PandoraPartyProject

SS詳細

君と迎える灰色の冠にお礼を

登場人物一覧

フラヴィア・ペレグリーノ(p3n000318)
夜闇の聖騎士
セシル・アーネット(p3p010940)
雪花の星剣

 ――貴方に幸福を。灰色の王冠(グラオ・クローネ)を。
 深緑に古くから伝わるお伽噺に基づいて大切な人に感謝を伝える日。それから一月ほどの月日が流れている。
 終焉の気配がちらつけども、多くの人にとっては春先の気配が近づく変化のひと時であることは変わらない。
 肌寒さは残るものの、陽射しは優しく、空気は澄んでいた。
 もこもことした手袋とマフラー、彼女からのプレゼントでもあるそれを身に着けたセシルは、小さな手提げ袋を持って聖都フォン・ルーベングを歩いていた。
 辿り着いた先、厳かな空気を感じさせる邸宅はアーネット家からもほど近い貴族の邸宅が並ぶ一角。
 門番の人に挨拶をしてから中に入れば、そのまま正面玄関にまで通された。
 姿を見せた使用人に案内されるまま、セシルが通されたのは応接室のような場所だった。
 そこで暫く待っていると、また使用人が扉を開いてセシルを呼んだ。
 辿り着いた部屋でノックをすれば、向こうから大好きなあの子の声がした。
 艶やかな黒髪を垂らした少女は部屋の中を見てきょろきょろと周囲を見渡し、ぱぁと表情を華やいだ。
「おはよう、セシル君」
 そのまま柔らかく微笑んだフラヴィアは、セシルを手招きする。
 使用人はぺこりとこちらに頭を下げて扉を閉めて行った。
 艶やかな髪の毛は瑞々しさを保ち、顔にはほんのりとお化粧もしているらしい。
「おはよう、フラヴィアちゃん」
 柔らかに微笑む少女へとこちらもはにかんで応じれば、案内されるままに部屋の中のソファへとフラヴィアが腰を掛ける。
「はい、ここどうぞ」
 クッションを敷いて、隣をぽふぽふと叩きながら、フラヴィアが微笑む。
「ありがとう……失礼します」
「ふふ、来てくれてありがとう……でいいのかな?
「ううん、前はフラヴィアちゃんが僕の家に来てくれたから」
 こてりと首を傾げれば、香水が少しだけ香る。おめかしの1つだろうか。
「……それは?」
 持ってきた物に気付いたのか、フラヴィアが不思議そうにセシルの持つ袋に視線を送る。
「これはフラヴィアちゃんへのプレゼントだよ」
 セシルはかさりと音を立てたそれをそっと握って、フラヴィアへと手渡した。
「わぁ! ありがとう! でも、なんのプレゼントだろ? 誕生日……じゃないよね?」
「グラオ・クローネのお返しだよ」
「グラオ・クローネの……? ありがとう! 開けてもいいかな?」
 不思議そうに首を傾げた目を輝かせてこてりと首を傾げる。
「うん、いいよ!」
 勢い良く頷いてから、少しだけドキリと胸が高鳴った。
「えぇっと……お菓子と、それから……メッセージカード?」
「ガトーショコラ、すごく美味しそうだったんだ」
「ガトーショコラ! ふふ、ありがとう! カードも読んでいい?」
「うん、いいよ……ちょっと恥ずかしいけど」
 こくりと頷きながら、セシルは思わずマフラーを巻きなおす。
 少しだけ顔が熱くなる中で、フラヴィアが折りたたまれたメッセージカード読み始める。

 ――フラヴィアちゃんへ。
 グラオ・クローネのプレゼントありがとう。
 練達の再現性東京ってところだとグラオ・クローネのお返しを送る風習があるんだって。
 だから、今日はフラヴィアちゃんにあの日のプレゼントのお返しがしたくてこれを贈ります。
 中身はガトーショコラだよ。すごく美味しそうだったんだ。
 フラヴィアちゃんとこれからも一緒に過ごしたい、君を守る、その気持ちはずっと変わらないから。
 明日も、明後日も、これから先もずっと一緒に居れたら嬉しいな。

 目の前で読まれると少しだけ気恥ずかしいメッセージは、けれど何の疑いようもなくセシルの本音だった。

「……セシル君!」
 最後まで読み終えたフラヴィアが、声をかけてくる。
 少しだけ照れた様にはにかむ笑顔が可愛かった。
「お外にいこう? 私もセシル君にお返しをあげたいな!」
 華やぐ笑顔で、フラヴィアが手を取って立ち上がる。
「――う、うん!」
 引かれる手に合わせてセシルは立ち上がった。


 2人はペレグリーノ邸を出て町へと繰り出していた。
 石畳を踏みしめて進む白亜の町はまだ肌寒さも残っているはずなのに不思議と寒くは感じなかった。
 繋いだ手から優しい温もりが伝わってくる気がした。
「うーん……やっぱり紅茶が良いのかなぁ……」
 首を傾げながら呟くフラヴィアの表情が少しだけ悩まし気に変わっている。
「紅茶を買いに来たの?」
「うん! だって、ガトーショコラなんだよね? それなら紅茶が良いのかなぁって」
 そう言って首を傾げるフラヴィアに、セシルはきょとんとしてしまう。
「……ガトーショコラって僕があげたガトーショコラ?」
「うん、そうだよ?」
 思わず問いかければ、今度はフラヴィアの方がきょとんとした瞳でこちらを向いてくる。
「だって、セシル君がプレゼントしてくれたガトーショコラだよ?
 なら、私がプレゼントする飲み物でお茶会をしたら2人で楽しめるよね?」
「――う、うん」
 まるで当然とばかりに首を傾げる少女に、セシルはどきりと胸を高鳴らせた。
「ふふ、変なの」
 小さく笑ったフラヴィアはそう言って紅茶のショップへ向けて歩き出す。
「無難なのはやっぱり紅茶だと思うよ」
「そうだよね……コーヒーとか緑茶?も合うんだって。セシル君はコーヒー飲める? 私はまだ飲めなくて……」
 首を傾げる少女はそう言いながら少しだけ恥ずかしそうに微笑む。
「僕も、お砂糖かミルクがないと無理かも」
「ふふ、同じだね!」
 楽しそうに、少しだけ嬉しそうに笑ったフラヴィアに手を引かれながら、セシルも歩みを進めていく。


 買い物を終えた2人はペレグリーノ邸へと戻ってきていた。
 フラヴィアの部屋に戻って、ふとセシルは気づいたことがある。
(……でも、よく考えたら紅茶ならここにありそうだよね)
 ペレグリーノ家だって立派な貴族だ。紅茶の一つや二つ、それも定番の茶葉ぐらいはありそうなものだ。
「――だって、おうちにあるのより、セシル君と選んだお茶で飲みたいから」
 自然と聞いてみれば、へにゃりとした笑顔で照れ臭そうにフラヴィアが笑った。
「それに、家にあるのを淹れてもらうのを待つよりも、お外でお買い物して買ってきた物を淹れてもらうほうが長い時間一緒に居れるでしょ?」
「フラヴィアちゃん……うん、そうだね」
 驚いたままに、セシルが頷けば、フラヴィアは柔らかく笑うのだ。
「また来年もこうして一緒にいようね? 約束だよ」
「うん、約束」
 笑顔で応じてから、2人はお茶会を楽しんだ。


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