PandoraPartyProject

SS詳細

覇竜の商会支部

登場人物一覧

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽


 かつては混沌にあって人跡未踏の地とされた覇竜という土地。
 今や、他国から人が行き交うほどの交易路まで完成した。
 とはいえ、危険な土地に変わりはなく、亜竜と呼ばれる存在が狙ってくることもしばしば。
 命の危険と隣り合わせであっても、覇竜という土地は商人らにとって金の生る土地。
 この地独特の植物や鉱石、名産品等もさることながら、そもそも亜竜自体の皮、肉、骨などが他地域から珍重される。
 だからこそ、商人らは死地へ向かいたいという用心棒を雇ってなお、覇竜との交流を望む。
 
「ふう……」
 忙しない毎日を過ごすラダ・ジグリ。
 日々の業務に追われている彼女は手広く行商・交易事業を展開していた。
 ここまで臨時雇用を合わせ、自らの手でやってきたのだが……、ラダ自身なかなか覇竜へ足を運べずにいた。
 ラサを主軸として活動している彼女は、覇竜ばかりに関心を寄せてはいられない。
 今や、混沌全土は活気に満ち溢れており、商機はどこにでも存在しているのだ。
 もちろん、地盤であるラサの事業も大切だ。
 これら業務をこなすに当たり、ラダは自分だけで仕事を回すのを断念せざるを得なかった。
 しかし、他の商人も覇竜への商機を探っている。
 出遅れるだけで、機会は損失してしまう。
(なら、スタッフを派遣せねばな)
 それは早急に行う必要があるとラダは認識していた。

 ただ、覇竜という地は想像以上に忌避される場所。
 いくら出世の道が開かれようとも、命を天秤にかけねばならない。
 ラダは信頼できる商会員数人に呼びかけるが、さすがに断る者もちらほら。
 それでも、世界を救ったイレギュラーズの一員が言うならと、ラダに絶大なる信頼を寄せてその任を買って出る者が出始めた。
「そうか、それは嬉しい」
 固く握手を交わし、ラダは覇竜支部の立ち上げを託す。
 当然、一人では支部を回すことなど叶わない。
 ラダはできる限り、信頼できる伝手をフル稼働させて人員確保に動く。
 商会からだけでなく、スカウトという形でラダは声をかけていく。
 例えば、ラサに多く存在する盗賊。
 この先を考えれば、足を洗いたいと考えている者もいる。
 監視付とはなろうが、働きが認められればより良い仕事、給料が得られるとなれば、まっとうな道に戻りたいと考える盗賊に一筋の光を示すことができるだろう。
 また、ラダは覇竜に住まう亜竜種などにも声をかけていく。
 何せ、彼らにとってホーム。
 場所柄、外の国に興味を持つ者もいるだろうし、何より普段から亜竜と戦っている者。
 護衛としてはこれ以上ない存在だ。


 ある程度、人員確保が叶ったところで、ラダは彼らを自社へと招き入れる。
 創設メンバーは10名程度。
 しばらくは本社から馬車などを貸与し、覇竜支社の運営が軌道に乗ったところで自社の備品を増やして行く形となる。
 なにせ、覇竜での住居確保などもあり、ラダにも商談や物流についてどうすべきかと窺いを立てることもあるだろう。
 暫くは慌ただしく過ごすことになるのは間違いない。
「よろしくお願いします」
 支社長はラダが最初に声をかけた商会員。
 後は半数が亜竜種で、1名が別所交易商人の引き抜き、1名が荷運びの手伝いからのスカウト、1名が若手商会員、そして、最後が元盗賊だ。
 亜竜種は土地勘と腕っぷし、それ以外は運搬や交渉のノウハウがある者と将来性も見越した人員である。
 元盗賊は試験的な採用だが、軌道に乗れば更なるスカウトに乗り出すことになるだろう。
 この場は上記メンバーに加えて本社の商会員の上層部が集まり、覇竜支部の門出を祝う。
「「乾杯!」」
 杯を突き合わせて、その場の面々は果実酒を煽る。
 夏も近づくこの時期だ。
 オアシスで冷やした酒の味は格別だっただろう。
「ふむ、これは美味い」
 亜竜種達も地元ではまずお目にかかれぬ味に舌鼓を打つ。
 彼らは逆に、覇竜で流通する亜竜の肉に野菜を添えた皿を提供すると、大味ながらもボリュームのある肉に皆目を輝かせる。
「これはなんとも香ばしい」
「幻想の貴族なら高値で買ってくれること間違いない」
 そんな各地の商品の批評もこの場で行いつつ、ラダはこう続ける。
「皆が上手く支部を盛り上げてくれることを願っているよ」
 こうした品が混沌各地どこでも入手できるようになるならラダも本望だ。
 これまで……覇竜交易路……交旅(こうりょ)の路を整備するまででも長い時間と労力を要した。
 ラダや商会員、亜竜種達はそれらについて語り合う。
 紆余曲折あったものの、やはり完全開通した時は何物にも代えがたい喜びがあったのだとか。
「将来、ラサに鉄道を作ろうと考えているよ」
 鉄帝にあった線路を整備し、車両を作って動かせれば、物流はなおも活性化するはず。
 今は難しいが、将来は覇竜にまで線路を伸ばすことができれば。
 そんな壮大な彼女の夢を聞きながら、その場のメンバーは親睦を深めるのだった。

おまけSS『その雄姿を見送って』


 数日後、準備が整った覇竜支部創設メンバーは馬車を引いて覇竜へと旅立っていった。
 多少の亜竜ならば、問題なく討伐可能な亜竜種も一緒だから、ラダもその道程についてはさほど気にかけてはいない。
 むしろ、到着してからが本当の苦難の始まりかもしれない。
 そんな事業にチャレンジしてくれる支部員達にラダは感謝しながらも、見送る商会員らと共に彼らの前途を祈るのである。


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