PandoraPartyProject

SS詳細

平和な空で

登場人物一覧

ハイペリオン(p3n000211)
神翼獣
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽

「ハイペリオン様はこれからどーするん、ですか?」
 ここは平和なハイペリオンランド。かつては争いの中心地であったという意味だけではない。世界の滅びを破り真の『世界平和』を成し遂げたことで、この場所は本当に神がくつろぐ憩いの場となったのである。
 神の名はハイペリオン (p3n000211)。
 『太陽の翼』の異名を持つ神霊であり、かつては空の島から人類を太陽のように見守っていた存在の末裔。あるいは、かの『勇者パーティー』の一員。勇者たちをのせ空を飛び冒険を共にした、貴重な生き証人だ。
 ……などと語ると仰々しいのだが、現代で広く知られるハイペリオンはもうちょっとイメージが違う。
 白くてまるくてふわふわした、シンプルで可愛い顔をしたでっかいとりさん……なのである。
 カイト・シャルラハ (p3p000684)はそんなハイペリオンを吸いに、今日もハイペリオンランドを訪れていた。
「どうする、とは?」
 大きな羽で包み込むような、優しく柔らかな声で問い返すハイペリオン。
 カイトはもう暫く吸って安らかな気持ちを満喫してから、顔をあげた。
「ハイペリオン様。封印から目覚めたばかりの時は、記憶も力もあまりありませんでした。
 けど最後の決戦の時には、かなりの力を取り戻していたはず。それこそ、幻想からあの地へと飛んで行ける程度には……」
 てっきりハイペリオンランドで無事を祈ってくれているだけとばかり思っていた時に、カイトたちを助けるべく空から舞い降りた瞬間は忘れがたい。
「そうですね。『竜は飛ばなければならないから翼をもった』という寓話があります。
 私があなたの元へと駆けつけたのも、そうするべき刻であったからなのです。
 力は確かに蓄えられましたが、無理に使えば消耗するもの。永き時を生きるからでしょうか、私はあまり燃費の良い存在ではないのでしょうね」
 『神霊』というものはこの混沌世界に結構な数、存在している。
 ハイペリオンのようにかみさまとして人々の前に現れるものもあれば、自然と一体になったかのように沈黙するものもある。
 そんな中でもハイペリオンは、その身体や存在が力そのものでできている。
 力を蓄えるのは、存在を保つためであると同時に、有事に備えるためでもあるのだ。
「ですが……あなたとは約束をしましたからね。カイト――赤い鳥さん」
「えっ――」
 ハイペリオンが立ち上がり、翼を広げる。
 透明なドーム状になったハイペリオンハウスの天井が開き、ハイペリオンは大空へと飛び上がった。
 そこは素早さと風読みに定評のある『風読禽』ことカイトである。すぐさまハイペリオンを追いかけ空へとあがると、幻想の広い大地を見回した。
「この平和な空を飛ぶくらいならば、問題はないでしょう」
 魔種や滅びが倒されたとはいえ、空を飛ぶ脅威がないわけではない。
 国家間をわたるような空旅は多少の危険もあるだろう。
 だが……それこそ、真の世界平和を獲得した空である。カイトが同道するならば、きっとどこまででも飛んで行けるはずだ。
「もしかして……今から、ですか?」
 問いかけるカイトに、ハイペリオンはにこりと笑った。
「わたしもたまには、思い立って行動したい時もあるのです。一緒に来てくれますか? カイトさん」
 カイトは目をぱっと見開き、そして何度も小刻みに頷いた。
「もちろん! もちろんだ――です!」
 うっかり普段の口調が出そうになって、カイトはビッと敬礼(?)をする。
「どこへ行きたいですか。海洋の島々は綺麗だし、豊穣はこことは全然違う雰囲気の国です。あと――」
 指折り数えるカイトをほほえみと共に見守っていたハイペリオンは、ふわりと身体を動かして南西へとむいた。
「カイトさんが一番良く知っている空を、案内してくれませんか。
 を乗せて空を旅をしたことはありますが、に先導されて空を旅するのは、きっとこれが初めてになるでしょう」
「お、おお……」
 はからずも(?)伝説の勇者と並んで語られたカイトは、勇ましく翼を羽ばたかせてみせた。
「任せてください! もはや俺に、知らない海はありませんよ!」

 それから、ハイペリオン様による混沌大空ツアーが始まった。
 カイトと二人で始めたこのツアーは、時に同行する者が増えたり、途中で別れたり……それこそ新時代の『勇者パーティー』のごとく国々を飛び回ることになった。
 海洋の島々を巡る冒険は、未だに新鮮な発見と驚きをもたらしてくれる。
 鉄帝の風土はかの動乱を乗り越え力強さを今も発揮していた。
 ラサの砂漠地帯を飛んで行くのは不思議と自由を満喫できたし、深緑の森は神秘を未だに木々の間に隠しているかのようだ。
 いくらか破壊された天義の建造物も今ではすっかり整えられ、荘厳な街並を見渡すことができる。
 そういう意味では、練達の『作られた空』も風情のあるものだ。
 この世界に残ったウォーカーたちがまわす新鮮な街の様子も、旅の醍醐味を与えてくれた。
 そう、これは、『旅』なのだ。

「とうとう、こんなところまで来てしまいましたね……」
 シレンツィオを更に越えて、かつては地図の端っことさえ言われていたような海を抜けた先、豊穣の国に降り立ったハイペリオンは、同じく翼を畳み着地したカイトを振り返った。
 二人で始めた大空ツアーは、偶然にも二人で最後の土地を踏むことになりそうだ。
「封印から目覚めたあのとき、まさか世界の端の更に向こうがあるとは思っていませんでした……。カイトさん。あなたがたが世界を広げるたび、その情報をローレット越しに聞くたびに、わたしはかなたの空に想いをはせたものです」
 夢が叶いましたねと頷き、ハイペリオンは豊穣国の山中。広い草原地帯にころんと寝転がった。
 どうぞと視線で促されたので、カイトはその横に座り背をハイペリオンに預ける。
「いろんな所を巡りましたね」
「ええ。けれど、あなたに比べればまだまだ、なのでしょう。ローレットの……カイトさんの巡った世界の秘境は、私には想像もつかないような場所ばかりのはず。あの空飛ぶ島でさえ、ごく一部だというのですから」
「そう、ですね……」
 ふわりと沈む身体と、おひさまのにおい。
 降り注ぐ陽光の温かさが、カイトを自然と眠りへと誘った。
 だからだろう。ゆっくりと瞼が降りて、カイトを深いやすらぎの世界へと沈めていく。

 夢を、見た。
 はるか彼方、どこまでも飛んで行く夢だ。
 見える景色は現代の混沌とはずっと違って、それは埋もれた歴史の中に見る地図みたいだった。
 それが『勇者の夢』だと気付いて、カイトは苦笑する。
「ありがたいが……俺にはもう必要ないな」
 自分には、共に飛べる翼がある。
 平和になった現代で、新時代の『勇者』としての自分がある。
 誰かの代わりでもなければ、伝説をなぞらえた何かでもない。
 自分自身が切り開いた世界と、勝ち取った平和と、叶えた『現実』があった。
 目を覚ましたら、次の行き先を話そう。
 ハイペリオン様がまだ見たことのない場所が、たくさん……ほんとうに、たくさんあるんだ。
 カイトは妙にリアルに吹き抜ける風に目を細めながら、夢が覚めるときをまっていた。
「これで終わりじゃないんだ。これからもずっと、世界を冒険しましょう。ハイペリオン様」


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