PandoraPartyProject

SS詳細

Egoism

登場人物一覧

ベルゼー・グラトニオス(p3n000329)
煉獄篇第六冠暴食
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲

 ――例え世界が許さなかったとしても共に生きたかった!

 叫べば、何かが変わっただろうか。
 何時の日かやってくる別離など理解していたというのに。到底、言葉にすることが出来なかった。

 ――あの日、本体と分離して精神体となったお前を受け入れたかった!
   この命が尽きるその時まで、お前の事を愛している。愛していたんだ。

 彼は優しい人だった。人間とに何の違いがあるのかとゲオルグは問いかけたいほどに。
 あれほどに純真無垢な愛情を人に注げる者をゲオルグは知らなかったのだ。
 彼は、己が大事に思ったものをしまいたくなるのだ。それがそのサガであることは仕方があるまい。
 例えば、慈しみ育てた家族も、共にいた大切だと知っていた存在だってそうだ。
 何もかもがに見えてしまう。そんな悲しきサガを抱えたままずっとずっと生きて来た。
 だからこそ、彼に伝えたかった。
 夢はぼんやりとおのれの世界を照らしている。薄ぼらけの世界の中に彼が、ベルゼーが立っていた。
「……ベルゼー」
「おや、こうやって呼び寄せてくれるとは不思議なものですなあ」
 少しだけの距離、それを詰めることはできなかった。彼がそこから一歩でも動かないでくれとその瞳で語っていたからだ。
 きっと、ゲオルグの気持ちなどベルゼーにはお見通しであったのだろう。ゲオルグからすれば、己の中に抱いている愛情がまさしく恋情のような生温さを宿していることを知っていたのだから。
 きっと、ベルゼーが他方に向ける穏やかで愛おしくなるような愛情とは違う、もっと薄汚れた感情がそこにあった。
「ベルゼー」
「どうかしましたかな」
「……頼むから、居なくならないでくれないか」
 ゲオルグは呻きながらそう言った。目の前のベルゼーの顔を見る事などできるまい。きっと、顔を見れば彼がひどく悲し気な表情をしていることにだって気付いてしまうからだ。
「どうか、頼む。お願いだ。居なくならないでくれ」
「それは無理な話でしょう。少なくとも我が身はだった。
 七つの罪は消え失せなくてはならない。その事には違いがないのですからな。何せ、我らが乳を苦しめる欲など大いなる大罪でしかない。
 ならばこそ、分かるでしょう。我が名前はベルゼー・グラトニオス。
 私は七つの大罪の暴食を司り、この世界を絶望へと導く滅びの徒でしかなかったのですから」
「そんなことを言うな。ベルゼー、お前は、しっかりと人を導いていた。
 他者を愛し慈しみ、だからこそ、あのような絶望の領域で亜竜種たちが生き抜けたんじゃないのか。
 竜種たちが人と手を取り合う未来を導いてくれたのだって、お前がいたからこそ、そうだろう?
 ならば、何もお前という生き方が罪であったわけじゃない。お前そのものの成り立ちが罪だったというならば――」
「我が身が抱く愛情は、愛するという事はすなわち罰であったのでしょうな」
 囁かれてからもがくように走り出した。ゲオルグの指先がベルゼーに触れんとする。
 だが、それは揺らぎ、一瞬で掻き消えてまた距離の離れた場所に像を作り出すだけだった。
「そんな罰、あり得て堪るものか」
「いいえ、あり得てしまった。私はたくさんの愛しい存在を食らい、そうして生きて来た。
 どうしたって減り続ける腹を満たすものはなく、この体は破裂をしてしまったでしょう。そのような悍ましさを見て、それでも尚も、と言いますか。
 我が身がどれほどの罪と罰を背負っているのか、そんなことでしょうに――!」
 叫ぶようにそう言ったベルゼーにゲオルグは違うと首を振った。
「一緒に居たかったんだ」
 子供のような、言葉だっただろう。膝から崩れ落ちてしまいそうなほどに、泣き出してしまいそうなほどに、強い愛情がその言葉には込められていた。
 ベルゼーが立ち尽くす。ゲオルグを見つめ「それはなりませんとも」と首を振る。その諦観に満ちた瞳など、どうして許せようものか。
「例え世界が許さなかったとしても共に生きたかった。
 お前を許さない世界が許せやしなかった。お前が笑っていく世界がここにあっても良かったはずなのに。
 それが神の定めた運命だというならば、神だって呪ってやろう。お前が生きていくだけの世界と、その未来がありえてくれないこの世界など――」
「それ以上は、言ってくれるな」
 ベルゼーが困ったようにそう言った。
「……私は、これでよいと思っているのですとも。琉珂は良く笑う子です。
 たくましく、強く。我々が思わぬようなことをする。何処までだって走って行って、そうして彼女も大人になるのでしょう。
 彼女が大人になったときの姿を見たくなかった――などとは言いませんとも。見たかったとも。
 彼女を抱きしめればうれしそうに笑うこと知っているからこそ、彼女が私を父として慕ってくれていることを理解しているからこそ。
 せめて傍に居たかった。ならば、どうした? 彼女は領域クニを守る為に一人で立ったではありませんか!
 ならばこそ、そう、ならばこそ、はそれを認めなくてはならない。
 父として、里の守り手として、そして――として。この気持ちまでもを否定してくれるな」
 ベルゼーは首を振った。ゲオルグはそれでも、だ。その言葉の中に琉珂の成長を見守って居たかったという感情が込められていることをよくよく理解してしまう。
 そう理解するからこそ、どうしたって彼を受け入れてともに歩く未来があって欲しかったのだから。
 きっと、琉珂だってそうだろう。彼女だってともに歩く未来を求めたはずだ。一歩ずつ、愉し気に歩いていく彼女の傍にベルゼーが居てくれるだけで良かったというのに。
「どうして悲しい事を言うんだ。……この命が尽きるその時まで、お前の事を愛しているというのに」
「そのようなことを」
 苦しげな表情をしたベルゼーが小さく首を振った。
「そう言ってくれるな。……ゲオルグ、どうか、
 そう優しく囁いたその声にゲオルグが「待ってくれ」と手を伸ばした。

 ――夢だ。夢だった。
 ただ、仮初の夢だった。いくらだって見る。
 でも同じだった。いつだって彼はそうやって断って笑いながら日常に戻っていく。
 今の混沌世界に彼はいない。そんな苦しい毎日を背負って生きていくことだけが、ゲオルグに残されたの在り方であったのかもしれない。
 ただ、佇む、自己満足となっても構わないと伝えた感情にベルゼーが少しだけ笑ってくれた気がした。
 きっと、誰よりも愛情深いだったから、誰かに愛されることには慣れていなかった。
 己が向けた真っ直ぐな愛情に彼は笑ってくれたのだ。
 それだけが、灯のようにゆらゆらと揺らいでいる。

 どうか、しあわせに。

 そう囁かれたその声を忘れてしまわぬ様にと、一歩ずつ、前を向き進む――ただ、それだけのが訪れた。


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