PandoraPartyProject

SS詳細

記録に引かれる後髪/Redial story

登場人物一覧

佐藤 美咲(p3p009818)
罪の形を手に入れた
夢野 幸潮(p3p010573)
敗れた幻想の担い手
結樹 ねいな(p3p011471)
特異運命座標

・整理、しよう。
 騎兵隊。我が属した紫苑の君率いる英雄らの集い。全員生存の掟を掲げ、幾多もの戦場を駆けた大戦力。混沌に於ける物語の臨終の折も、我らは乾坤一擲の決戦の為『影の領域』へと身を投じた────

 ────ああ。戦術的勝利はしたとも。流石は特異運命座標イレギュラーと称されるだけはある。無事『終焉』より逃れられた、最早愛しささえ覚えるこの混沌は、救われたのだから────

 ────が、我らは戦略的敗北を喫した。
「『"後"の事は気にするな』……ハッ、ハハハッ、ハハハ……」
 ああ。そうだ。そうだとも。我が『描写編纂』は多少の不都合は"なかった事"と貶める。そう技能の描写フレーバーをすり替えた。けれど。けれども。"多少"でない、"致命"の退場ロストは、"運命力パンドラ"の枯渇ロストは、この筆に依ても覆せない確定描写うんめい。如何なる手を以てしても、去ってしまった英雄と勝利を祝う事はできないのだ。
「……嘘だ。嘘に決まっているだろう。死地へ征く汝らを奮い立たせるための方便を、真にするなど 本当に、本当に……」
 我は悪魔だ。『悪魔』を存在定義と僭称する意思生命体メタキャラだ。故に第四の壁を越し見て話す我は、度々敗れた幻想なかったときを記憶と思い込んでしまうこともある。今回も、そうだ。
「……何を、思えばいい?」
 ストン、と。抜け落ちていることに気づいた。共に戦ったはずの英雄らとの会話を、掛け合いを、思い出を、何一つこの身体キャラシは覚えていなかったのだ。残していなかったのだ。
「アハッ、ハハハハッ、アッハハハハッ」
 ふざけている。元よりヒトデナシだとは自負していたがここまでとは。決戦の敵の名称と姿、能力どころか共に死地へと向かった筈の仲間の顔と名前すら曖昧。本当の我は騎兵隊の一員ではなかったとした方がよっぽどマシだ。ならば知らないことに相応の理由がつけられるのに。
「ハハ、ッハハ……ッ────」
 我が愛を記し語った正史リプレイをなかった事としたくないという悪なる想いがそれを拒絶する。結局我はどこまで行こうと神以上人未満。物語セカイに巣食う癌だ、だから……
「いるんだろう、なぁ。出てきてくれよ……」
 願わくば、死した彼らとの邂逅を もう一度……。

「アタシに気づいていたのかい?流石は大戦おおいくさを終えた詩人サマだねぇ。隙だらけに見えて案外戦い慣れしてるんだ」

「…………は?」


・種火は燻り火事となる
 硝煙が香る見た目の女だ。初見でそう思った。黒い髪は膝下まで伸びているが身の丈は普段の我よりも大きく、顔には大きな火傷跡。眼帯の下はきっと見えていないのだろう。しかも背には実用的・・・な改造を施された自動小銃があり、服の損傷も含めてまるで彼女だけ戦地に居 居続けているかのような錯覚を受ける。
「──ビールだ」
 ジョッキに並々注いだソレをカウンターへ。事情は後にして客らしい彼女へとウェルカムドリンクをプレゼント。もちろん我はワインのままである。
「ハンッ、カフェだって聞いたのにココは酒も出るんだねぇ」
「汝には静寂よりも酩酊の方が似合いそうだと感じたのでな。ええと……」
 詳細キャラシを読もうとしたところで制止がかかる。
「まだ名乗ってなかったからねぇ、言わせてくれよ。アタシの名は結城ねいな・・・。戦いしかできない戦争屋さ。アンタは?」
「結樹……?」
 その苗字には聞き覚えがある。たった今、居てくれよと願ったうちの一人の名だ。さて、ニィと笑う彼女の顔は、彼女に似ているだろうか。その記憶も我にはない。話していたかさえ定かではないのに、分かるべくもなかった……っと、考えすぎた。
「我は意思生命体が一つ、『夢野幸潮』。此処こんとんでの役割ロール衛生兵ヒーラーを請け負っているが、本職はコレだな」
 本体たる"万年筆"をくるりと回しこちらも名乗る。
「人間じゃあないのかい」
「まぁ、な。ヒトガタであると執っている事が多いが、本質は別だ」
「ふぅん。ま、幸潮でいいな」
 ねいなはジョッキを呷り喉を鳴らす。こちらもワインを口に含み香りを変え、彼女へシリアスに問う。
「聞きたい事があるんだ」
「酒代分は答えてやるよ」
 声はぶっきらぼうに返ってきた。しかし毎日積み上がるこの想いをぶつけられる相手は、お前しかない。
「結城ねいな。汝に、姉妹はいるか?」
「たしか姉が居たが、名前は覚えてないねえ」
「"誓"だ」
「……ん」
 何か記憶に掠ったか、考える素振りをするねいなの情報キャラシを第四の壁越しに見て──息を呑んだ。
「いや、記憶にな──っオイ!?」
「はは、っ ははははっ……あははははっ……!いや合っている!合っていた!汝は美咲アイツ血縁いもうとだ!」
 ねいなを抱きしめる。次は離したくないとこの腕の中に収める。カウンターなどすり抜ければ問題はない。悪いが八つ当たりになってくれ。
「泣くな!涙は停滞の元だ!」
「知っている!」
 力強く引き剥がそうとするねいな。だが、離さない。
「だが"この我"の物語は終わったんだ!あとは帳を閉じるのみ!もう何も変えられない、変わらないんだ!」
「目を覚ませ幸潮!」
 頬を叩かれる。必殺の意思はなく、されど……ある種の愛を感じる一発。
「アタシはじゃねぇ、だが逝ったのがアタシならこう思うさ、『先に進め』ってねぇ!」
「……ねいな……」
 胸倉を掴まれ押し倒される。見下げられるのはいつぶりか。闘志の宿ったいい瞳をしている。
「幸潮は意思・・生命体で物書きなんだろう?なら覚悟・・を決めて筆を執れ!血の滲む努力と命を賭けた覚悟でしか世界は変えられない!」
「だから、終わって」
 対して、ソレに映る我は……なんと、情けない顔をしているのか。
「終わらせるな!戦いは終わらない!生きている限り永遠に!」
「──」
「アンタは"変えたい"んだろう!?心に火をつけろ!火種ならいくらでもアタシが与えてやる!それでも進めないってんなら、背中を撃ってでも!」
「そう、かい」
 向けられた銃口に微笑みを返し、掴んで眉間へ。
「なら今頼む」
「ああ!」
 迷う事なく放たれた弾丸は仮想身体をブチ抜き床を穿ち、我を停滞過去に留める錠前思考さえも破壊して。ポリゴンが周囲に散乱し──消えるまで、暫くの静寂を過ごした。
「あぁ……目が覚めた」
「血は流れねえのか」
「生憎このガワは紛いでね。人間じゃない、って言っただろ?」
「そうだったねぇ、立てるかい?」
 伸ばされた手を掴み、立つ。造りは変えていないのに身体が軽く感じる。今なら……駆けていけそうだ。
「ありがとな。次の来店時には もっと美味い酒とつまみを用意しておく」
「必要ねぇ、アンタの戦いが聞ければ満足さ」
「……ハハッ、了解。長い長い、我らの戦いの物語を話してやるよ」
 こうして今日のルースト・ラグナロクは早めに閉店。ねいなは次の戦場へ、我は…………行くべき場所・・・・・・へと、向かう事にしたのだった。
 

おまけSS『運命の悪戯/A whisper』

「そういやぁ、なんでここに来たんだ?」
扉の鍵をしめつつねいなに問う。普通こんな店に誰も来ないだろ、って思うのだが。
「確か……黒髪の女に『ルースト・ラグナロクってカフェに最終決戦を駆けた詩人が居るッスよ』って言われてな」
「…………そっか」
お前の言う通りだよ。
「あん?」
「何でもない。またな」


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