PandoraPartyProject

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échelle

登場人物一覧

カロル・ルゥーロルゥー(p3n000336)
普通の少女
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾

 お前が煮え湯を飲むならば、嘲笑ってやろう。
 お前が憎悪の針の上で踊るというならば、滑稽だと手を叩いてやろう。
 お前が全てを捨て去るというならば――友達位はなってやってもいいんだけれど。

 厭うべき存在であると認識したのは彼女が敵だったからだ。それも茄子子の目的に抵触するような、所謂、『狡い』行いばかりだったから。
 エゴイズムの塊だと非難されても構わないほどに楊枝 茄子子という娘は利己的だった。利益を追求し、尤もたるはこの国が崩壊すれば愛しい人と結ばれるだろうという何とも歪んだ乙女の回路。
 どうにも自らの在り方と良く似ている娘が居た。それも酷く悪辣な振りをして向くな少女の様に振る舞う女なのだ。
 素直な感想が嫌いだった。何処に好く要素があるのかは分からない。同族嫌悪だと言われれば「それでも構わないけれど」、敵だから嫌いだというなら「そういうことにして置こう」。ただ、自身がが目指した場所に立っていることが気に食わなかったのだ。何が元聖女だ。何が遂行者だ。何が『神託の乙女シビュラ』だ。お前はただの女の癖に――

「私は結構好きよ、おまえのそういう所」

 嫌っていたのも今や過去。彼女が遂行者でなくなった奇跡の果てに立っている。カロル・ルゥーロルゥーは茶菓子を摘まみながら、当たり前の様に言うのだ。
「ていうか、私も同じ考えよ。正直さあ、おまえといがみ合ったって人生はなんら楽しくならないわ?
 もう殺し合いをするような仲じゃなくなったんだもの。とはいえ、嫌いだって宣言していたおまえが普通に私を友人と呼ぶのは驚いたけれど」
 クッキーを囓り頬杖を付く作法もてんでなっちゃいな態度の元・遂行者に茄子子は「てか、ルルもそうだし、私もそうだって構わないじゃん」と返した。
 嫌いだった敵から、普通に友人だと言う思考変化のプロセスはほぼ存在して居ない。滅びのアークの使徒だと聞いたから敵であり、そうでなくなったならば友達だ。
 茄子子の単純すぎる思考回路をカロルは嫌いではない。「ルルは嫌いだ」とある意味自身の事を大好きとでも言っているような唇がそもそも気に入っていたのだ。
 カロル・ルゥーロルゥーという人間は聖女をベースに作り上げられただけの紛い物である。精神性も幼く、元寄りの記憶で刻みつけられていた作法などは身には付いているが当人がそうした事を理解しているかは定かではないように振る舞うのだ。
 だからこそ、友人の作り方のような人間が精神的成長を行なうと共に身に着ける行動についてはカロルもあまり身に着けてはいない。どちらかといえば好悪だけで相手を判断しており、茄子子は敵ではあったが好きな部類の存在だったのだ。
 だからこそ、茄子子がノープロセスでお前は今は味方だから好きだよ、仲間だよ、友達だよと口にすれば「そっか、そういうものか」と納得できるのだ。
「まあ、ルルと私は今友達だから安心しなよ。毒とか入ってないし突然殺したりもしない」
「これで毒入りだったらシェアキムへの反逆って事になるわよね。私、今ってシェアキムの庇護を受けてるし、まあ、その立場としても孫娘みたいなもんでしょ」
「……嫌いになりそう」
「いやね、おじいちゃんの財布を痛めつけているだけで、茄子子と仲良くしているって激烈アピールしているのよ、これでもね。
 まあ、シェアキムが私に構うのは過去の天義が行なってきた全てでしょう。私を断罪した国に対して思うところがあるだけだとも言えるわね。
 そもそも……ただの村娘を聖女だ何だって祭り上げて、そんな私がたまたま力を持っていて、そのまま群衆に超絶愛されてしまった事が運のツキだけれど」
「……最後の方さあ、ちょっと盛ったでしょ」
「盛ってないわよ」
 カロルが鼻をふふんと鳴らしてから笑えば茄子子は「自信過剰じゃない?」とカロルの唇にクッキーを押し当てるのだ。
 彼女の言う通り、彼女とシェアキムの間には何もない。寧ろ、シェアキムと呼び捨てにして親しみを持っているのはカロルにとっては『自身が知っている少年の遺志を継ぐ存在』だからなのだろう。カロルから見れば教皇猊下もただの少年の扱いなのだ。
 フェネストと呼ばれた少年をカロルはよく知っている。ロン・ロッツ・フェネスト。その人が天義の建国にも携わった。彼に全てを任せればよいと考えた結果がカロルという娘は利用価値がなくなったとフェネストの失脚を狙った者達によって嵌められる形で生涯を終えてしまうのだが――
(まあ、あの時にロンは良い奴だって再三推したんだから、私の事を信じていた奴らだってそっちに傾いたでしょう。
 だから今の天義があるって思えば、シェアキムは私に感謝するべきよね。それ程の金品が欲しいワケじゃないもの。普通の生活が出来れば良いし……)
 カロルがクッキーを頬張りながら何かしらを考えて居ることに茄子子は気付いて居た。遠い遠い昔の話でも考えて居るのだろうか。
 友人ではあるが過去には踏込まない。カロルと茄子子は不必要には相手の懐に潜り込まない距離感があった。それは、互いに敵対した際には直ぐに切り捨てられるという性格的な事もあるが、ただただ、人間性の一致でもあるのだろう。特段、相手を知らなくとも関わり合いになれるからだ。
「ま、私って凄く愛された聖女様だったのよ。だから聖女の私を褒め称えて、私こそを、って推す声もあったのよ。この国の教皇に」
「え? ルルがなったら地獄じゃん」
「は? 元々のカロルはもの凄い素晴らしい人間だったんだけど? 今の私はまあ、ちゃらんぽらんなことは否定はしないけどね」
 元々のカロル・ルゥーロルゥーは学こそ無かったが思慮深かったのだという。学がない理由は村娘だからだ。
 食い扶持を求めてどの様な仕事でも熟せと言った村の在り方ではあったが、カロルは体を動かすことを得意としたため農植物の世話などに忙しなく走り回っていたらしい。学ぶ機会は満足に与えられない傀儡として御しやすい娘。それが自分であったと語る彼女は何ら恥じることなどないとでも言った様子で胸を張った。
「まあ! 学がなくとも思慮深かったのは確かだもの。何せめちゃくちゃに愛されていた」
「ルルってホント自信過剰だよね」
「真実だし」
「まあ、いいけど。だから、シェアキムはルルの世話をしてるって言いたかったの?」
「勿論。シェアキムは私の世話をしているのはロンの時代から続く私への恩義なんじゃない?
 ……まあ、ロンが私のことを何も残していないかも知れないけれど、それでも私という存在が居たことは頌歌の冠が物語っていたし。
 そもそも、遂行者だった人間を野放しにしてたら普通に私がその辺で殺されエンドでしょ。教会が保護するのって当たり前というか」
「まあそうだね、ルルって結構悪い顔してるしね」
「可愛いだろうがよ」
 カロルが拗ねたように言えば茄子子は「あんなゲス顔してて?」と問うた。眉をくい、と吊り上げるカロルに茄子子は気にする素振りもなくティーカップに手を掛ける。
「だから、おまえは心配しなくて良いって事よ。いくら私は可愛くって、本当に最高の美少女だったとしても、シェアキムとは何もない。
 顔面の好みで言えば私はルスト様派だし、最近は顔の良い女が傍に居たりするからね、まあ、そういうわけでシェアキムはおまえにあげるわよ、安心しなさいな」
「……は?」
「あ、私の所有物って言ったんじゃないわよ。協力してあげるわよ。
 だって、私の友達である茄子子が教皇っていうか、ロンの遺志を継ぐやつと結婚しなさいよ、なんか良い感じするじゃない。結婚しなさいよ」
「いやっ、いきなり話が飛躍しすぎ――!?」
「おまえ、可愛いわよねえ」
 カロルがにんまりと笑ってから紅茶を吹き出しかけた茄子子の頬をつんと突いた。唐突に茄子子の個人的恋愛に踏込まれるなどと想像していなかったのだ。
 噎せてから深い息を履いた茄子子にカロルが「大丈夫よ、おまえって十分可愛いんだもの」と笑いかけた。
「か、可愛くってもね」
「まあ、可愛いからこそ孫のような扱いだったこともあるでしょうし、聖職者って男は皆そうなのよね。
 なんか立場もあるから恋愛なんてとか言ってくるの。意味分かんなくない? ルスト様も冠位魔種だから私のことを好きじゃ無かったと思えばそれで良いし」
「ルストは普通にルルの事はどうでも良かったんだと思うよ」
「今、すごい傷付いたからね」
「ごめん」
 姦しい女子二人はボールをぶん投げ合うような要領で会話を続けていく。リズミカルな対話を行なう二人の性格は良く似ていて、少し違うのだ。
 カロルはと言えばどちらかと言えばもの凄いポジティブな思考をしている。それでも、思考回路には一定のプロセスを伴い、そうなる過程こそを重視している節がある。
 茄子子もポジティブではあるが思考回路にプロセスはない。判断も基本は自分が第一で有り、利己的思考を重視している節がある。つまり、茄子子は過程などどうでも良くて自分にとって良いか悪いかで物事を判断できるのだ。
 だが、何方にとってもポジティブである事は都合が良い。こうして話して居る中でも相手を落ち込ませる不安もない。「すごい傷付いた」と言いながら「謝れるって天才じゃない?」などと適当な会話に繋がるのだ。
「まあ、ルスト様が私をどうでも良いとしても、どうでも良くなかったことにしておくのが乙女の思考回路なのよね」
「ルストはどうでも良いけどね」
「顔が良すぎるしね。ま、兎も角、シェアキムにとっては私ってあんまり触れたくない痣みたいなもんでしょうから。
 おまえの事を応援しているのよ。ああいう堅物男が恋愛事にうつつを抜かしている様子って見たいじゃない。聖職者が恋愛に溺れてるのを見るのは楽しみの一つだわ」
「趣味悪くない?」
「趣味悪くて良いのよ。だって、この国って清廉潔白でつまらないでしょ。だからね、おまえがあの男のところに上ってこれる程度の手助けになった気がするのよねえ。
 だって、私が遂行者で、薔薇の庭園にいたし? なんならツロの傍で動いてたのって私だし? おまえが遂行者にならなくて言いようにって便宜を図ったのも私だし?
 実質私のお陰だとおもうのよね。おまえが思いを打ち明けられたとか~、本当に~、カロル様々じゃない?」
「ルルって恩着せがましくない?」
「うれしい、ありがとうって言ってみなよ」
 イヤだなあと顔に貼り付けた茄子子にカロルはからからと笑った。二人でティータイムを楽しんで居るのも、茄子子、ルルと呼び合うのだってある意味で特別だ。
 茄子子はあまり人の名を呼び捨てにしない。それは会長と言う存在キャラクターになりきっているからだ。彼女が普段通りに呼び掛けるならばカロルくんだっただろうか。
 それでもルルと呼び捨てにして、彼女の愛称を用いている時点で気を許しているのは確かな事なのである。
「ルルって恩着せがましいよ」
「おまえって、きっと、友人が少ないから」
「少なくないが」
「私も少ないからさ」
「そうだろうね」
「ま、仲良しって事でいいじゃないの。大親友って事にして推しておくから、シェアキムに」
「そこでシェアキムをダシにつかうのって狡くない? ルルってそういう所ちょっと狡猾だよね。遂行者残ってるんじゃないの?」
「残ってるかも知れないけれど、いいじゃないの。おまえ、女は悪辣な方がモテんのよ。ホントよ」
「ええ……」
 どうかしているとでも言いたげに眉を顰めた茄子子にカロルがくすくすと楽しげに笑う。
 ただ、友人同士で面白おかしい雑談をしているだけなのだ。オフィシャルの場所でなければ、元遂行者の元聖女として振る舞う必要もない。茄子子とてイレギュラーズの一員や裏切者だった、なんてそうした事に気を遣う必要も無い。
「ま、世界がどうにかなったら遊びましょうよ。シェアキムを推せ推せしてさ」
「そうだね。まあ、それでも良いかもね」
「私は、おまえの味方だと思ってなさいよ、茄子子。ま、進んだら絶対に教えてね? ほんっと楽しみにしてるから」
「言いたくないなあ」
「言いなさいよ、私のお陰、私のお陰!」
 クッキーをかじってから「まあ、気が向いたらね」と茄子子はそう言ってから小さく笑った。
 この友人がかけた昇りづらい梯子は愛しい人の傍へと連れて行ってくれたのだろうけれど――感謝はしてやらないのだ。絶対に。


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