PandoraPartyProject

SS詳細

あいすること

登場人物一覧

珱・琉珂(p3n000246)
里長
劉・紫琳(p3p010462)
琉珂のとなり

 すること。
 ――合すること。それは、彼女の歩みに合わせて進むこと。
 ――相すること。それは、彼女の心に答えるように生きること。
 ――逢すること。それは、彼女の顔を見て笑うこと。
 ――愛すること。それは、彼女の事をたった一人の人間として添い遂げること。

 劉・紫琳は大切な人が出来た。混沌世界を救った英雄だからその褒章に姫君をくださいだなんてとんでもない事は口にはすまい。
 ただ、これまでの歩みで大切な相手が出来たのだ。:混沌世界なんてどうでもよくて、どちらかと言えば危険な領域に住まう一人の姫君の背中だけを追っていた。
「ずーりんは、世界を救ったら何するの?」
 何気なく問い掛ける彼女の横顔を紫琳はじっと見つめた。珱・琉珂はマイペースなだ。亜竜姫の通り名そのものの存在でもある。
 危険領域とこれまで恐れられた覇竜領域に存在する竜に仕えた人間としてよくよく知られていたその人は亜竜種を率いていく里長の家系に生まれ、一人で立ってきた。
 彼女を支えていたのが七つの罪に数えられた暴食であったのは、きっと人生における最大のミスマッチだっただろう。
 紫琳はじっと琉珂のかんばせを見つめる。春めく髪に、穏やかに芽吹く色の瞳。楽しげに笑う彼女が手にした書類をとんとんと重ね合わせている様子を眺める。
「それは……琉珂、の、おそばにいるというのとか」
「そんなつまらない事でいいの?」
「つまらなくは、ないですよ」
 紫琳は肩を竦めた。確かにこれまで様々な出会いを重ねてやってきた。
 領域を開くがために各国との話し合いを重ね、危険領域を避けての交易も開始されたと聞く。特に離れ小島であるカムイグラとはそれなりに分かりあう部分があったのか琉珂はカムイグラ式の衣服を着て楽し気にからからと笑っていたのだ。
「里を開くだなんて、そんな突拍子もないイベントがあったのですから、何をつまらないというものですか。
 ……だって、琉珂がいると飽きないでしょう? 幻想王国で若王と謁見した際には何を思ったのか、握手を求めに行ってレイガルテ翁に窘められました」
「だって、なんかあの人優しそうだったでしょう? さんせーへーか」
「三世陛下」
「だから普通に握手をしたかったの。あの人はきっとそれを許してくれる。
 でも、幻想王国って貴族だとかなんだとか大変なのね。領域も血統を大事にしてるけどあそこまでじゃないわ」
 覇竜領域はどちらかと言えばが名前になって、それを子孫に次いでいくという知識と技術の継承が為の血統であっただろう。
 貴族主義の国の在り方は琉珂には少し難しかったのだろう。同じように帝を天と仰ぐカムイグラなどはが気さくであったがために問題も起きなかった。
 霞帝などは「ああ、貴殿が亜竜の姫か!」とからからと笑いながら歩き出し肩をばしばしと叩いてきたのだ。
 傍らで中務卿が頭痛と胃痛を堪えていたそうだがそれはそれ。琉珂にとっては楽しい国の一つとなったはずだ。
「でも、一番私が難しいのは天義だったわね。政変も凄そうだったし? まあ、いいんだけど」
「そんな適当な……でも、そうですね。琉珂が領域の代表として色々な場所に行くのについていかせていただいて世界は広がりました。
 イレギュラーズだったから、知っていたつもりでした。混沌の在り方も、美しい世界の見え方だって。それでも、違って見えたんです」
 紫琳はじっと琉珂を見る。このおてんばなお姫様についていくとなんだって違って見えるのだから可笑しくもなる。
 楽しそうに走っていってはけらけらと笑う。くるりと振り返ったかと思えば「何をする?」と唐突に遊びに誘う。
 を見ていてつまらないなんてことがあるものか。
 ――それに、紫琳は。
「琉珂と一緒にいる事に異議があったんですから」
「ええ? どういうこと?」
 琉珂は首をこてんと傾げた。それから書類を紫琳に手渡してから、うんと伸びをする。
 今日の仕事はおしまいですと言いたげな彼女に紫琳は受け取った書類を分けてから「飲み物を淹れてからお話ししましょうか」と笑いかけた。
 里長が使用する部屋にはソファーなどラサから取り寄せた品を並べた。紫琳が出来うる限り仕事をこなしやすいようにと配慮をしたからだ。
 ソファーに腰掛けてにこにこと待っている彼女には深緑で紫琳が購入してきた茶葉を使用したミルクティーと鉄帝で琉珂が美味しい美味しいと喜んでいたバウムクーヘンを用意した。
「ありがとう! 気が利くわね!」
「ふふ。そろそろお腹がすくかと思っていたので」
 にこにこと笑う紫琳をじっと見てから琉珂は「それで、一緒にいるだけではつまらなくない?」ともう一度問いかけた。
「いえ、ですから――」
「だって、それはあくまでも里長として生きていく私の在り方でしかないわ。
 じゃあ、違うと思うの。アナタが何をしたいのかとか、何をしていきたいのか。そういうものを聞いておかなくちゃならないと思う。
 だって、私はアナタの友達よ。ずーりんのことは大好きだし、他のみんなの事もだいすき。
 でも、私のにアナタを付き合わせたくはないの。私はフリアノンの主になるべく育てられてきた。
 おじさまがと声をかけてくれたように――そうあるように、そうやって生きて来た」
「……はい」
「そのうえで、アナタが、ずーりんがどうしたいのかを教えてほしいの」
 真っ直ぐに見つめる琉珂に紫琳は観念したように息をついた。
 きっと、彼女にはきちんと答えなくてはならない。紫琳が何かを考えていることだって、この日常を一緒に過ごす中で気が付いていただろうから。
 唇を引き結んだ紫琳をじっと琉珂は眺める。
「琉珂は強いですね」
「ええ~、いきなり何?」
 照れたように彼女が笑った。ずっと、彼女は歩み続けていく。彼女の隣に立っているために、結城を持たなくてはならない。
 気づかれてはならないと、押し殺して来たけれど、それだけではのだ。だって、押し殺し続けていたら彼女の傍にはいられないだろうから。
「ずっと、貴女に気づかれないようにしないとと思っていました」
「うん」
「だって、貴女を困らせたくなかったから」
「うんうん」
「……聞いて、くださいますか」
 問い掛ける紫琳に琉珂が緩やかに頷いた。
「私は、琉珂と一緒にいたい。貴女の隣でずっと一緒に歩いていきたいです。
 友人としてでもなく、里長としてでもなく、貴女が大好きで、愛しいから……貴女のたった一人の、一番の、特別がいいです」
「待った!」
「今ですか」
「そう、今!」
「……欲張り、でしたか?」
 目元を赤くした紫琳に琉珂は「そういうの考えたこともなかったの!」と慌てたように声を上げた。
「で、でもそう、そうね。これから、これからよ!
 私……あの、まだまだだめ、な人間だから、その……恋とかよーーくしらなくって。愛することはわかるけど」
「ふふ、琉珂はベルゼーに育てられたから」
「そ、そうね。だから、その……少しだけ待っていてくれる?」
 きっといつか、この気持ちが恋になるから。博愛ではなくて欲張りな感情になるから。
 だから、その時まで待っていてほしい。
 そう告げてから琉珂は「大好きよ、ずーりん、だから待っていて」とそう囁いた。
 ――これは、あいすること。そのはじまりのおはなし。


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