪盗“ブラックバード”が来るかも、だそうだよ」
「………だ、誰の事かねぇ」
 苦い顔をしたベルナルドが、イズマの脇に肘打ちを入れた。

 開演の合図は、静かなピアノの音色によって告げられた。
 降り始めたばかりの雨にも似た音の粒が、1つ、2つと響き渡る。小さな音だ。音に気付いた観客たちが、次第に声を潜め始めた。
 会場が静かになるのと反比例するように、ピアノの音は大きくなった。
 強く、速く、音の雨はその勢いを増し、遂には豪雨が訪れる。
「行って来る」
 豪雨の中へ、1人の画家がその身を投じた。
 ステージの中央へと歩み出た画家は、ステージを覆う大きな布に手をかける。
 音の雨が最高潮に達した瞬間、画家は少しだけ大仰な仕草で白布を取り払った。
 余韻の中、衆目に晒されたのはステージの全体を使った大きな絵画。
 描かれるのは大空。
 雄大なる白雲の海。
 互いに支え合うように、大空を泳ぐ青と白、2羽の鳥。
 その迫力と画力の高さに、観客たちは拍手喝采の雨を降らせた。深く一礼をしたベルナルドは、絵筆を手に取り巨大な絵画へと向き直る。
 今にもカンバスから飛び出して来そうな鳥たちは、しかし実際のところ未だ未完成であった。
 2羽の鳥が自由な空を泳ぐための“瞳”が描かれていないのだ。
 すぅ、と目を閉じたベルナルドは冷たい空気を肺いっぱいに吸い込んだ。
 ゆっくりと絵筆をカンバスへと寄せる。
 青い鳥には、赤い瞳を。
 白い鳥には、青い瞳を。
 長い時間をかけて、ベルナルドは2羽の鳥に“瞳”を入れた。
「2羽の鳥は、自由なる音楽の空へ……『鳴り響く鑑賞会』を心行くまでお楽しみください」
 その声は、決して大きな声量では無かった。
 けれど、屋敷の庭に集った観客たちの耳に、その声は確かに届いただろう。
 割れんばかりの拍手と喝采。
 満足そうに一礼をして、ベルナルドはステージを立ち去っていく。

「大空を自由に飛ぶ青と白の鳥……青が、美しいな」
 ステージの端に佇んだまま、イズマはじぃと大きな絵画を見つめていた。
 ステージの奥では、既にヴァインカルがピアノを弾いて待っている。その向こうには、ちょっとだけ疲れた顔のベルナルドがいた。
 後はイズマがステージに上がれば、今日のメインたる演奏会の始まりである。
「鳥の描き方も素敵で……さて、この絵からどんな音を生み出そうか」
 実際のところ、今日のステージで演奏する楽曲は決まっていない。 
 通常の演奏会ではありえないことだが、イズマとヴァインカルは事前に相談したうえで、今日の演目を「突発的なセッション」という形で送ることに決めていたのである。
 イズマとヴァインカルであれば、それが出来ると双方ともに確信していたがゆえだ。
(こんなに良い絵を描いてもらったんだ、俺達はそれに恥じない演奏をしなくてはいけないな)
 ふぅ、と肺に溜まった空気を吐いた。
 脳の熱が空気と一緒に吐き出され、少しだけ頭が冷静になった。イズマは傍らに置いていたヴァイオリンを手に取ると、まっすぐにステージへと視線を戻す。
 ピアノを弾いていたヴァインカルが、イズマの視線に気づいて顔をあげる。
 その口元に、ほんの薄っすらとした笑みが浮かんだ。
 イズマとヴァインカルの視線が交差する。
 孤独な蛮族が、まるで挑発するかのように瞳を細めた。
 自然と、弓を握る手に力がこもる。
 そうだ。
 いつまでも絵に見惚れているわけにはいかない。
 観客たちが、演奏会の始まりを今か今かと待ちわびているのだから。
 
 その演奏会は、決して長い時間をかけて行われたものでは無かった。
 その演奏会に足を運んだ人数も、ウィルインの総人口からすればほんの些細なものだっただろう。事実、その日のウィルインで最も集客数の多かった音楽家や楽団は他にいる。
 だが、その演奏会に足を運んだ者たちは口を揃えて同じことを言ったのだ。

「音楽はただ聴くだけのものじゃないんだよ。目で見て、身体で感じて……心を震わせて。鑑賞するってのは、きっとあぁいうことを言うんだろうな」

 


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