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虚ろな心を埋めるものはなく

登場人物一覧

ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸

 久々に幻想に戻ってきたランドウェラを待っていたのは、複数の訃報だった。

 彼が死んだ。
 彼女が死んだ。

 幻想で死んだ。
 幻想ではない場所で死んだ。

 かつてのランドウェラであったなら、其の現実をぼんやりと受け入れるばかりであったかもしれない。死は誰にも平等に訪れるもの。避ける事は出来はしないのだと、悲しむ必要をそもそも『感じていなかった』のだ。
 だが、今は違う。ランドウェラの心には変化があった。悲しむという事の、悼むという事の意味を、今のランドウェラは知っている。
 其れは嵐のようにどうしようもなく訪れて、心の中をかき乱し、かき回して――そうしてゆっくり、ゆっくりと去っていくものなのだと知っている。或いは湧いて湧いて止まらぬ泉のように溢れて来るものなのだと、知っている。
 まるで苦しみに似ていた。毒を飲んだかのような胸の痛み。苦しみ。片腕を無理矢理に動かす痛みと苦しみとはまた似て異なる、心をどうしようもなく傷付けるもの。

 ランドウェラは墓地に来ていた。
 そうして、知り合いの名前が刻まれた墓碑の前に、花を一輪一輪置いていく。何という花なのかは知らない。幻想でお気に入りの場所で咲いている花だから、ランドウェラはこの花の詳しい情報は知らないけれど、ただ、この花はとても美しいから、捧げるにはふさわしいと思った。
 彼の墓碑に花を置く。思い出がよみがえり、もうあの声は聞けないのだと胸が苦しくなる。
 彼女の墓碑に花を置く。いつかの戦いが蘇り、全てが終わった後笑っていたあの子はもういないのだと目の奥がツンとする。
 其れは『必要』だとか『理論』ではない、ただただ溢れ出るようなものだった。これが悲しみなのかと、ランドウェラは胸に手を当てる。
 もう彼と酌み交わす事はない。
 もう彼女と笑い合う事はない。
 永遠に――そう、永遠に其の機会は失われてしまった。

 全ての墓碑に花を備え終わった後、ランドウェラは墓地を出て、立ち尽くしていた。

 ――この後は、どうしたら良いんだろう。

 まるで迷子のように、ランドウェラは何処に行けばいいか判らなくなっていた。どう動けばいい? 次の目的地は? 何の為に? ……誰の為に?

「僕は、」

 きっと、友人なら言うだろう。『悲しいだろうが、いつもの生活に戻れば良い』。きっと誰もがそう言うだろう。
 だけれど、ランドウェラには其れが出来ないのだ。いつもの生活とは、何をしていたのだった? 家に戻って、其れから何をしていたのだったか? ランドウェラには思い出せない。眠って、起きて、そして何かしていたはずなのに、其れらがどうしても思い出せないのだ。

 空っぽ、だった。

 そう。ランドウェラの心には、ぽっかりと穴が開いていた。其の穴の塞ぎ方が判らないから、日常への戻り方が判らない。
 この穴を塞がない限り日常へ戻る事は叶わないのに、何をもって塞げばいいのか判らない。この穴が塞がらない限り、きっと自分は幸せというものを感じられないような気がして、ランドウェラは恐怖に似た感情を抱いた。

 こんな事なら、ずっと一人でいればよかった。

 ――とは、思えない。
 だって彼等と過ごした時間は、何物にも代えがたい大切なものだから。其のおかげで自分は、この悲しみを知る事が出来たのだから。
 でも。

「――……これから、何をすればいいんでしょうか」

 春が訪れようとしているのに、ランドウェラの言葉は木枯らしのように冷たい風にまかれて、空へと舞い上がり、散った。


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