PandoraPartyProject

SS詳細

終わりの先への数か月

登場人物一覧

アウラスカルト(p3n000256)
金嶺竜
セララ(p3p000273)
魔法騎士
しにゃこ(p3p008456)
可愛いもの好き

「かような試練になぜ落ちるか」
 アウラスカルトが言葉を続ける。
「我は一度で試験合格したというのに」
 しにゃこはまるで頭にボールでもぶつけられたように、のけぞり肩を落とした。
 二人(……二名としようか)は、フードコートでジュースを片手に人を待っている。角も耳も尾も隠したアウラスカルトはまるで人そのもので、しにゃこのアイデンティティーは――まあ付け耳で通るだろう。
 ここ希望ヶ浜は神秘を秘匿する街だから。
「それは、ですね、その、だってですね」
 仕方がないではないか。これまで特に勉学を積み上げた訳でもなし。
 希望ヶ浜学園の内部進学はいわば裏口のようなもので、成績や出席日数よりことのほうが重要だ。だからきちんと学問を修めたいとなれば、違った選択をとる手もある。その点この練達は学術都市国家でもあり、うってつけだ。これ以上ない環境だといっても良いだろう。ただ、しにゃこについては、まあうん、来年また頑張ろうという結果に終わったというだけの話で。
「しかしまさか汝ほどの者がな」
「もしかしていま、しにゃのこと褒めました!? もっと褒めていいんですよ!?」

 特異運命座標にとっての使命がなくなったとしても、世界は回り続ける。
 この街に流れる時間も、あの国の幾星霜も、決して止まることはない。
 かつて練達を襲った伝説の古竜――アウラスカルトについて、その後の様々な事情は多くの国家で共有されていた。
 故に練達もまた、彼女と共存の道を模索したのだろう。もっともこの国の場合、鱗の一枚や血の一滴すら研究材料としたいに決まっているが、それはさておき。

 ――特例災害特別措置法。
   並びに特定未交流地域留学生受入基本法。

 この街には誰も覚えていないような法律が、新たに作られ適用されたらしい。要するにこの竜に人類同様の教育を施し、常識を教え込んでしまおうという話だ。これは多分に国際的な政治分野軍事分野の問題を抱えていたが、よくものだと思う。
 今の世界は、得意運命座標やそれに深くかかわった存在――世界の救世主とその仲間たちに、きっと少しだけ甘いのかもしれない。
 とはいえ受験自体はだったようで。中学、高校、大学といずれも難関学校試験を一度で突破したアウラスカルトは、しにゃこに頬を永久にもにもにされている訳だ。なんかすごい真顔のままで。
「おまたせー」
 ドーナツの箱を片手に、旅行用のキャリーケースを引いてきたのはセララだ。
 春になればアウラスカルトは高校生、しにゃこは予備校生。
 セララはいよいよ最強を目指し、ラド・バウのSランクへと挑むことになる。
「そうだ、アウラちゃんもラド・バウに挑戦しない?」
「……戦いはしばらく懲りた。あとにはとかあるし」
「うっ」
 なぜか――なぜかではない――ダメージを受けるしにゃこ。
 しかし竜が高校生を選んだのは、あるいはふいに音沙汰のなくなった着せ替え好きの母へ制服姿でも見せてやりたいとでも思ったのかもしれないが。
 ともあれそんなわけで、三名は世界中を旅してまわることにしたのだ。
 はじめは案内出来ていなかったここ練達で、かれこれ二か月ほど滞在したろうか。
 だから――タイムリミットは、あと二か月半。
「次はどこにしようか?」
「そうですねえ」

 ――その背に乗ればひとっ飛び。
 豊穣で節分の祭りを見たのは、果たしていつぶりだろう。
 和装でそろえて、外套に襟巻のいで立ちで高天京を歩く。
「ねえ、射的してみない?」
「どうすればいい」
「こうやってですね……」
 お手本は見事的中。
 やはり腕前は、しにゃこが群を抜いている。
「あれはなんだ」
「お神輿っていうんだよ」
 お面を頭に、綿菓子とりんご飴を手にして、人力車で旅館へ。
 驚くほど多彩な料理の数々を写真におさめたら、いただきます。
 その後はゆっくりと温泉だ。
「セララ、汝はなぜ闘士を目指す」
「目指せ最強のアイドル闘士――打倒ガイウスだよ!」
「なるほど、しかししにゃこ、なぜ学生なのだ」
「それは、その、夢があってでして」
「夢?」
「それは、まだ秘密です!」
 まだちょっと恥ずかしいから。
「アウラちゃんは夢とかあるの?」
「わ、我も言わぬ。それより次の目的地はどうする」
「じゃあ次はどこに行こうかな」
 畳の部屋へ寝転んで、布団の上で世界各地の地図を眺める。
「どこでも行き放題ですね! 交通費もただですし!」
「我も鉄道とか、乗ってみたい」
「あんなに朝の電車とか嫌がってたのにですか?」
「あれは、なんかちがうではないか」
「結構お金かかるかもね」
 そんな話をすると、アウラスカルトが無言で何か術式を編み、亜空間に手をつっこんだ。出てきたのは結構な量の金貨だ。
「これで払えばよいではないか」
 いくらかは分からないが、すごい大金なことは分かる。
「わ、わあ」
「おおう、アウラちゃん! 今日は一緒の布団で寝ましょうねえ~!」
「よせ、汝は寝るとなんか暑い」
「そう言わずにですね」
 最後の朝、旅館を振り返る。
 あの梅の花が散り、桜の芽が膨らみ花開くころ、この旅は終わる。
 だから愛しむように、慈しむように、惜しむように。
 三名はよく話し、よく食べ、何よりたくさん笑っていた。

「あちこち街とかにも寄りたい」
 意外と旅行の情緒が垣間見えるアウラスカルトだと思う。
 鉄帝国へ行く前に、海洋王国へ立ち寄ることにした。
 まずはシレンツィオで三泊。
 そして首都リッツパークでもう三泊。
 色とりどりのタイルが並ぶ賑やかなストリートは、それ自体がこの国の名物だ。何より異国情緒といえばここだろう。あれから貿易がいっそう盛んになった市場には、さまざまなものが並んでいる。
 色々買い込み、今夜はホテルで海の幸を満喫することにした。
 そしたら明日は天義へ向けて飛ぶ。
 久しぶりの聖堂巡りをしたら、今度は不凍港ベデクトへ出発だ。
「さむーい!」
「こんな寒かったでしたっけ!?」
 風よけの加護があっても、上空の空気はどんどんと冷えてくる。
 春先になっても未だ雪深いヴィーザルの山々を見下ろし、竜は一気に降下した。
 ここから二週間ほど、汽車へ乗り、街で途中下車しながら寝台車の旅を満喫する。
「ずっと同じ感じですね」
「ゲームでもしよっか」
 四人部屋を三人で貸し切り、永遠に続くかと思われる森を進んだ。
 トランプをしていると、電車がふいに森の中て停車する。
「また止まったね」
 驚くほどよく長時間の停車があるものだ。
 八時間ほどそのままらしいので、帝国の街へ。いくつか目の街ではあるが、さすが帝国というだけあって、どこも文化の違いを感じるから面白い。
 久しぶりのスチールグラードの後は銀の森へ、そして深緑。
 お次はラサで、その足で覇竜を訪れ、終焉すらも覗き――

 そしてまるで桜そっくりなアーモンドの花が咲いた頃。
 一行は最後の目的地へと訪れていた。
 幻想王国、王都レガド・イルシオンだ。
 この石門をくぐったのは、古代の巨人と戦って以来かもしれない。特異運命座標はワープポータルを利用することのほうがずっと多かったから。けれど街中を大通りへと進めば、靴底が石畳の感触を――その道順をはっきりと覚えている。
 旅の終わりはにするのだと、最初から決めていた。

 ――ただいま。
 ――おかえりなさいなのですよ。

 ギルド・ローレット。
 勝手知ったるホームを案内するのは、実は初めてのことだった。
 分厚い木のカウンターと、樽を改造した机に――
「ひとつ訪ねたいが、我も冒険者登録は可能だろうか」
「「え」」
 セララとしにゃこが声をそろえた。
「先月、夢がどうとかいう話になったな。
 その、だな。
 ……我は治癒魔術が得意ではない。
 竜にそんなものは、必要ないと思っていたからだ。
 だがそれでは、救えぬものがあるのだと知った。
 だから最近は練習とかだってしている」
「……」
「我は様々なものを傷つける竜だった。
 その十倍や百倍だって、治癒したところで、過去は変わらん。
 それでも、これからは、そういうことをしてみたいのだ」
「アウラちゃん!」
「かあいいですねえ~!」
「よせ、やめろ」

 これきり――という訳ではない。
 けれどどうしたって、新しい生活は忙しいもの。
 セララは救世主で、勇者で、それこそアイドル闘士として公私ともども引っ張りだこに違いなく。
 しにゃこもまた、再びの受験に備えて勉強とバイトの毎日で、模試の結果に一喜一憂することになるのだろう。
 アウラスカルトだって、てっきりニー……自由人生活を謳歌するかと思えば。よりによって高校生ときた。そうなれば新しい友人だって出来るに違いない。
 ついでに冒険者もやろうというのだから、時間などいくらあっても足りないだろうことは想像に難くない訳で。
「勉強はするんですけど、たまに会いに来てもいいですよ」
「たまに?」
「だってそんなに長い間会えなかったらアウラちゃんも寂しいですもんね!」
「……」
「ですよねぇ!?」
「…………」
「嘘だよー! しにゃが寂しいだけだよー!!
 たまには様子見に来て暖かく見守って! 応援して!」
「別に構わんが、そうだな。次はいつがいい」
「そうだね、次はいつにしよっか」
「そうですねえ、夏にシレンツィオリゾートとかどうですか?」
「いいかも、ねえアウラちゃんはいつ頃がいい?」
 こんな些細な夢も、日常に戻れば叶うかどうか。
「別に明日でも来週でも、いつだってよいではないか。これがあるゆえ」
 アウラスカルトが、すっかり慣れた手つきでaPhoneスマホを振る。
「連絡とか、たくさんするからな。汝らもよこせ」
「いいですよ! 親友ですしね!」
「……」
「え」
「まあ、親友でもよい。竜は嘘はつかぬ」
「まあってなんですか!?」
「ボクたちも親友だしね!」
「ああ」
「なんでそっちは即答なんですか!?」

 こうして三者は、新たな道を歩みだし――


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