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Re:ポールスターの商人

登場人物一覧

ファレン・アル・パレスト(p3n000188)
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽

 ――これは、ファレン・アル・パレスト側からの視点の物語であることを付記しておこうか。

 青年にとって、ラダ・ジグリという女はある種、特異的な存在であった。パレスト家に生まれ果せてからこれまで、ファレンは高等な教育を受けて来た。
 混沌世界というさまざまな種が跋扈するこの場所でパレストの名に泥を塗らぬようにと尽力してきたのだ。
 ラサ傭兵紹介連合は一つの王を立てているというよりも傭兵と商人がそれぞれの合議の元で決裁を行うことが多い寄せ集めであるとファレンは認識している。
 実質的統治者として君臨するならば荒事にも対応できる傭兵側であるべきだというのも王としての意見だ。ファレンとしてもそれで構わない。だが、対外的に見れば商人とは傭兵に庇護されるような存在にも見える――筈だろう。だが、彼女の場合はどうか。真っ直ぐにファレンに対して向かってきてくれた。
(まあ、だからこそ信頼が出来るのだろうが――)
 彼女は傭兵らしい動きをする。それが特異運命座標だからだ。
 だが、それ以上にことがわかる。
 アイトワラス商会はファレンにとってよいパートナーだ。これからのことを考えれば、彼女との交友というのは宝になるとも認識している。
 ファレン・アル・パレストとして優秀な商会とのパイプは決して失いたくはないものである、ということだ。
「仲良くするんですよ、イヴ」
「そんなの、言われなくっても分かってる。でもね、ラダはファレンより私の方が好きだから」
 そうやって自信満々に言うのはイヴ・F・パレスト。パサジール・ルメスの遠縁であり、ファルベリヒトの精霊であった彼女は現在はパレスト家の一員である。
 自信満々に告げる彼女のそばにいるタイニーワイバーンのrnレンはくあと小さなあくびをしていた。
「……その自信はどこから?」
「ラダは私とならばどこへだって駆けて行ってくれる筈だから。
 これがその証だよ。レンがいれば、私はどこまでだってラダを追いかけていけるんだもの。
 でも、ファレンは違う。みたいに過ごしているファレンと私は違うんだからね。っていう意地悪はどう?」
「よくよく身に沁みました」
 おかしそうにイヴが笑った。そう、ファレンは幼少期からパレスト家の一員として育てられている。
 を見たことがない。そうした点は大いに弱点であると自己認識もしている。ただの耳年増としか呼べないような実情であるのも確かなのだ。
 ファレン・アル・パレストは妹のフィオナ・イル・パレストよりも世間が狭かった。それ故に様々な情報を集めた、が、ラダのように世界を走り回り英雄の一角と数えられるような経験はしたことがない。
「だからこそ、イヴには旅をしてほしいと言ったのでしょう。いつか、パレストの未来を共に背負ってくれると信じているのですが」
「あんまりにファレンが腑抜けるなら、私はアイトワラスに移籍しようかな。
 でも、それってきっと楽しいよ。ラダと一緒にキャラバン隊を率いるの。がたんごとん、って揺れる馬車の上で二人で語り合ったりするとか楽しそう。
 時々盗賊がやってきて――その時に、ラダが銃を構えたら私は剣を使ってばったばったなぎ倒す。
 そんな未来ってあったら楽しいと思わない? その剣術はファレンが仕込むんだよ。妹を失わないために」
「……」
「なに?」
 ぱちくりと瞬くイヴを見つめてからファレンは破顔した。驚いた、この不愛想で不器用なはこんなことも言えるようになったのか。
 万物の願いをかなえるための門番でしかなかったというのに。ここまで生意気にものを言い笑ってくれるというのか。
「ああ、そうだ……イヴも妹か」
「そうでしょう?」
「そうだった。ラダに大事な妹を預けてみるのも一興かもしれないと、そんな事を思っても良かったかな」
 そっと頬に触れてからおかしそうな顔をしてファレンはイヴを真っ直ぐに見つめた。
 芯の強い瞳をするようになった。ラダという女をファレンが評価しているのはこうした少女を生み出すカリスマ性でもあっただろう。
 イヴはだった。故に人間に対する不信は人一倍でもあっただろうに――彼女は、ラダに向き合い彼女こそ信頼できるのだとそう考えたのか。
「イヴがもし旅に出るというならばしっかりと剣術を仕込みましょう」
「うん」
「それで、大事なお守りを渡しましょう」
「お守り? それはファルベリヒトに関係しているの?」
「ご明察。色宝のかけらです。何の力もなくとも。そこにパレストの家紋を掘り、持たせましょう。
 いつの日か、イヴがアイトワラス商会に移籍をしたいと言い出しても引き留めるきっかけになれるように」
「……そんなに私を大事にしてくれているとは思わなかった。ファレンって、素直じゃないんだね。
 妹が居なくなるのがさみしいってはっきり言ってくれてよかったんだよ。でも、ふふ、うん、いいよ。望んでくれるんなら」
 彼女はきっとアイトワラス商会の仕事を手伝い、ラダと共に各地に赴きたいと告げるだろう。
 情報屋として知識を蓄え、実力を備えて、帰ってきてくれるというならばそんな人材を引き抜かれることをファレンは望まない。
 ――それに、少しだけ、言いたいことはあった。自身が必死に掛け合ってパレストの名を与えた少女がこんなにも簡単に心を奪われるのだ。
 それだけの人材ということか。
 いや、惜しい事をした。紹介を立てる前にパレストに引き抜いてしまえばよかったか――? いや、そもそも、彼女はそんな言葉にノってくるような性質たまではないか。
 あれだけの豪胆な生き方をするのだ。箱を与えられて素直に収まってなど居られまい。
「何笑ってるの? ファレンがそんな笑い方するなんて珍しい」
「……ああ、いや。惜しいものを見逃してしまった気がしただけ。
 ただ、案外、彼女のことを惜しいものだと思っている自分がいることに驚いただけですよ。
 イヴの目は間違っていない。貴女はよく人を見ていますから、貴女がしっかりと見据えてくれるなら……きっと、問題はないでしょうね」
「もちろん。だって、この目はファレンが教えてくれたでしょう。商人には目利きが必要だもの。
 ちゃんと私はパレストの一員として育っているんだよ。ファレン。だから、大丈夫。広い世界を見せてください」
 自信満々な彼女が歩き出すきっかけをくれたのがもしもラダ・ジグリだというならば――
 ファレン・アル・パレストはの門出を祝福するのだろう。そういえば、もうすぐ彼女がパレスト商会にやってくると言っていたか。
 を送り出すきっかけが出来たと考えるべきなのかもしれない。
「イヴ」
「何? ファレン」
「……自分の心の赴くままに進みなさい。貴女ならできますよ」
 イヴの瞳がきらりと輝いてからおかしそうに笑った。
「フィオナみたいに?」
「いや…あれは、まあ、真似をしてはいけない一例ということで」
 肩を竦めたファレンにイヴはからからとおかしそうに笑った。

 ――そんなことないよ。特異運命座標がくれた家族はみんな私にとっての宝物なんだから!


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