PandoraPartyProject

SS詳細

久遠のニーヴァ。或いは、一瞬の星の瞬き…。

登場人物一覧

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ラダ・ジグリの関係者
→ イラスト

●流れた先に見たきら星
 嵐の過ぎた後のこと。
 ラサのとある海岸に、1つの“樽”が流れ着く。
 とうてい1人では運べないような大きな樽だ。元々はワインなどの醸造に使っていたものなのか、特徴的な色の褪せ方をしている。
「あぁ、酷い目にあった……アイツめ、何が“樽に入っていれば、いいところに流れ着く”だ」
 ガタガタと樽が激しく揺れた。
 蓋を内側から蹴り開けて、樽の中から顔を覗かせたのは中性的な顔立ちをした幻想種の女性である。彼女は汗で頬に張り付いた髪を、そっと指で払いながら新鮮な空気を美味しそうに吸い込んだ。
「はぁ……生き返る心地だ。信じた私も私だが、適当なことを言った彼女もなかなかだな。今度遭ったら、文句の1つも……うん?」
 ふと、視線を感じて彼女は……ニーヴァ・ジグリは顔を上げる。
 彼女の傍には、大勢の人が立っていた。
 皆、驚いたような顔をしてニーヴァの様子を観察している。
 まぁ、当然だろう。
 いきなり樽の中から、女性が現れたのだから。驚くなと言う方が難しい。
「あんた……樽で旅して来たのか? もしかして、乗ってた船が難破でもしたか?」
 そう言ったのは、褐色肌の女性である。
 背の高い女性だ。
 その鋭い目つきと、色素の薄い髪の色に何処か既視感を覚えた。ニーヴァは首を傾げつつ、女性の姿を上から下まで舐めるように凝視する。
「……どうした?」
「いや、なに。何というか、こう……懐かしい感じがしてな。その服装から察するに、ここはラサか?」
 砂漠ばかりと聞いていたが、周囲の様子を見る限りでは砂など何処にも見当たらない。
 それどころか、少し遠くの方に視線を向ければ、緑の樹々が生い茂っているのが見えた。
 しかし、太陽の光は熱く、吹く風は海だと言うのに乾いている。
 近くに砂漠か、或いは荒野があるのだろう。
 かつて過ごしたラサでの毎日を思い起こして、ニーヴァはそう判断した。
「何処から来たか知らないが、まぁ……驚くよな。この街では、随分と昔から“緑化活動”を行っているんだ。何でも創設者が、木材不足に苦しんだらしくて」
「そうか。砂漠では樹木が育たないからな……ところでキミたち、こんな朝早くに海岸に集まって、何をしているんだ?」
「これから海に出るところだったんだ。先日の嵐で、貨物船が何隻か消息を絶ってな……我々とは直接関わりのある商船でも無いが、同じ商人のよしみで捜索に出ようと思っていたんだ」
 ほら、と女性が指差した先には黒い金属で作られた流線型の大型船があった。見るからに速そうな船だ。帆が無いところを見るに、風が無くともあの船は海を走るのだろう。
「お人好しだね」
「最新式の船が完成してね。性能を試してみたいというのもある」
 善意だけじゃ商売はやっていけないよ。
 そう言って女性は肩を竦めた。

「昔は、1台の馬車でラサの各地に品物を運んでいたそうだ」
 出航の準備が進む様子を、何とはなしに眺めているとそんな声が投げかけられた。
 ニーヴァの近くにやって来たのは先ほどの女性。出港準備を指揮する姿から察するに、どうやら彼女は商会の……或いは、この街の上役らしい。
 彼女は、ニーヴァの隣に座ると、その手に1本のガラス瓶を押し付ける。
「ラサの砂漠は過酷だからな。今は違うのか?」
 女性から手渡されたガラス瓶を開けながら、ニーヴァは問うた。
 蓋を開けると、炭酸の弾ける音がする。
 それから、ほのかに香る僅かな酒精も。
「瓶は海洋のものだな。中身は……豊穣の酒か?」
「正解だ。豊穣の酒に炭酸を入れたもので、今度、各地に売り出そうと思っている」
 口調は和やかに。
 けれど、女性の視線には警戒の色が滲んでいる。
 どこの誰とも素性の知れないニーヴァのことを警戒している様子であった。
「何処から来たのか……には、あまり興味はないな。何処に行くんだ?」
「そうだねぇ。色んな所に行ったけど……ラサは久しぶりだからね」
 一時の間は奇妙な港町に滞在するのは確定として、その次には何処に向かおうか。頭の中でラサの地図を広げてみるが、すぐにニーヴァは思い直した。
 こんな昔の地図など広げて、一体、何の役に立つのか。
「適当に、あちこち旅してまわろうかと思ってるよ」
「……そうか。もし遠くまで行きたいようなら、アレを使うといい」
 そう言って女性は、街の外れ……丁度、森のある辺りを指差す。
「あれは、機関車か? 驚いた。ラサの砂漠に鉄道を敷いたのか?」
「まだ全域には程遠いがね。少なくとも、砂漠超えをしなくとも隣の街までは行ける」
 それじゃあ、旅を楽しんでくれ。
 そう言って女性は、船の方へ歩いて行った。
 その背に担いだライフルを見て、ニーヴァは「あ」と声をあげた。
「ん?」
「この街……名前は何という?」
 ニーヴァの問いに、女性は微笑む。
 それから彼女は、大仰な仕草で街を示してこう言った。
「ようこそ、“黄金航路の出発点”ポールスターへ」


PAGETOPPAGEBOTTOM