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おとなし
登場人物一覧
鈴鳴る音が聞こえる。その響きが秋奈は好きだ。
だって、それが
恋をする相手ではない。憧れというわけでもない。それでも、心を離さない存在だ。
彼女と、彼女の周囲を取り囲む
凛々と、鈴が鳴る。玲瓏と揺れ動く。玉響は、おのれの心を洗っていく。
その仕草のひとつ、ひとつを真似することが出来るのか。たった、それだけのことが秋奈にとっては不安だった。
――弟子として、残るのですか。
混沌世界より帰還できるという旨を耳にして、ひよのが始めに問うたのはそんなことだった。
当然ながらウォーカーであるならば、元の世界への帰還を目指すものだろう。
旅人と旅人の間に生まれた
「え? 帰らん帰らん」
「うそだ。どうしてですか? 普通は故郷への回帰を求めるものでしょう。
秋奈さんにとって再現性東京何てまがい物の世界ではありませんか。……きちんと考えましたか?
また安請け合いをしたのではありませんか。まったく、そうではいけないと何時でも言っているでしょう」
「違う、違うって、先輩」
秋奈は首を振った。そんな簡単に決めたわけじゃない。確かに秋奈の態度はいつだって軽いノリを見せることがある。ある――というのはひよのからの印象だ。それは仕方がないだろう。信じて送り出したと思えば呪われて帰ってくるような
「ちゃんと考えたって」
「本当に?」
「本当。まじ、おおマジ。ガチ目にマジ。まじよりのマジ~」
それでも、だ。それでもそんな簡単に「じゃあ故郷捨てます」なんて言っていた訳じゃない。元からちゃんと考えていた、のだが信用されていない。
じっとりとした視線を送ってくるひよのに秋奈がへらりと笑った。おかしそうに笑った秋奈にひよのがやれやれと肩を竦める。
「それならばいいんです。秋奈さんが考えて自分でここに……この世界に留まるっていうなら。
私は、それを止めませんよ。それに折角の弟子が居なくなってしまうのも残念ですし。
あと、更に言ってしまえばよからぬ呪いをよそ様の世界に持ち込まれたくありません。秋奈さん、なんだかそのまま怪異を蔓延させそうですし」
「ええ? そんなことなくない?」
「あると思ってます。貴女についている蛇は本当に執着心が強いですもの。
アリエはどこまでも追ってきますよ。本当に蛇のように這いずり回って貴女を離すことはないでしょう。
もしも、貴女が他所の世界に
「予言っぽいじゃん」
「だから、傍に居てくださいと言う口説き文句としてください。そちらの方が好きでしょう?」
ひよのが頬杖をついて笑った。用意していた茶とせんべいに意識を向けたのだろう。巫女らしからぬだらしない格好をして昼休みを謳歌する彼女を見つめながら秋奈は「そうだなあ」とぼやいた。
「まあ、好きかもしれんね!」
「それならよかった」
楽しそうに笑う彼女がばりばりとせんべいを食べ続ける。その横顔をじいと眺めていれば、僅かに眉を顰めてから「何か」と囁いた。
本当に楽しそうに秋奈が笑うものだから、ひよのが困った顔をしたのは仕方がないことだ。何を喜んでいるのかがわからない。
「いや、なんてーか、こうやってパイセンと? 一緒に? のんびりだらだら? とかできるとは思ってなかった系の?」
「そうですか。そんなものかもしれませんね。
なら、秋奈さんが喜んでいるのは今日の私がだらだらとしてせんべいを食べているからという事にしておきましょうか」
ふっと小さく笑ったひよのを見ていれば秋奈だって嬉しくなってしまう。本当に――この人が生きていて、この人が笑っていて、それから、
「あーあ、やっぱ故郷捨てるか!」
「軽く言わないでください。軽く……本当にしっかり考えていっていますか? 軽く考えていませんか? 大丈夫ですか?」
眉を吊り上げてそうやって問うてくるひよのに秋奈は「もちですとも」とそう笑った。勿論、ちゃんと考えている。勿論、ちゃんと大丈夫だ。
朗らかに笑う秋奈にひよのは困り切ったように笑うのだ。
この毎日は決して変わることのない平穏に満ち溢れている。何せ、ここは再現性東京だ。
だからこそ、混沌とした日々ではない
「それで、先輩。音呂木の巫女、免許皆伝はいつにしちゃう?」
「さあ、今のところないですかね」
「なぜに。こんなにぷりてぃーでかわいくって、呪われてるのに!?」
「むしろ呪われているからではありませんか? どうやったら巫女がさも当たり前のように呪われてくるんですか。
呪われないようにしてください。呪われている時点で音呂木の神様泣いてますよ。さめざめ言ってますからね?」
「ありえる……ありえすぎて爆笑……。
神のことちょっと励ますための祝詞やっちゃわん? 絶対その方が良いって、ぴえんしてるし……ごめんって謝る感じでさあ……」
「いや、謝らなくてもいいんですけどね、秋奈さんが選んだ未来が
私はそれでいいと思います。蛇は執念深いのでそう簡単に祓えませんから。大体仕方ないなって感じでもありますし……」
ひよのはせんべいを食べ終えたとゆっくりと立ち上がる。そろそろ昼の仕事をしなくてはならないか。
巫女の手伝いをして、希望ヶ浜学園に学生として通って、時には夜妖と相対して――その繰り返しだ。
秋奈はうんと小さく伸びをしてから「今日はさあ、何しよーか、先輩~?」と問いかけた。
「あんまり根詰めてもしんどくなってしまいますからねえ。のんびりでもいいかなって思ってます」
「ま? どったの」
「……これまでは秋奈さんが元の世界に帰ることを前提にスケジュールを組んでたんです。
でも、帰らないっていうならダラダラしてもいいんじゃないですか? まあ、簡単に言ってしまえば弟子なんて家族みたいなものですから」
音もなく、さっさといなくなってしまうものだと思っていたから。
秋奈のような
「まあ、少しくらい、甘えていってくださいよ。後輩を甘やかす準備は十分にできているってことなので。
とりあえず何します? ゲーム? 新作でも見に行きますか」
「あーじゃあ、先輩、適当にポテトとか買ってきて遊ぼ」
「はいはい、じゃあ、着替えて出かけますよ」
そうして、
- おとなし完了
- GM名夏あかね
- 種別SS
- 納品日2025年12月30日
- テーマ『これからの話をしよう』
・茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
・音呂木・ひよの(p3n000167)
