PandoraPartyProject

SS詳細

双翼の翠迅

登場人物一覧

ギルバート・フォーサイス(p3n000195)
翠迅の騎士
ジュリエット・フォーサイス(p3p008823)
翠迅の守護

 麗らかな陽光が大きい窓から差し込み、温かな室内へと降り注ぐ。
 まだ雪の溶けきれない春のヘルムスデリーに小鳥の鳴き声が響き渡った。
「ママー!」
 小鳥の鳴き声をかき消すように、幼い子供の声が聞こえて来る。
 肩を揺さぶられた所で薄らと目を開ければ、綺麗な碧い瞳がじっと此方を見つめて居た。宝石のように美しい碧。
「ママ! おきた!」
「ふふ、おはよう。アルフォンス、今日は早起きさんね?」
 柔らかい頬を撫でながらジュリエットはベッドから起き上がる。
「えへへ! きょうはね、パパと、いっしょに、ゆきかきした!」
 褒めてと言わんばかりに自慢げな表情をしてみせる息子をジュリエットは抱き上げた。
「偉いわアルフォンス。寒くなかった?」
「うん! ゆき、ちょっととけてたし! ぼく、つよいこだから!」
 強い子というのはギルバートの口癖だ。それがアルフォンスにも移ったのだろう。
 すっかり冷えた幼子の身体をジュリエットは優しく抱きしめる。
「そうね、アルフォンスは強い子だものね。ありがとう」
 ジュリエットの感謝の言葉にアルフォンスはにっかり顔をほころばせた。

「ん、ぇ……ぇえ」
 傍に置いてあるベビーベッドから赤子の泣き声が聞こえ二人は顔を上げる。
「ぅあーん、あーッ!」
「あらあら起きたのね」
 アルフォンスをベッドに座らせ、ジュリエットは赤子を覗き込んだ。
 深い金髪の髪と碧い瞳の女の子、アルフォンスの妹のクリスティーナだ。
「よしよし、クリスティーナも起きたのね、ママはここですよ~」
 赤子を抱き上げたジュリエットはアルフォンスの隣へと戻ってくる。
「お兄ちゃんも居るわよ~」
「むぅ……クリスティーナばっかり、ずるいっ」
 クリスティーナを抱っこしている母親へアルフォンスは唇を尖らせた。
「あらあら、やきもちかしら?」
「やきもちじゃないもん! クリスティーナがずるっこだもん! ぼく、ゆきかき、がんばったのに……っ! う、う~っ!」
 クリスティーナの泣き声に負けないぐらい大きな声で、アルフォンスも涙を流す。
「ぅあーん!」
 寝室の中に幼児と赤子の大合唱が響き渡った。
 同時にドタドタと靴音が近づいてきて寝室のドアが勢いよく開く。
「ど、どうした!?」
 子供達の泣き声にギルバートが慌てて駆けつけたのだ。
「あああ――!!」
 アルフォンスの泣き声に反応してクリスティーナも声を大きくする。
「クリスティーナ、ずるっこぉ!」
 顔を真っ赤にして泣いているアルフォンスの隣へギルバートは腰を下ろした。
「どうして、ずるっこって思ったんだい?」
 ギルバートはアルフォンスの背を撫でながら優しく問いかける。
「ぼくが、ママとっ、ひっく、おはなし、してたっ、く、のに……クリスティーナ、ないたら……よしよし、って、ずるっこ、する」
「……そうか。クリスティーナが泣いたからママが話を聞いてくれなくて悲しかったんだな?」
 ギルバートの言葉にアルフォンスは「うん」と素直に頷いた。
「アルフォンス、その悲しい気持ちは大事だ。でも、クリスティーナはいま1歳になったばかりで喋ることができない。自由に動き回ることも。こうしてアルフォンスみたいに悲しい気持ちをパパやママに伝える事ができないんだ。だから泣いてママーって呼んでるんだよ。アルフォンスからママを奪いたかったわけじゃない。分かるだろう?」
「……うん」
 ギルバートは大きな手でアルフォンスの頭をぐりぐりと撫で回す。
「アルフォンスは偉いな。雪かきも手伝ってくれるし、クリスティーナにママを譲ることができる。立派なハイエスタの男だ!」
「はいえすたのおとこ……?」
 こてりと首を傾げたアルフォンスの脇に手を差し込んだギルバートはそのまま高く持ち上げた。
「そうだ、アルフォンスは俺と同じハイエスタの騎士になる男だろう? ママや妹を守るのが騎士の勤め。その格好いい騎士が妹にずるっこと言うかな?」
「いわないっ! きしはかっこいいから!」
 涙をゴシゴシと拭ったアルフォンスをギルバートは力強く抱きしめる。
「よーし! 騎士殿! ママの代わりに朝ご飯の準備をしにいこうか!」
「うん! ぼく、おてつだいする!」
「おー!」と拳を掲げたアルフォンスを連れて寝室から退場するギルバート。
 いつの間にか泣き止んだクリスティーナが訳も分からずきょとんとジュリエットを見つめていた。

 ジュリエットとクリスティーナが朝の準備を終え、リビングへとやってくると美味しそうなシチューの香りが広がる。
「準備ありがとうございます。ギルバートさん」
「野菜を盛ってシチューを暖めてパンを焼くだけだから問題無いさ」
「ぼくも、やさい、ちぎった!」
 テーブルの上に並んだサラダを見遣れば大きかったり小さかったりで不揃いの葉野菜が皿に盛り付けられていた。
「ふふ、ありがとう。アルフォンス」
「えへへ!」
 子供用の椅子に座らされたクリスティーナが興味津々で目の前のテーブルクロスをぺしぺし叩く。
「う、う!」
 まだ意味のある言葉を喋らない妹の頭をアルフォンスは優しく撫でた。
 先程、泣いてしまったことを後悔しているのだろう。
「さあ……祈りをささげよう」
 食べる前の祈りを捧げたあと、アルフォンスは勢いよくスプーンでシチューを掬い上げ、ちぎって貰ったパンを頬張る。


「はふ、はふ……ママのしちゅー、おいしい!」
「ほーら、口の周りについてるぞ」
 ギルバートは微笑みながらアルフォンスの口周りについたパンを取ってやる。
 その隣ではクリスティーナが待ち遠しげに小さな口を開けていた。
「ふふ、いっぱい食べて大きくなりましょうね」
 アルフォンスもクリスティーナも食欲旺盛で、きっと丈夫に大きく育つのだろう。
 一年の殆どが雪で覆われるヘルムスデリーで生きて行くには、それぐらいでなければとジュリエットもギルバートも目を細める。

 食事が終わり休日の穏やかな時間が訪れた。
 ジュリエットはリビングで遊ぶアルフォンスを見守りながら、向かいの家から聞こえて来た幼児の声にくすりと笑みを零す。
「マリアンヌの所のシェラはもうたくさん喋っているんですよ」
「ああ、ディムナから聞いてるよ。娘が可愛い可愛いって。俺の娘も可愛いし息子も可愛い。可愛さなら負けてないといつも言っているよ」
 ギルバートとジュリエットの間に二人の子供が居るように、ディムナとマリアンヌにも娘が生まれていた。
「……あの頃が、夢のようですね」
「ああ、そうだな」
 世界を掛けて悪しき邪神と戦いぬいたあの日々は、忘れ得ぬ思い出としてギルバート達の胸に刻まれている。
 ギルバートはジュリエットを後ろから抱きしめる。
 抱きしめられながらジュリエットは暖炉の上に飾られた写真に手を伸ばした。
 蒼穹の青空の元、ウェディングドレスとタキシードを着た二人が幸せそうな顔をしている。その隣には子供達や家族の写真が飾られていた。
 守るべき人がどんどん増えて、その分毎日幸せも大きくなった。

「ジュリエット、この先何があろうとも、君と子供達を守ると誓う」
「ええ、私も。守られるだけじゃない。二人でこの子達を守っていきましょう」

 いつまでも続く家族の未来を、幸せを、共に祈り続ける――


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