SS詳細
鮮烈
登場人物一覧
●霹靂のように
彼女はまるで青空を引き裂く霹靂のようだった。
太陽の光の中でも確かな存在を失わない雷撃は夜闇のキャンバスを求める事さえ無く身勝手で余りにも鮮烈だった。
「――――」
ウルカン・ロナードはその瞬間の事を忘れられない。
長い人生の中で思い出がセピアに褪せても、諸悪の根源が枯れて落ちても――
それは彼の物語の原風景であり、余りにも特別な出会いは上書きされる事すら無く。
まるで傍迷惑な呪いのように心の底に居座り続けたものだった。
「……やあ」
嗚呼、ウルカンは知らない。
「出来れば――助け起こしてくれると嬉しいのだが……」
「……あの、一応伺いたいのですが……」
「何でも聞いてくれたまえ」
差し出された女性の手を掴み、引き起こしながらウルカンは問うた。
「貴女は一体何処の誰で――これは一体全体どういう状況なんです?」
ウルカンの視点でモノを言うなら
それ以上にも以下にも言い様は無く。
辺りの状況を説明するなら一帯は酷い喧騒に包まれていた。
強烈な轟音が空気と鼓膜を揺らしたと思ったら、そこかしこから火の手が上がり……後は御覧の有様である。
周辺の人々は火事の消化と建物で起きた爆発に右往左往を余儀なくされている真っ最中といった所か――
「……それは……まあ、説明すれば長くなると言うか」
「長くても構いませんから説明して下さいよ」
「……………いや、まぁ、その、な?」
整った顔立ちを煤けさせた女の泳ぐ目を見れば想像はついた。
彼女は鍛冶師らしい色気の無い作業着を纏っており、如何にも職人といった格好をしていたから。
……まぁ、素直にモノを考えるのならそれと
「……あ、新しい技法を試してみようと思ったら、だね? そうしたら何て言うか……うん。
「……………」
「あはは」と乾いた笑いを浮かべた女性にウルカンは深い溜息を吐いた。
彼がこの地方都市をはるばる訪れたのはとある人物に会う為だ。
彼女に手紙をしたため、弟子入りの許可を得て。待ちに待った今日という日。
「……ああ、まあ。何だか全部分かりました」
太陽の光に目を細め、ウルカンは黒煙を噴く工房の軒先を見上げた。
そこには焼け焦げた銅のプレートがぶら下がっている。
――ミレイユ・ファン・ベックの魔法鍛冶店
「……そういう事ですよね?」
「君の方こそ、そういう事でいいんだよな?」
互いに顔を見合わせれば、お互いが何とも収まりの悪い顔をしていた。
憧れの名工は見ての通りで、始まりがこれでは威厳も何もあったものではない――
実を言えばミレイユはこういう失敗で何度も便利な雑用……ではなく弟子を取り逃がしている。
「……念の為聞いておくけど」
「はい?」
「……止めとく?」
「まさか」
ウルカンはミレイユの言葉を笑い飛ばした。
ミレイユ・ファン・ベックは天才的な魔法鍛冶師だ。
彼女に弟子がつかなかったのは――ウルカンにチャンスが回ってきたのは確かに彼女が曰く付きの人物だったからだ。
だが、天才らしい偏ったステータスの
自他共に認める優等生で、その代わりに凡百極まる――自身をそう評している――ウルカンはミレイユがミレイユで無かったらここには居ない。
予想外の出会いに面食らいはしたものの、却って納得がいったウルカンは淡く微笑んでその右手を差し出した。
「僕はウルカン・クロードといいます。一通りの鍛冶技術は覚えている心算ですが……当面の売りは別ですね」
「……どういう意味だい?」
「僕は家事全般と事務作業が得意です。税金の計算とか、後はそうですね。憲兵への言い訳なんかも出来ますよ」
「それは素晴らしい!」
ミレイユは冗句めいたウルカンの言葉がいたくお気に召したようだった。
「遅くなったけど、私はミレイユ。ミレイユ・ファン・ベックだ。
早速活躍の機会だよ、クロード君!」
固い握手を交わしたミレイユは早速駆けつけてきた憲兵から隠れるようにウルカンの背後に回る。
「早速貸しですよ、
軽く笑ったウルカンはこの出会いに――いや、ミレイユに生涯言わなかった秘密がある。
――霹靂のような貴女はワクワクする師匠でした。
でもね、嬉しかった事がもう一つ。僕はあの時、きっと貴女に一目惚れをしたんです。
滅茶苦茶で、放っておけなくて、ハッキリ言って僕の好みの真ん中でしたから。
- 鮮烈完了
- GM名YAMIDEITEI
- 種別SS
- 納品日2025年12月31日
- ・ヴェルグリーズ(p3p008566)
※ おまけSS『相変わらず出てこねえ』付き
おまけSS『相変わらず出てこねえ』
「オリキャラとオリキャラが織り成すヴェルグリーズ-1!」
「こりゃまた怪獣映画みたいな表題を始めたね」
「前回がヴェルグリーズ0で本文にお名前が
「はい」
「今回は何とゼロです! 永遠のゼロ! 掛けてもゼロ! 一切登場しません!」
「wwww」
「wwwwwwwww」
「草じゃない気もするけど、流石に草」
「まぁ、書き残した事があったら好きな事書けとは言ったからね」
「折角なのでヴェルゼロのカップル(?)を補強する出会いのシーンにしてみました。
尺的にはショートなので間合いは作る余裕は無かったけれど、軽くね。
この位はこの位でライトな書き口で良いかも知れない」
「まぁ、謂わば
「そう。そんな感じで。この後、二人の設定詳細も出るから……そこでもうちょっと補強されると思います。
ヴェルグリーズの場合『あくまで元は魔剣』だからこういう出生アプローチも斬新で面白い気もするかなあ」
※滅茶苦茶遅れて本当に申し訳ありませんでした。
リクエストの内容を鑑みて完全な外伝(遥かな前日譚)としています。
別作『凡百』を読んだ後に読むとより楽しめる事と思います。
上述、事情ございましたがせめて本作はお楽しみ頂けていれば幸いです。