PandoraPartyProject

SS詳細

キャンディーと暇つぶし

登場人物一覧

カロル・ヴァークライト(p3n000336)
普通の少女
刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼

「ほら、終わったらお菓子奢ってあげるって言ったでしょ? 俺はちゃんと約束は護る性分だからね」
「おまえって結構そういうところ律儀なのね」
 カフェテラスで頬杖をついたカロル・ルゥーロルゥーを見やってから刻見 雲雀はからからと笑った。
 めでたくも混沌世界には平和が訪れた。最終決戦と呼べる黒聖女やとの戦いを乗り越え、安寧の日々がやってきたのだ。
「もちろん。それで噓をついていたらひどい男になってしまうから」
「そういうもの? そもそも、ひどい男になれる顔してないでしょ。顔面に優しいですって張り付けているじゃないの。
 まあ、おまえが律儀に奢ってくれるっていうから私は最初のキャンディー予定から無事にに向き合うことが出来たんでしょうけど」
 鼻先でふんと笑ったカロルに雲雀は小さく笑った。元から、彼女には好きなだけ菓子を奢ってやるつもりだった。
 待ち合わせ段階で小さなキャンディー一つを提示したときに「おまえ、それだけで済むと思ってんの?」などと言われてついついからかっただけだと答えてからずっとこの調子だ。
 それにしても遂行者――敵であった七罪の一角の配下――と仲良くなれるなどとは雲雀も思ってはいなかった。
 じっと彼女のかんばせを眺めてみればカロルが鼻先でふんと笑う。「何よ」などと此方を伺う蜜色の瞳はあの戦いで見た時と比べれば随分と落ち着いている。
「いや、何ていうか……敵だったのに、こうしてカフェでお茶をしているだなんて不思議なことだなあと思って。第一印象最悪だっただろう?」
「そうね、私からもおまえからも最悪だったと思うわ。まあ、敵同士ってそんなもんだと思うし、別にどうでもいいけど?
 まあ、言っちゃ悪いけどだから。仕方ないわよね、天は二物を与えないし多少の欠点は必要。
 だって、ルスト様もそうでしょう? 性格最悪じゃないの。でも顔は完璧だった。神の造形。これは理解されると思うけど」
 相変わらずの性格だ。そうした所が恨めない。彼女はルストが好きだといった。特に顔立ちを好んでいたようだが、それでも遂行者としての忠誠は確かにあったのだろう。
 恋から目を逸らすように、選択をしたときにかなわぬ恋が春風のように過ぎ去っていくその瞬間を彼女は確かに悔やんでいた。
 その姿に共感を覚えていた。自分だって愛する人には一途だったからだ。「カロルの、一途なところが俺は好きだよ」と、そう告げた時――ひどく悍ましいものを見るような顔を彼女がした。
「はあ?」
「違う。共感したってこと。自分もさ、そういう好きな人に対して一途に居ようと思ってたから。その在り方が嫌いじゃないってだけの話」
「ああ、なんだ。おまえが私のこと好きなのかと思った。それにしたっておまえが一途ゥ? 見たことないけど」
「見せたことないからね」
「まあ、そうか。ふふ。別に、凄まじく疑ったわけじゃないわよ。こんなに執念深い男なんですもの。
 わざわざ敵であーーーーんなに毛嫌いしてた私にスイーツ奢りに来る男よ。その執念深さは伊達じゃないわ。ねえ?」
「今、ばかにしてる」
「してる」
 雲雀は軽口を交わしていることに「おや」とも思った。こうして気兼ねなく何かを言い合える関係なんて早々にない。物珍しい程に言葉が弾みあっている。
 こうして軽口を交わしあうような関係性などそうそうなかった。雲雀にとってカロルとは珍しい関係性の友人だ。それ故にある意味の特別を彼女が謳歌しているということは雲雀自身は理解していたが彼女はさほどに興味をもってもいないのだろう。
 ――別に、そんなこと口にする部分でもない。彼女がおかしそうに笑っているだけである程度の満足は得られているのだから。
「カロル、次は何食べる?」
「バスクチーズケーキとショートケーキ、それから、おまえが好きなもん。おすすめくらい適当に教えなさいよ。
 私が勝手に食ってるだけじゃ面白くもないでしょ。おまえ、尽くす男のガワ被ってると似合わないわよ。獰猛なくらい私に文句言ってた事を思い出しなさいな。
 ああ、思い出すだけで腹が立ってきたわね。チョコレートタルトも追加してちょうだい。もちろん、全部お前のおごりだけど」
「食べれるの?」
「食べられなかったら持って帰ってお茶会が続行されるんでしょうが」
 からかうように笑ったカロルが少しだけ身を乗り出した。愛らしく結ばれた髪がゆらゆらと揺らいでいる。
 遂行者の装束ではなく、普通の少女のように着飾った彼女が「おまえ、頬にケーキついてる」とさり気なくぬぐってくれた。そのしぐさに、自分が全くの警戒をしていないことに気づいてから雲雀はからりと笑う。
 ああ、なんだ――もうとっくの昔にこの子は友達になってしまった。
「カロル」
「何よ」
「仲良くしようか」
「は? 気持ち悪いわね」
 ――ほら、こういうことを言っても君はこちらを害さない。


PAGETOPPAGEBOTTOM