PandoraPartyProject

SS詳細

ラージャ・ルビーな旅支度

登場人物一覧

プルー・ビビットカラー(p3n000004)
色彩の魔女
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら

 そっと指先に飾り付けたのは誓いのようなものであったのだろう。
 愛おしい人と、愛おしい言葉を交わして、幸せな日々を送りたいだなんて、色めき立った日常を伝えるジルーシャの言葉はプルーにとっても心地よい。
 耳朶を滑り落ちていくようなリズミカルなその言葉を聞きながらプルーは小さく笑う。
「ねえ、明日は何がしたいのか、なんて他愛もないそんな話をしてみるのは如何かしら」
「あらっ、いいじゃない」
 ジルーシャが頬に手を当ててからにこりと微笑んだ。緩やかに頷くプルーは例えば、とテーブルの上に置いてある香水を手にする。
「明日は違う香水をつけてみるのはいかがかしら。きっと、違った時間を過ごせるわ。
 エアウェイ・ブルーのような香りを纏うのも良いし、システィーン・モーヴな心地になってみるのも構わない。どれもこれも、心地の良いものでしょう」
 囁くプルーに「まあ、きっとそれは楽しいわね!」と色めき立つようにジルーシャは言った。
 ひとつ、ひとつ。どれを想像したって楽しそうで心が躍る。そもそも、ジルーシャにとってはプルーと過ごす日々の全てがしあわせなのだ。
 なんだって鮮やかに色づいた。虹色に見えると言えば「それは大変だわ? どうしましょう。ああ、けれど、私の目からもこの世界はルノワールな心地なのだけれど」と揶揄うようにプルーが言うのだ。
「じゃあ、提案するわ! そうね、例えば……すべての場所を旅してみるのはどうかしら?
 鍾乳洞だとか、知らない華を探すのもきっと楽しいわね。情報屋さんだもの、プルーちゃんったらなんだって知っているかもしれないけれどね。
 ふふ、……何が好きかしら。プルーちゃんがまだ見たことのない世界の端っこまで歩いていくのもきっと面白いわ!」
「あら、そうれは素敵ね。どんな場所がいいかしら? アジュール・ブルーの空の下をのんびりと歩き回るような、そんな愛おしい心地を楽しみたいわ。
 ねえ、ジルーシャ。一番最初にどこに行くのかは任せてもいい?」
「えっ、でも、情報屋のプルーちゃんの方がきっと詳しいわ。アタシが提案した場所なんて、もしかしたらずっと昔に見たことがあるかもしれないもの。それでもいいのかしら?」
 プルーが頷いたならばジルーシャはその頬を赤らめた。本当は二人でどこに行こうかと考えて混沌世界のガイドブックを購入しておいたのだ。
 世界が平和になってから。世界を旅するものも増えたことだろうとここが商機と言わんばかりにそうしたガイドブックが数多くなった。
 数冊買ってみて、その違いを見ているだけでも世界旅行のようで楽しかったのだと、頬を赤らめながらジルーシャが告げればプルーはぱちくりと瞬く。
「あら、本の上での旅行も楽しそうだわ。見せて頂戴。
 ふふ、華の鮮やかさも見て取れるもの、四季折々をこうして書面でなぞらえるのね。ねえ、ジルーシャ? このシャモアな光景はどうかしら」
「それは、春ね。再現性東京の桜並木だったかしら。
 行ってみるのも楽しそうだわ! それに、海洋の夏もと~~ってもキレイなのよ」
「素敵ね。アザーブルーの海も、インク・ブルーの海もよく見て来たけれど、こうやって眺めたなら、知らない場所を見ている気がするわ。
 ジルーシャ、見て頂戴。この雲はシスティーン・モーヴなのね。それにこっちはサラテリの空の下にスノウ・ホワイトがよく映えている。
 旅装束を用意した方が良いわ。動きやすいものが良いと思うの。それに、貴方には……ええ、私とお揃いを用意してもらおうかしら」
「あら、何かしら」
 ジルーシャはくすりと笑って顔を上げた。ガイドブックを二人で眺めていたからこそ、肩がぶつかった。
 顔を上げれば彼女のかんばせがすぐそばにある。大きな瞳がすっと細められてから、プルーの細い指先がジルーシャの頬へと伸ばされた。
「旅装束だけではないでしょう? きっと二人で旅をすれば贈物が増えていくわ。ひとつ、ひとつ宝物を増やすのよ」
「まあ、嬉しいわ! ねえ、プルーちゃん?」
 こてりと首を傾げるジルーシャの瞳を見つめてからプルーが小さく笑う。
「色々な場所に行くのでしょう」
「ええ、そうよ」
「とっておきが良いわ」
「勿論! プルーちゃんと行きたい場所も、見たい景色も、まだまだたくさんあるんだから!
 それに、ええ、そうよね。お揃い……いつか、薬指に指輪を贈らせて頂戴な」
 そう微笑んだジルーシャにプルーが少しだけ背伸びをしてから頬へと口づけた。
 息を飲んで頬を赤くしたジルーシャが「ちょ、ちょっと! んもう!」と少しばかり恥ずかし気に視線を逸らす。
 くすくすと笑ったプルーは「のんびりと進んでいきましょう。」と揶揄うようにそう言って。
 お揃いの旅装束を着たならば、何処へ行こう――きっと、何処へ行ったって楽しい。
「じゃあ、先に旅装束を買いに行きましょうよ!」
「ええ、そうね。素敵なものがいいわ。動きやすくて、それから揃いのデザインにしましょう。
 色々な所に行くのだもの、汚れてしまっても笑えてしまうようなものがいいわ。ラサの砂漠は砂埃もすごいわ? 鉄帝は寒いからコートも必要かしら」
「そうね! 旅に行く場所を選びながらいろいろと探してみてもいいかもしれない。ああ、ふふ、ファッションショーみたいだわ!」
 楽しそうに笑うジルーシャが今度はプルーの瞳を覗き込んだ。美しい色彩が笑っている。その瞳に映ることこそがこの世界で一番の幸福だった。
 この人がいるからこそ、何時だって笑っていられる。頬へと口づければ揶揄うように笑う。おかしそうに、くすぐったいと鈴を鳴らすようにころころと。
「それじゃあ、お買い物に行きましょうか。忘れ物をしないようにしなくっちゃ」
「そういえば、昨日の買い出しの時にジルーシャはハンカチを忘れていたわ? あの可愛らしいポムグラニットのハンカチよ」
「もうっ、そうよ、うっかりしちゃったの。だから、今のは自分のため! 忘れ物をしないようにしなくっちゃならないものね」
 くすくすと笑いながらジルーシャはカバンにハンカチとガイドブック、それからメモ帳とペンを確かめながら入れ込んでいく。
 ガイドブックにはたくさんの丸印を書き入れた。道中もこれを確認しながら旅装束を選ぶのだ。
 これから、何処へだって行ける。混沌世界は広く、二人の時間はきっと長い。
 手を繋ぎ、街へと誘うためにジルーシャは玄関のドアを開いてから「さあ、どうぞ、お姫様」とからかい半分で言って見せた。
「ええ、ありがとう? さあ、何処へとエスコートしてくださるのかしら。きっと今日はコバルト・グリーンの朗らかな一日になるでしょうね」
「ええ、もちろん。だって! 色々な場所に行きましょう!」
 弾む足取りは淀みなく。手を握り締めれば当たり前のようにゆったりとした様子で歩いて行ける。
 のように――それからのように。
 二人の歩みは止まることはないのだから。


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