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とある日のルースト・ラグナロク/The Happy day
登場人物一覧
──
筆走る 想いの丈を 綴る意思
文字らを為すは 白亜の洋墨
字余り。
秘めたる想いを綴らんと手紙にいざ筆を走らせ見れば
記されていたのは溢れんばかりの白竜たる汝への愛。
けれどもそれを示すは真白の洋墨。
読むことは叶わなかった。
──即ち。
愛とは無形なれども確かにそこにあり。
此の歌が字余りであるように。
書ききれず記しきれず溢れた想いも行間には在るのだ。
だから、この言葉だけを返答とし、送らせてくれ。
『愛しているよ レイリー』
──
・前書き
シュタイン領、シュタインスタッド某所にて。日課の鍛錬を行っていた折、貴女はラブレターを受け取った。
それは巻かれた羊皮紙に封として電子配置図のような封蝋が施されているもので。届け人不明、されど周囲の騎士団の皆はわかっていますよという顔をしている。
その顔が笑みが嬉し恥ずかしくなってしまった貴女は、八つ当たりの上に「弛んでいるわよ!全員叩き直すから覚悟なさい!」という名目を張って、非番でなかった騎士団の全員を医務室送りにしてしまったことだろう。後で治してやるとするか。
それは、さておき。一通り倒してしまった貴女はラブレターを再度読み直して気づいた。そのラブレターの裏には『店にて待つ』との招待も記されていたのだ。
これではもう誰からのものかは丸わかり。けれどあえて記さないのは照れ隠しだろうか。
本当に可愛らしくて意地らしくて今すぐにでも抱きしめて甘やかして身も心も私のものだと教え込んであげたい。
それから私だって既にあなたにメロメロでもう離れられなくて魂すらあなたに染められたいって誘ってめちゃくちゃにされたい。
そんな悪なる欲望と期待を胸に、貴女は暖かいシャワーを浴びて身体を濡らす。紅潮した頬を化粧で鮮やかにする。夜に逢うための衣装に身を包む。「待っていなさい、わたしの背信者」と空中神殿経由で深緑へ転移する。
そして町から少し外れ歩いて行けば、貴女は夕日の綺麗な土地へと辿り着いた。そこは蛍火のような妖精がふわりふわりマナの木を育て、市場には様々な──例えば戒天鋸の英雄、例えば生死反転の将軍、例えば戦乱を制した商人──物語が並べられていた。貴女がふと惹かれ手にとった本のは華を咲かせた少女と着物の少女が荒野にて剣で立ち会うもの。表紙に惹かれてコレくださいなとついGoldを払ってしまった。面白いと良いのだが。
そして。市場を抜けて暫く。煉瓦造りの二階建て家屋。ルネサンスなアトリエカフェ"ルースト・ラグナロク"へ到着した。古民家を改装したとは言っていたけど、原型はあるのかな。看板テラス席ショーウィンドウ、それとネオンサイン。多数のデザインが混在する光景をアトリエと呼んでいるらしい。閑話休題。それらの中心、貴女は"本日貸切"というパネルが吊り下げられている木の扉を開く。
ギィ、ィィ──────。
見た目よりも遥かに重厚な音を奏でたソレは貴女を中へ引き込んだ。待ちかねていた来客を一刻も早く抱きしめたかったのだろう。白藍色の髪が指に絡まった。
「レイリー」
抱擁。強く、強く抱きしめる。私は貴女が好きだ。来てくれてありがとう。今日は……汝の為に、筆を走らせる。
・
「レイリー……来てくれて ありがとう」
「当然よ。幸潮のためならいつでも行くわ」
どうにも照れ恥ずかしい。ああ。語るための言の葉は幾つも用意していたというにどうして、どうしてか口に出ない。
「嬉しいよ。突然だった故な、もう少し遅いと思っていた」
「へぇ、どれくらい?」
「少なくとも、一日千秋の想いに耽る程度には」
「あはは、私もよ」
我が愛の微笑みは素敵だ。そう簡単に
「こんなにも素敵な招待状をくれたんだもの 期待してるわよ?」
つん、と頬を突かれハッとする。そのような
「勿論だ。今日を最高の夜にすると約束する」
我は悪、悪なる欲を肯定する悪魔なれば。汝を独り占めしたいという児戯じみた愛を捧げよう──あなたに。
「さぁ、手を取り、目を閉じて。
レイリーを抱き寄せ
「ん…ふぅ……」
行うのは一時の
「幸潮、好き」
「知っている……我もだ」
白き花弁を飾り布で包み並べ、装いすら我らの心に合わせたものへと変じさせる。
我が白衣は色を翻し黒色へ変移。裾も袖も大きく広がりて、万年筆は彼女の髪と同じ金色の糸を記して花を咲かせ飾り布を織れば愛を示す白百合が手の内に。
レイリーの夜装も光に合わせて大きく変ずる。袖の広がりこそ大人しいが袖の始点より淡い布が泳ぎ始めて。スカートはは我よりも豪華に、そして華やかに。泡のような意匠と花が咲いて。瞳を開く頃には服の色彩は豊かなものとなっているだろうか。
「あら、これってウェディングドレス?」
「ああ。愛の印を残すにこれ以上の装いはないだろう」
奪っていた五感に映すは教会、無論"誰"を祭るものかは語るまでもなく司祭は不要で。
「我、『夢野幸潮』は汝が歩みが如何なる苦難障害に依て塞がれた時も、汝が心が快楽幸福に依て満たされし時も、我は共にあり、深く愛し、また尽きぬ万年の愛を以て悉くを記録する事を此処に記す」
誓いの詞と共に祈りを。
次いでくれとレイリーに語りかけて。
「ならわたしは、貴女と共に物語を創っていくことを誓うわ。そう、その物語で貴女を夢中にしてあげる。それがわたし、レイリー=シュタインの貴女への愛で恋よ」
返された言葉に感嘆の意と顔を隠せない。
「ありがとう。大好きだ……レイリー」
「わたしもよ、幸潮」
紅くなる頬を如何にしようと考える暇もなく。
微笑みと共に回された手に求められ、深く唇を重ねる。
甘い、甘い愛の味。優しくも温かい二つの
「ふふっ、珍しく情熱的ね」
「今ばかりはな。もう一度、いいな」
「もちろん」
白と黒が混ざりて混沌を成す。
この腕の中に君が在る。
それだけで我はどれほどの喜びを記せるのか。
たった一時刹那の触れ合いを長く、永く、長く長く。
この美しい顔をただ私の物語に残したい。
「ねぇ幸潮。あなたは物語を記すんでしょ?」
「当然だ。我が在り方はそういうものであるし」
「でもねずっとずっと、物語の後も永遠に一緒に歩んでいきたいの」
「後も──」
戸惑いを見せた私はレイリーに改めて抱きしめられ。
ああ。嬉しい。なら、ならば。こう返すのみ。
「──わかった。いつか君が眠り起きなくなっても、此の『夢野幸潮』という悪魔は一緒に在り続けよう。それが、今の私の新たな夢だよ」
「んっ、今はそれで十分よー。でも」
悪戯めいた微笑みと共に私の唇は指に塞がれて。
「幸潮の事、わたしがとびきり幸せにしてあげるわ!」
そう高らかに悪なる望みを
- とある日のルースト・ラグナロク/The Happy day完了
- NM名わけ わかめ
- 種別SS
- 納品日2025年12月27日
- テーマ『これからの話をしよう』
・レイリー=シュタイン(p3p007270)
・夢野 幸潮(p3p010573)
※ おまけSS『空白と行間/Thirteen and Fourteen』付き
おまけSS『空白と行間/Thirteen and Fourteen』
「はいはいおめでとー」
「幸せそうならいいんじゃないかな」
「んー。でも叩き起こしてまで見せるものかな?これ」
「判定上死んでないし。死んだふりでしよ、アンタ」
「はいこの話終わり!」
「あ逃げた」
「"死が二人を分かつとも、人の歩みは終わらない"。それに片方は"悪魔"でしょ?そんなのアンストップで永続愛玩コースでしょ」
「えー……じゃ私もなんか言おっか」
「はよ」
「はいはい。"人よ、幸福に溺れる事なかれ。節制を以って、慎重に在れ"……こんなところでどう?」
「それは読み手次第ってことで」
「まー、そうだね。」
「じゃまったねー!いつかの未来で!」
「……魔法少女は楽しかったよ」
