PandoraPartyProject

SS詳細

それは愛しく、あたたかな、キミの音色

登場人物一覧

イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

 春めく息吹が長くなった寒気を一掃する。
 風が……匂いを連れて、心安らぐ音を奏でる。
 時計の針は、昼をやっと過ぎた頃。幸福。
 いつもと変わらない、暖かな日常を指で弾く。

■(ああ、楽しいな)
 俺のここ最近のルーティンワークは、何となく誰にも話していない。
 自慢げに話せる話題でもないし、人様にお喋りをするつもりはない。
 話をすることで自らの優越は感じても、音色はすぐに色褪せていく。
 俺にとっての音楽は騎士で云う、剣の練習や武者修行の様なもので。

 誇らしげに語るよりも、ただ黙々と行っているのが、俺の性に合う。
 
 麗らかな朝。パチリと目が覚める。今日も寝ざめは良くて清々しい。
 部屋の中の空気はまだ寒く。室内は乾いた空気でシンと静まり返る。
 ベッドから立ち上がり、カラカラになった喉を潤すために水を飲む。
 このペットボトルという異世界の入れ物は、気軽に水が飲めて良い。

(うーん、さあて行きますか)

 パジャマを脱いで、服を着替える。運動をする為のジャージを着る。
 数歩歩き、窓に近づく。部屋の窓にかかるカーテンをさっと開ける。
 外の風景はまだ薄暗く、ゆっくりと少しづつ太陽が昇って来ている。
 空が濃い青色に染まる。このブルーアワーを眺め俺の一日が始まる。

■(さぁ、まずは準備運動からだな)
 軽く体を慣らしたら、つま先立ちで部屋から邸宅の外に歩いていく。
 体を動かすと無心になれるし頭がスッキリする。単に気持ちがいい。
 腕立て50回、腹筋100回、スクワット200回を3セット行い。
 足元の履物をスニーカーに履き替えたら館の周りを走って3周する。

(ふぅ、さて今日はこれ位だな)

 いつものメニューをこなし、少しばかり汗をかいたので邸宅に戻る。
 玄関に辿り着き、履いていた靴をスニーカーから上履きに履き直す。
 一度、自室へ戻り、着替えの服を用意して、ペッボトルを手に取る。
 バスルームへ着いたら、抱えていた着替えを脇に置いて洗面を行う。

 まずはペットボトルの水を口に含み、ガラガラとうがいを2回する。

 それから手を洗い、病除けをすると服を脱ぎ、バスルームへ向かう。
 運動で火照った体の汚れと、流れる汗とをシャワーで軽く洗い流し。
 ゆっくりとバスタブに体を浸からせ……ふぅ……。気持ちがいいな。
 朝の練習をする為、音楽の活動の為とは云え、この瞬間は心地よい。

(はぁ……)

 それにしても気持ちがいい。やっぱり湯に浸かるのはいいものだな。
 人間の体というものは、緊張を解し、リラックスすると頭が冴える。
 さて、今日はどうしたものか……。暖かい湯に漬かりながら考える。
 ピアノの指を錆びつかせない様に、ピアノから練習するかと考えて。

■ 朝の食事は練習後に取るとして今日も指ならしからだ。 
 1日練習をサボれば、取り戻すのに3日かかり。
 2日練習を休めば、取り戻すのに1週間かかり。
 3日練習を欠かすと指は錆びついて訛っていく。

 何処の国だったか、覚えていないが『異世界のことわざ』の謂れで。

 『ローマの道は一日にして成らず』と在る様に、練習は忘れず行う。

 しばらく湯に浸かりながらその後の予定を思案しつつ入浴を楽しむ。

■(そろそろ上がるか)
 湯から上がりバスルームを出て脱衣所に向かい。体をタオルで拭う。
 頭をわしわしとタオルで髪を拭く。少しのぼせたのかぼんやりする。
 用意していた着替え-ローブ-を羽織って邸内のスタジオに向かう。
 歩きながら持っていたペットボトルの蓋を開けて水を口に含み飲む。

 ゴクリゴクリと風呂上りに火照った体に充分な水分を補給していく。

 邸宅用スタジオは、ローレット広しといえどもこの邸宅位なものだ。 
 大きな音を漏らさない為の防音が、これほどの設備で施されている。
 とある国に発生した「音を吸収する魔物」の毛皮を加工した吸音材。
 諜報活動に用いられ「音を遮る魔術陣形」の技術を応用した遮音壁。
 
 それもこれも、邸内や邸宅の外側の近隣に、ご迷惑をかけない為だ。

 スタジオの中には、打楽器を中心とした様々な国々の民族の楽器と。 
 体は疲れ果て、自分の私室に戻るのも億劫な時の為にベッドがある。 
 俺が得意とする楽器は、主に叩いている特に体力を消耗する打楽器。
 主に好んでいるのは、ロックンロールで激しく奏でられるドラムだ。

(ドラムは良い。無心になれるし、心が高ぶ心が躍る)

 他のスタジオでは、余り見ない光景だと俺でもそうは思うけれども。
 時が経つのも忘れ、無心でドラムや、鼓にティンパニなどを叩くと。
 練習で疲れ果てて、眠くなったすぐ休める用にベッドが置いてある。
 他にもまだまだこのスタジオには様々な国々の打楽器が集めてある。

(思えば色んな国や場所に旅したものだ)

 練達の都市にある、ミュージックスタジオにあったエレキマラカス。
 豊穣の村で、村の特産品として代々職人が作り続けていた小鼓大鼓。
 深緑の森の奥に住まう、ファルカウの加護を受けた民草のバウロン。
 鉄帝のライブハウスで長く使われてきた、味のあるHR/HMドラム。

 それ以外にも鍵盤、弦、金管、木管、多種多様な民族の楽器があり。

 ギター、ベース、ファゴット、バイオリン、シタール、バンジョー。
 マンドリン、ティン・ホイッスル、カンテラ、カーヌーン、ウード。
 ダルブッカ、ケメンチェ、三味線、琴、笙、和太鼓、篳篥、神楽笛。
 たくさんの楽器に囲まれていると、眺めているだけでも楽しくなる。

■(さぁ、軽く指鳴らしに練習曲でも引くか)
 スタジオにあるピアノに近づいて、ピアノの椅子を浅く引いて座る。
 ピアノの椅子に深く座ってしまうと、上手く弾けない気がしている。
 ♬~♪ ♪ ♪ ♪ ~♬~♬~♪ ♪ ~♬~♪ ♪ ~♪ ♪ ~♬~ ♪ ♪
 ♬~♪ ♪ ~♪ ♪ ~♬~ ♪ ♪ ~♬~♬~♪ ♪ ~♬~♪ ♪ ♪ ♪
 ♬~♬~♪ ♪ ~♬~♪ ♪ ~♪ ♪ ~♬~ピアノの練習をする。

 ピアノを弾くのは楽しい。ついつい時を忘れてしまうのが欠点だな。
 まずは肩慣らしに教則本に載っている練習曲を気が向くままに弾く。
 ♬~♪ ♪ ♪ ♪ ~♬~♬~♪ ♪ ~♬~♪ ♪ ~♪ ♪ ~♬~ ♪ ♪
 ♬~♪ ♪ ~♪ ♪ ~♬~ ♪ ♪ ~♬~♬~♪ ♪ ~♬~♪ ♪ ♪ ♪
 ♬~♬~♪ ♪ ~♬~♪ ♪ ~♪ ♪ ~♬~ああ、楽しい、良いな。楽しい。

 楽器は良いな。楽器で遊んでいる時間は無心になれる。♬~♪ ♪
 低音のピアノを鍵盤で弾けば暗い音色の感触を確かめ。♬~♪ ♪
 舞い踊るように鍵盤を弾けば高鳴る胸の鼓動を響かせ。♬~♬~
 ゆらりと三連で鍵盤に弾けば月の女神の魅惑を香しく。♬~♪ ♪
 心のままに指で鍵盤を弾けば表情をくるりと変えリズムを揺さぶる。

(……)

 ピアノは世界唯一の楽器だと云われているが、本当にそうだと思う。
 ピアノさえあれば、ありとあらゆる世界の音楽を再現。奏でられる。
 二本の腕で激しく。静かに。揺らめき。鼓動に合わせて指を操って。
 時には友と。二人一台で椅子を並べ、競い合う様に四本の腕で奏で。

 楽しい。楽しい。楽しい。楽しい。楽しい。ああ、素晴らしき音色。
 
 俺は打楽器専門、みたいなトコ? があるのだと自ら思って、いる。
 けれどピアノも、打楽器とは切っては切れない似た性質があるのだ。
 特にドラムを叩く時は、椅子に座ってドラムと向かい合い二足ニ腕。
 四つの動作を別々に同時にこなして、スネアやキックや金物を叩く。

 別々に同じ動作を行うという点において、ピアノは打楽器でもある。
 緩やかに『ピアノを弾く』楽曲で求められる指の演奏表現もあれば。
 荒々しく『ピアノを叩く』楽曲で挑んでくる指の演奏表現もあるし。
 繊細から激しくなったり。緩やかに徐々に忙しくなってくる演奏も。

 ドラムやその他の打楽器を叩いている時の興奮を、ピアノで覚える。
 
 あとは、そうだなぁ……。ドラムとピアノの演奏の共通な練習法で。
 左手で四拍子、四角形を描きながら。右手で三角形、三拍子を描く。
 最初は両方の腕と指で四角形や三角形を描いてしまったりしていた。
 異なる動きを、両方の腕と指を使い、同時に動かす練習も行ってる。

■(さて、指も大分ほぐれて来たし、アレを少し進めるか)
 朝早く起きて、独りでピアノの練習に取り組んでいるのは訳がある。
 最近会っていない友の事を想う俺の心を、曲に書き記し、残す為だ。

 友とは、志を同じくし、共に音楽の道を選び、時には競い合った仲。
 少しばかり……手の届かない遠い存在になって……会うのも難しい。
 けれど、いつかまた。昔のように互いに共演を果たす事が出来たら。
 そう思って……まずは何をするのも、成すのも……体力作りからと。

 誰にも言わず、隠すわけでもなく、一人で黙々と鍛錬を積み続けた。
 
 浅はかな考えかもしれない。けれど、どうしても曲を作りたかった。
 作った曲を友にピアノで演奏して貰い、俺がドラムでビートを刻む。
 あの楽しかった時を、音色を、あの鼓動の高鳴りを共有する喜びを。
 友と同じ空気を感じていたい。叶わぬ願いかもしれない……けれど。

 どうしても彼女に一目会いたかった。素直じゃない……俺の本心だ。

 この曲が完成するのは何時になるか。それは俺にも神にも解らない。
 完成したとして。友に会えるかどうかなんて夢は、果てしない望み。
 僅かなほどの可能性にかけているかもしれない。計り知れない高み。
 ♬~♪ ♪ ~♪ ♪ ~♬~ ♪ ♪ ~♬~♬~♪ ♪ ~♬~♪ ♪ ♪ ♪

 ♬~♬~♪ ♪ ~♬~♪ ♪ ~♪ ♪ ~♬~ ♪ ♪ ~後悔なんてない。 
 特に果たすべき約束や、変化という音は色になくても。キミの音色。 
 今、俺の心に残されている。この想いを形にする。キミのいない夢。

 奏。

 
 
 
 

 

おまけSS『奏でる音色』

キミの奏音色 BPM88
作:イズマ・トーティス(アル†カナ)
 ♪ A♭けこの音E♭~ ♪ A♭に立ち昇Cmin~ ♪ Ddim鳴るB♭節にGminを馳せE♭
 ♪ A♭けこの胸E♭~ ♪ A♭やかな太Cmin~ ♪ キDdimはイマB♭処にいるA♭ E♭

 曲はまだ此処から―まだ完成していない―続きがある。


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