SS詳細
黄金の幸花
登場人物一覧
●
心地良い海風が、髪を踊らせる。
明るい太陽が、眩しくわたくしを照らす。
何度目かの旅路。
けれどもいつも特別な旅路。
砂漠で枯れると思っていたわたくしがまさかと、何年経っても思ってしまう。
――
――――
砂漠に生まれた多くの者たちがそうであるように、砂漠しか知らずに生きて死ぬはずだったわたくしが海を渡るようになりました。それがどんなにすごいことなのか、小さな部族に生まれたあなた様にはきっとお解りになるはず。その上わたくしは
手を翳して陽に晒すこと。それはまだ少し恐ろしさを覚えてしまうけれど、わたくしたちの共通の友人が齎してくれた奇跡があるからこそ、わたくしはあなた様と旅ができましたの。あの日々の記憶は、今でもわたくしの宝物です。
覚えていて? 甘いチョコレート食べた日にした約束を。あの日の約束を守り、あなた様はゆっくりとわたくしと世界を旅してくださった。気になっていた国へと向かってはおすすめを教えてくださり、綺麗で美しいものや美味しいもの、沢山の幸せをわたくしは享受いたしました。ひとつずつ国や土地を巡る度に、良いところと悪いところ見つけて考え、「他の国に支店を出すのも良いかも知れませんわね」なんて零したわたくしの冗談半分の言葉をあなた様は真剣な眼差しで受け止め、「よい、と思います。アラーイスさまなら、可能かと」とわたくしの背を押してくれましたね。わたくしはそれで踏ん切りがついて、夢物語で終わらせやしないと前へ進めましたの。
決めたと告げた日、あなた様は我がことのように跳ねて喜んでくださって、「豊穣の高天京に支店を作ってはどうでしょう? あっ、でも豊穣は遠いので、もっと未来の話ですが」と言ってくださいましたね。「突然遠くへ支店を出しても上手く立ち回らなかったり、サポートが必要な時に困ってしまうから、良策ではありません」そう告げたわたくしに、少ししょんぼりとしたお顔をされたのがとても愛らしかったです。
ですが、わたくしが正しい手順でラサの近くの国から少しずつ支店を増やしていけば、あなた様は「もしかして次は」なんて喜んでくださって……本当にわたくしは愛らしいお友達に恵まれたのだと、終わらせるはずだった生の続きを選んだことは正解だったのだと、あなた様は幾度もわたくしに思わせてくださいますの。幾度か告げたかと思いますが、幾度でも言いますわ。だって自覚してほしいのだもの。あなた様たちはわたくしの幸せのかたちなのだと。
豊穣支店を作るよりも前、船を買ったと告げた時のあなた様の驚いた顔も覚えておりますわ。……豊穣に支店を出すって
……等と昔話に華を咲かせておりましたが、そろそろ本題を書いておきましょうか。
久方ぶりに豊穣の支店へと参ります。
何日か滞在する予定ですので、都合がつけばお会いしたく思っております。
豊穣までの手紙は時間がかかりますので、この手紙は早めに出しております。
お返事も手紙で頂いても大丈夫なようにしておりますが、良ければ会いに来てくださると嬉しいです。
向かう頃は――――
――――
――
船上の船首付近で風を感じながら、わたくしは親友へと送った手紙を思い出していた。
(メイメイ様ったら受け取ったらすぐに会いに来てくださったのですよね)
思い出し、ふふ、と思わず笑みが溢れる。
わたくしから出す手紙はどうしたって時間がかかってしまうけれど、メイメイ様は『ゲート』とやらで一瞬。距離をものともせず、手紙さえ届けば会いに来てくれる。
わたくしも豊穣に支店を構えてからは、支店視察の名目で1年に1度か数年に1度ではあるけれど会いに行く。ありがたいことに毎日が仕事で忙しいことと、豊穣までの往復にかかる日数を考えれば仕方がない――けれど『わたくしからも会いに行ける』ということは、わたくしにとってとても喜ばしいことだ。
(店の者たちには世話をかけてしまうけれど……会いに来てもらうのではなく、わたくしからも会いに行きたいのだもの)
わたくしの我が侭なんていつも可愛いものだから、許される。そう、決まっている。
わたくしが所有する船に乗船するのは、
積み荷のリストチェックを軽く済ませて必要事項を告げてから、船を降りる。あなた様はわたくしの船を知っているから、きっとすぐに此方へ向かって――ああ、ほら。わたくしに気付いて咲く笑顔。それがみっつ。
母親が繋いでいてくれた手をパッと離して、小さな少年と少女がすぐに駆けてきた。明るくキャラキャラと笑うふわふわとした雰囲気の鬼人種の男の子と黒髪の羊の獣種の女の子には両親のおもかげがある。会う度にすくすくと成長して両親に似ていくのがまた愛おしい。
「アラーイスおばちゃま、こんにちは」
「おばちゃま、こんにちはぁ」
「あら、そんなに走って。転んでしまったらどうしますの?」
しゃがみこんだわたくしへと飛び込んでくる、愛しい熱がふたつ。抱きとめて、愛おしい気持ちが伝わるようにとぎゅっと抱きしめれば、腕の中でもふたりはキャラキャラと笑った。
「こら、ふたりとも! おばちゃまだなんて。お姉様、でしょう?」
どれだけ年月が過ぎようとも可愛らしい、あなた様が駆けてくる。変わったと言えば、母親
「メイメイ様、よろしいのですわ。わたしくがおばちゃまと呼んでほしいと頼みましたの」
ね? と子供たちへと顔を向ければ利発そうな顔がわたくしの言葉を肯定し、母――メイメイ様へと言い返す。ピーチクパーチク母鳥へと口を開ける雛鳥のようで、わたくしはその姿も愛らしいと思ってしまう。
「アラーイスさま、ですが……」
「メイメイ様、わたくしの我が侭を聞いてくださらない?」
少しだけ眉を下げてから瞳を潤ませ、ジッとメイメイ様を見上げる。メイメイ様がわたくしのこの表情に弱いのは何年経っても変わらなくて、そんなところも愛おしい。「そんなお顔をしてもダメですよ」と言ってもわたくしに甘くて、「今日は本当にダメですよ」と言っても最終的にはわたくしを許してくださるメイメイ様は今日も――。
「わたくし本当にふたりのおばちゃまになれたみたいで、家族に加えて貰えたようで嬉しくて……でもメイメイ様がお嫌でしたら……とても悲しいですが、わたくしからもおふたりに強く言って……」
そっと視線を悲しげに落として更に潤ませれば、ほら、今日もメイメイ様はわたくしの手を握ってくださる。メイメイ様はふわふわで、綿あめよりも甘くて可愛らしい。
「あ、アラーイスさまが、そう、お望みならっ」
「そう? でしたらわたくしはおばちゃまで。ふふ、とても嬉しいです。許可をくださってありがとうございます、メイメイ様」
悲しげな表情をころりと引っ込めてにっこり。メイメイ様の手を握り返して大好きですわと告げ、小さなふたりにも「これからもおばちゃまと呼んでくださいましね」と笑みを向ける。良い子のお返事がとても愛らしく、今度会う時は船の貨物室いっぱいのお土産を用意しておきたくなる。
(そこまでするとメイメイ様に怒られてしまうでしょうか。加減というものは難しいものですわね)
わたくしの目下の一番の悩みは、これ。プレゼントというものは愛を形で解りやすく示せるものだと思うのに、多すぎるとメイメイ様を困らせてしまう。愛の加減というものはかくも難しいものなのかと、わたくしを悩ませる。
「――……イス様?」
「あっ、ごめんなさい。メイメイ様、お屋敷へ案内してくださるのでしたね」
「はい、アラーイスさま。旅装を解いたらお茶にしましょう。アラーイスさまが来るからと、今日は朝からこの子たちとお茶請けを作ったのです」
自分の元へと戻ってきた子供たちと手を繋ぎ直し、ね? と笑顔を向けるメイメイ様の優しい母親の表情。何の憂いもない、幸せそのもののその姿。わたくしは何度だってあなた様のその姿を見たくて堪らずに、幾度もこうして遠い異国の地まで海を渡ってやって来るのだろう。
「まあ……! それは楽しみなこと。何を作ってくれたのでしょう?」
「それはお茶の席まで内緒、です。いきましょう、アラーイスさま」
メイメイ様の陽の光が似合う柔らかな笑み。変わらないその笑みは、いつだってわたくしには眩しく見える。
何日滞在出来るかとメイメイ様と話しながら、わたくしはあなた様と、あなた様の大切な宝石たちと並び歩いていく。
いつまでも、何年先も――あなた様が世界から居なくなる時が来ても、あなたの残した『未来たち』と、わたくしはそうしたい。そうありたい。近くで見守ることを許されるポジションをキープしておきたい。
だから今の幸せを胸に、思考を巡らせることをわたくしはやめはしない。
(沢山のお土産で怒られてしまった時は……そうですわね、小さな物に宝石なんかをつけて。疑われたとしてもイミテーションだと誤魔化せますわよね)
商売人ですもの。
今会ったばかりなのにもう次に会う日のことを考え、わたくしはあなた様の追いかけた。
幾久しくメイメイ様が――メイメイ様たちが幸せであることを願って。
- 黄金の幸花完了
- GM名壱花
- 種別SS
- 納品日2025年12月30日
- テーマ『これからの話をしよう』
・建葉・メイメイ(p3p004460)
・アラーイス・アル・ニール(p3n000321)
