PandoraPartyProject

SS詳細

Pandora Party Project

登場人物一覧

寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛

 水槽に中に落ちてしまった金魚、ベッドの上の人間精神のように、完全変態をして終うのは如何だろうか。転覆病を患ってしまった時のように、波に攫われた小舟のように、ぐるん、ぐるんと遊ばれるとよろしい。或いは、一種のでんでん太鼓のように、いやだ、いやだ、と頭を振ってみるのは如何だ。どのような反応をしたとしても、冬宮・寒櫻院・睦月、垂れ下がった赤色は可愛らしさの権化と謂えよう。これも、全部、めまいが原因だ。成長しきって、かみさまのような意思の儘に、自分の頭の中をひどく雑に扱っていたのが根本だ。いっそ、脳味噌の代わりに羊羹を納めてくれはしないかと、オマエ、旦那様に声を掛けてみせようか。いいや、結局のところ、わざわざ口にしなくとも彼は……寒櫻院・史之は妻さんの思考を粘土みたいに解してくれるのだ。たとえば、絵本を読み聞かせてくれる誰かさんのように。一冊の、やけに分厚い書物とやらを、捲ってくれたなら楽と思えた。ああ、ああ、かなり、時間を食んだような、そんな気がするよ。だから、今日くらいは、僕の我儘に付き合ってくれたって構わないと思うんだ。甘えたがりなオマエは如何やら昨日の記憶とやらも失くしたらしい。毎日、毎日、オマエは我儘放題をしているのだ。……え? 僕が、我儘じゃない時なんて『ない』だって。そんな意地悪をするなら、僕、今度こそ……しーちゃんをとんぼにしてあげるんだから。懐かしきヤンマどもの垂涎、ごくりと、見守ってくれた彼等は今頃、何処かのアイランドで戯れているのか。ね、しーちゃん。僕だって、僕にできることくらいはちゃんと出来るんだよ。お腹が空いたら、ご飯を食べることができるし。咽喉が渇いたら……? 前言撤回をしてくれよかみさま。一矢を放ったところでオマエ、天へと吐いた唾のように。前転する何者かと後転する何者か、ようやく、お互いの背中を感じ取れたのだ。燃え盛る街へと身投げをしようと試みたところで、魔性、瞳だけを捉えるように。
 仮に、世界が滅んでいたとしても、仮に、魔王座が顕現していたとしても、この熱っぽさだけは息絶えない。すっかりめまいに夢中となっている妻さんを支えながら、寒櫻院・史之、オマエはブレている瞳に衝突した。悪くない。こういう、永続的なぬくもりも悪くはない。まるで「アハハ嗤い」に囚われた自分自身を覗き込むかのような感覚だ。カンちゃん、カンちゃん、そんなに引っ付いていたら、本当に、いつかの装飾みたいになってしまうよ。オマエの脳裡に這入り込んできたのは何年か前のシャイネン・ナハト、両手いっぱいの箱の中身については、最早、親しみ易い代物となった。……カンちゃん、水槽の中に忘れ物をしてしまったんだ。だから、お出かけの前に、少しだけ時間をくれないかな。愛する人を、愛している人を、待たせるという行為はかなりの痛手だ。しかし、両者が首を縦に振ったならば、何もかもは情念のスパイスへと昇華される。もちろん、昇華するまでもなく『そう』なのだが。妻さんの頷きを確認したところでたっぷり一時間。……ごめんね、カンちゃん。この『時間』が必要なことは、お互いに、わかってはいるけど……。つまりは、焦らしのような沙汰なのだ。今の妻さんには幾らかの余裕が見えていた。美味しいものを『おいしく』いただく為ならば、そうとも、瀬戸際まで脳髄を刺激してやらねばならない。アノマロカリスを刺身にする時だって『コツ』がいるんだ。だったら、僕をおいしくする為にも『コツ』があるに決まっていた。広い世界も楽しいものだが、嗚呼、その他に寄るのも面白い。カンちゃん、お待たせ。ちょっと遅くなっちゃったかな。汗をかいているフリだ。拭っているフリだ。妻さんは全部『知っている』のだけれども、それでも、頬を膨らませてくれた。しーちゃん? 待ちくたびれたよ。僕、ちゃんと混ぜてくれないと、コーヒーだって飲めないからね。飲めるのだとしても、飲めないのだとしても、この関係性、ある種の依存性なのではなかろうか。絡みついてきた情念を玩具として、夫妻、誰かさんの溜息を耳にした。誰かさんの名前や姿形に対しては興味を抱く所以もなく。只、ご案内をしてくれた。
 再現された街並みとやらは――何者かの夢がカタチとなった空間は――おそろしくも焼失してしまったが、しかし、境界の方はまったく無事と謂えたのだ。境界産アーカムと称される、この『ライブノベル』は何者であれ、歓迎をしてくれる懐の深い怪奇であった。おう、其処のお二人さん。アツアツだね。オアツイお二人さんには、きっと、アイスクリームが似合うだろうぜ。現地民からのお誘いだ。いつかの散策の反芻とも考えられたが、それでも『あつい』という現実は覆せない。バニラの甘い香りにクラリとして、夫、妻さんへと冷たいものを渡す。……カンちゃん、こんな季節だけど、いつ食べてもアイスクリームは美味しいと思うよ。それに、ほら、少しくらいは休んでおかないと疲れてしまうから。疲弊を感じている事は確かだった。なんとも言い難い渇き具合に妻さん、一所懸命、舌を動かす。……しーちゃん。なんで、じっとこっちを見ているの。僕、そんなに、へんな顔だったかな。実際、顰め面ではあった。その所以については、その原因については、考えなくとも判るほどだ。……うぅ……。真冬にアイスクリームを食べたのだ。その頭痛の強烈さは言の葉で表せない程度である。し、しーちゃん……しーちゃんは食べないの。あ、あたま……。その科白の繋げ方では『別の意味』にも捉えられそうだ。しかし、素敵な旦那様、別のものを食んでいた。こっちのスフレも美味しいよ、カンちゃん。……ぼ、僕が、ズキズキと格闘していたっていうのに、しーちゃん……? アハハ! ごめん。かわいい睦月を見ていると、つい、悪戯したくなって。バニラとチーズを交換しながら歩みを進めよ。別荘の代わりに使えそうな建築物までもう少しだ。聳えるかのように、天へと届くかのように、此方を覗き込んでくる……瞳ではなく、窓……。カンちゃん、ここなら誰にも見られずに済むと思うよ。旦那様の人差し指、その先に存在していたのは――廃墟となった教会。
 まるで、強大な獣だ。レヴィアタンが蜷局を巻き、ベヘモットが地団駄を踏む。三番目の獣までもがやってきて、宙から、地獄の鐘を降らせるかのような。……しーちゃん、かなり、グロテスクな雰囲気だけど。本気で、ここが『良い』って思っているの。それなら、僕も『良い』なって思い込めるけど。妻さんからのツッコミも御尤もだ。しかし、それでも旦那様は『ここ』を良しと定めている。僕はさ、カンちゃん。この世界に、このライブノベルに、デート先を決めた時点でこうなる事を察していたんだよ。カンちゃんだって、そんなふうに謂っているけど、すっかり、顔が赤いじゃないか。鏡を使う必要もない。姿見に触れる必要もない。たとえ、アウトサイダーだと教えられても、だからこそ『うれしい』のだと二人は笑った。そうだね。うん、しーちゃんのいうとおり。僕は、僕の『やりたい』ことに忠実であるべきなんだよ。ぎぃぎぃ、錆びているのか、教会の中へ。
 教会内部――幾つかの宗教の煮つけ――は筆舌に尽くし難いほどに薄暗かった。一歩、一歩、妻さんの代わりに進めていると、旦那様。これは僥倖だと『たかたもの』を見つけたのだ。カンちゃん、これ見てよ。薄暗いから、最初は見づらかったけれど。これ、綺麗な宝石だと思わないかな。旦那様の掌の上、キラキラと、グラグラと、光輝している多面体。ある種のお約束として役目を果たしそうな物質に……物質のような何かしらに……妻さん、目の玉を落っことしそうになった。か、カンちゃん……なんだか、嫌な予感がするんだけど……でも、それも、僕が選んだお祝いの言葉なのかも……? 病める時も、健やかなる時も、支え合って呼吸をしてきたのだから、今日だって、明日だって、二人は二人なのだ。嗚呼、たからものがより強く光輝をしても――一切合切を鯨飲し、二人を掻っ攫おうかとしても――おなじ状況に陥っているのであれば、何が起きたって構わないのか。カンちゃん、これで本当に『ふたりきり』だね。そのうち、お迎えは来るかもしれないけど、俺は、この瞬間を、この時間を、ご馳走のように咀嚼したいと思っているんだよ。知っている。何もかもを知っているのだ。連れ去られた先こそが終焉だとしても、すべては知っていての雛なのだ。僕は……僕たちは、これを消そうとしたけど、消えなかったし、そもそも、僕たちは本気で消そうとは思っていなかったんだよ。だって、消しちゃうなんてもったいないからね。何よりも烙印らしい烙印。ふたつの脳味噌に刻み込まれたひどくお上手な啜り方……。
 混沌……境界……教会……全てを逸脱するかのような、総てを超越したかのような、常時では決して辿り着けない『夢』の彼方。冬宮・寒櫻院・睦月と寒櫻院・史之は上下左右も解せない、真に混沌とした何処かで横たわる破目となった。もぞりと、尺取虫のように、同時に身体を起こしたならば眼球が勝手をしているとわかる。……しーちゃん……ねえ、しーちゃん。僕、もう我慢できない。お願いだから、お願いだから、今すぐに。咽喉が渇いて仕方がない。烙印が疼いてたまらない。そうだ。時間稼ぎをしてくれたのだから、このタイミングで『くる』事くらいは判り切っていたのだ。妻さん、おいで。俺はちゃんと『目の前』にいるから。がしり。妻さんが旦那様に抱きついた。抱きついて、大きくお口を開けたなら、がぶりと、首あたり。じくじく、こぼれていく。赤を舐り取ったならば――ドンペリよりも、クラクラする。
 長い時間を、永い時間を愉しんだ。
 窮極の混沌の中心、物語の終わりの象徴、胎児のように。
 自然と後を追えるように。

  • Pandora Party Project完了
  • NM名にゃあら
  • 種別SS
  • 納品日2025年12月17日
  • ・寒櫻院・史之(p3p002233
    ・冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900
    ※ おまけSS『奇跡』付き

おまけSS『奇跡』

 妻さん、妻さん、こうやって、愛し合っていることが、奇跡だとは思わない?
 そうだね、しーちゃん。僕も、それだけは、わかっているよ。
 僕たち、これから、死んでも一緒だよ。
 その通り。僕たちは……俺たちは、いつまでも……。

 最早、宣言Pandora Party Projectする必要はない。

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