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Hello,world
登場人物一覧
いつも『ばいばい』は言わなかった。
さよならを告げた途端、わたしの『最期』が確定する気がしていた。
わたしたちパラディーゾの命は本当に儚くて、今消えるのか明日消えるのかもわからなかった。だってわたしたちは『大きな存在のただの駒』で、デバックされれば消えるバグで、あの一時イレギュラーズたちから勝利を勝ち取るためだけの存在。だからわたしは一年保てばいいくらいかなって思っていた。わたしたちの命が短いことはイレギュラーズたちだって知っていることだったから、短い間、皆はあたしと遊んでくれた。
――アッシ、最後まで頑張って生きるッス。
エイラとそう約束したから、最後まで楽しいことを探して頑張って生きたよ。
悪として作られたこの身では世界を好きになれる日よりも先に終わりの方がきっと先にくるって思っていたけれど、わたし、世界が好きになったよ。皆のおかげ。たくさんの気持ちをわけてくれてありがとう。
身体がデータとなって崩れて消えていく瞬間。ひとりで空を仰ぎながら、そう思った。
皆とたくさん楽しいことを探したから、皆にたくさん楽しいことを教えてもらったから、わたしは階位の低いパラディーゾの中ではきっと一番長くデータがもった。幸いなことだ。嬉しいことだ。ああでも、楽しすぎたせいからかな。わたしには『惜しむ気持ち』が生まれてしまった。
最後にあなたに逢いたかったよ、エイラ。わたしの『お姉ちゃん』。
――今すぐ会いに来て、抱きしめて。
なんて。皆はきっとどこかで世界を守る戦いをしているだろうから、あたしは最後の我儘は言えなかった。
データが解けて0と1になっていく。
でも大丈夫。わたしのメモリには楽しい記憶がいっぱい。
ただのバグデータの身には余るほどの幸せをもらった。
だから、わたしは最後に願ってしまったんだ。
――消えたく、ないッス。
――アッシ、もっと生きていたい。生きていたかったよ。
けれど
そうしてわたし――『イヅナ』の意識は消えた。
――こころドライブ 再起動!
暗闇に満ちた世界に、チカッと何かが一瞬光った。
わたしの意識はあれからどれくらいの間経過したのかもわからない。
データの欠片も欠片。そんなわたしに『声』が聞こえた気がしたんだ。
――……しき、覚醒しました!
ふわり、と温かさを感じた。
意識が浮上していく。
遠くで何か……声? が聞こえる。
――数値、安定。目覚めます!
ぼんやりとした光が見えた。
不思議に思っていたらそれは知らない天井で、更に不思議に思った。
知らない人たちが何人もわたしを覗き込んで声をかけていた。話すのも動くのも暫くかかったけれど、彼ら――練達の学者さんたちはゆっくりで良いと言ってくれた。
動けるようになったわたしは、胸に振れた。そこには硬質な存在があった。『コア』というものなのだと学者さんたちが言っていた。学者さんたちは色々なことを教えてくれた。ROOのマザー端末からサルベージされたデータの欠片たちから、わたしは『秘宝種』というものになったのだって。見た目が違うけど、エイラは解ってくれるかな?
バグの無い綺麗なデータとするのは簡単なことではなくて、幾つもの偶然と願いと想いが重なった、奇跡に近かった。――けど、わたしはずっとお寝坊さんで。学者さんたちは心配していたけれど諦めずに今日まで見守ってくれていた。
本当は『中の人の情報開示』と言うものはいけないらしいのだけれど、わたしは学者さんたちへ調べてもらった。
「……エイラが……死?」
でもあなたはもう、この世界のどこにもいなくなっていた。
信じられなかった。どうしてって思った。わたしの――アッシの大切な人は皆――。
この新しい身体で初めて零す涙が、睡恋花に似たコアを濡らした。
けれども、わたしは前を向けた。
あなたと過ごした時間は、わたしの中に残っている。
あなたの足跡を辿ろうと思った。色んな人たちから話を聞いて、あなたがこの世界で何を成したのか、どう存在したのかを知るために旅へ出た。
エイラ――本当はフリークライって言うんだね。いい名前。
大切にしていたものは何? いつもどう過ごしていたの?
あなたのこと、わたしはもっともっと知りたかったよ。
勝手に知ってしまってごめんね。でも知りたかったの、許してね。
エイラは――フリックは心を燃やし、命のままに駆け、明日を守ったんだってね。すごいよ。
わたしはあなたの守った世界を見て回った。そうして――
「――見つけた!」
わたしがあなたの想いを引き継ぐからね、エイラ。
見ていて! わたし、あなたが守った世界で生きていくから!
「こんにちは、鳥さん! お花さん! 今日からアッシが、ここの墓守ッスよ!」