PandoraPartyProject

SS詳細

交易は浪漫だ。或いは、砂漠の商人は海を行く…。

登場人物一覧

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽

●浪漫航路
 爽やかに吹き抜ける潮風と、寄せては返す波の音。
 暗い夜空に瞬く星の光を頼りに、ただ永遠に広がる黒い海を行く船。
 操舵輪を握るのは、褐色の肌の女であった。
 その身に纏う衣装や装飾品、そして佇まいから見る者が見れば彼女がラサの住人であることに気付いただろう。
「……まったく」
 波に身を任せ、微睡むように空を見上げていたラダが溜め息混じりの言葉を零した。
 1度、方位磁石に視線を落としてから、操舵輪を固定したラダはゆったりと、けれど威風堂々とした足取りで甲板へと降りて行く。
「お前たちのせいでとんだ道草を食ってしまった」
 ラダが視線を向けた先には、縄に縛られ甲板に転がる十数人の男たちの姿があった。垢ばんで黒くなった肌に、汗染みの目立つ粗末な衣服。そして何より、不健康を絵に描いたような痩せた身体と、剣呑な目付き……彼らの素性が“海賊”と呼ばれる荒くれ者であることは、誰の目にも一目瞭然であろう。
「明日の朝には寄港すると事前連絡をしていたのに、これでは夜通し船を走らせなければ間に合わない」
 溜め息を零したラダは、甲板の端に置かれていた木箱を爪先で蹴飛ばした。
 木箱の中身はマスケット銃やカトラスソード、火薬の詰まった小さな筒に、飲みかけのラム酒。海賊たちから鹵獲した“戦利品”である。
 木箱の中身を一瞥したラダが、これ見よがしに肩を竦めた。
「ガラクタばかりだ。売っても大した金にならない」
 海賊たちは口を噤んだまま、じぃとラダを睨みつけている。
 海賊と言えば、海に屯う無法者の代名詞。女1人に凄まれた程度で口を噤むほどに、大人しい性質ではないはずだ。
 それなのに、彼らは何の言葉を発しようともしない。
 それどころか、海賊たちの中には明らかに怯えたような様子を見せている者もいた。
「聞いたことは無いか? “時は金なり”という言葉を。見ての通り、私は商人を生業としていてな。商人である以上、金は嫌いじゃないし、金になることも嫌いじゃない」
 そう言ってラダは、肩から担いだライフルを手に取ると、遊ぶようにくるくるとそれを手の平の中で回転させた。
 まるで、銃把が手の平に吸い付いているかのようだ。
 その仕草から、ラダがどれほどライフルの扱いに慣れているかが分かるだろう。
「特に“商会”の仕事中はな。私が判断を誤れば、商会に与する部下たちや、“ポールスター”の住人たちの生活が傾く」
「……“ポールスター”!? てめぇ……アイトワラス商会のラダ・ジグリか!」
 海賊の1人が、驚いたように目を見開いた。
 豊穣にほど近い海域だと言うのに、男はラダのことを知っていたらしい。アイトワラス商会の名も少しは売れて来たのだろうか、とラダは思わず口元に僅かな笑みを浮かべた。
「名刺を渡す手間が省けたようで何よりだ。それで、話しを元に戻すが……お前たち、商人の“時間”を奪った対価に何を支払う? このガラクタでは、到底払いが足りないが」
 ピタリ、とライフルの回転が止まる。
 ラダの指が、トリガーに掛かっていることに気付いた海賊たちが、逃げるように身を捩った。
「っ……ラサの商人が、何だってこんな場所にいる! この船だって、乗ってんのはチンピラみてぇな女2人だけじゃねぇかよ!」
 海賊の中にも、胆の据わった者がいる。
 吠えたのは、目に傷のある禿頭の男だ。
「積荷は何だ!? 商会長様が直々に運ばなけりゃならねぇほどの高級品かよ!?」
 虚勢だろうが“勢い”には変わりない。
 唾を散らして怒鳴る男に視線を向けて、しかし、ラダは少し気まずそうに唇を噛んだ。
「あぁ、うん……まぁ」
「あぁ……?」
 急にしおらしくなったラダを見て、海賊たちは呆気に取られる。
「事情があるんだ。事情がな……少々、書類仕事が続いてな、うん」
 はぁ、と肩を落としたラダは遥か遠いラサの方角へ目を向けた。
 あぁ、きっと今頃は副商会長などが怒り狂っているだろう。
 後々のことを思えば、どうにも気分が優れない。
 
 書類仕事ばかりが長く続いたのだ。
 混沌世界に平和が訪れて以降、荒事に出かける回数もすっかり減ってしまった。もちろん、比較的平和になった世の中で、商人らしい毎日を送ることに不満は無いのだ。
 だが、ふとした瞬間に思い出す。
 あの慌ただしくも、危険で、そして浪漫に溢れた冒険の日々を。
「と、そのような経緯で海に出たわけだが」
 書類仕事を投げ出して来たのが良くなかった。
 ラダだって、それは自覚しているのだ。
「帰りに大物でも狩って金を稼げば、文句は言われないと思うのだが……いかんせん、急な航海だったので人手が足りない」
 海賊たちの顔を見回し、ラダは少し考える。
 それから、彼女は“名案を思い付いた”と言った様子で、わざとらしく手を叩いた。
「そうだ。お前たち、このまま牢獄行きというのも嫌だろう? 少しの間、私にやとわれるつもりは無いか?」


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