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秋のひととき

登場人物一覧

ジュリエット・フォーサイス(p3p008823)
翠迅の守護

 垂れ込める陽光から秋の気配を感じる頃。ヘルムスデリーには実りの季節がやってくる。
 冬に向けて貯蔵しているカボチャが甘味をたくわえ、曇りの日が多くなっていた。
 ジュリエットは夫であるギルバートが村の詰め所へ出払っている間、買い物に出かけるのが日課だった。
 村の雑貨屋で見つけたバスケットを手にジュリエットは玄関のドアを開ける。
 ドアベルと共に数段の階段を降りて、数件隣の老夫婦の家を訪れた。
 コンコンとドアを叩いてしばらくするとメイド服を着たマリアンヌが姿を現す。
 ジュリエットがギルバートと結婚した際に、同じくヘルムスデリーへ移り住んでいたのだ。
 親身になってくれた老夫婦の元で、娘同然に慕われているマリアンヌは、こうしてジュリエットの買い物に付き合っている。それは老夫婦の買い物も兼ねているらしい。ジュリエットが名を変えようとも、マリアンヌの忠義に変化はないのだろう。
「お待たせしました。ジュリエット様」
「ここでは、ただのジュリエットですよ。マリアンヌ」
「いえ、私にとって姫様は、ただひとりの姫様ですから……さあ、行きましょうジュリエット様」
 マリアンヌは嬉しそうにジュリエットをエスコートする。
 ギルバートが不在である時は、自分がジュリエットを護る騎士なのだと自負しているのだろう。
 事実、彼女が居なければ召喚されたばかりのジュリエットは死んでいたかもしれない。

 マリアンヌと共にヘルムスデリーの自宅からマーケットへ向かう。
 途中の広場では子供達がホースチェスナットの実をひろい、ひもを通して遊んでいる。
 一人の子供が興味本位で実を囓り、「苦い」とぺっぺと舌を出した。
 薬局の店主であるクルーエルが買い出しに来ている所へ出くわす。何かを思い出したように近づいてきたクルーエルは「ギルバート宛」の薬草をジュリエットへ手渡した。
「貴女に渡せば確実にギルバートの手元へ行くでしょうから」
 手渡された薬草を見つめ、ジュリエットは微笑む。
 こうしてギルバートのものを自分が受け取ることは、幸せであり彼との繋がりを感じるものだ。
 薬草を大切に仕舞い込んだジュリエットはマーケットへ足を踏み入れる。
 雪に閉ざされる前のヘルムスデリーは、小さいながらも生活するには十分な品揃えのマーケットがある。
「ミルクがもうすぐ切れそうなのと、香味野菜は買うとして……他のお野菜は」
「ジュリエットさん、こっちが新鮮だよ!」
 青果店の店主が野菜をジュリエットの手に乗せる。次々と乗せられる野菜にジュリエットは嬉しそうに感謝とともに微笑んだ。
 村を護る騎士であるギルバートは村長の甥である。大戦の折には四方へ馳せたその勇姿を村人達は知っている。だから、次代のヘルムスデリーを率いるのはギルバートだと誰しもが思っていた。その妻であるジュリエットにも村人たちは優しかったのだ。物腰の柔らかなジュリエットの人柄もあるだろう。元の世界で王女であったジュリエットの立ち振る舞いは正しく『率いる者』の風格を有していた。
 ジュリエットが訪れる場所は空気が華やかに彩られ、村人達の笑顔が溢れる場所になるのだ。
「このあと、村長のところへ顔を出すかい?」
「ええ、花を貰いに行きます。何かありますか?」
「そうなんだよ。この野菜の苗を届けて欲しいんだ」
 ギルバートの存在だけではない、ジュリエット自身も村人達に好かれ頼りにされている。
 店主から苗を受け取ったジュリエットは手を振ってマーケットを後にした。

 ジュリエットは広場を北に抜けて村長の家へと歩を進る。
 途中の詰め所で、ギルバートが同僚たちと訓練をしている姿が見えた。
 此方には気付かない程、直向きに鍛錬を怠らない姿勢に愛おしさがこみ上げる。
 仕事の邪魔にならないよう、ジュリエットは足早に村長の家へと向かった。
「こんにちは。おばさま」
「いらっしゃいジュリエットさん、マリアンヌさん」
 出迎えてくれた夫人はギルバートの叔母だ。物腰が柔らかく気立ての良い夫人である。
「これ……青果店の店主さんから苗を預かって来ました」
「まあまあ! ありがとう! 助かるわぁ! ささ、お茶でもしましょう。買ったものは冷やしておくから安心してちょうだい。冒険のお話を聞かせてちょうだいな」
 ヘルムスデリーから滅多に外へ出ない彼女は、ジュリエットたちの話しを聞くのが好きだった。
「あら、ジュリエットさん義姉さんの所へ来ていたのね」
 振り向けば、調度村長の家を訪ねて来たギルバートの母パトリシアが笑顔で手を振る。
「お義母様! ごきげんよう」
「ふふ、こんなに綺麗で上品な娘が出来るなんて……嬉しいわぁ。今からお茶するんでしょう? 私もご一緒していいかしら?」
「もちろんです!」

 爽やかな秋の風が吹くヘルムスデリーで、ジュリエット達は楽しげに笑い声を上げた。
 それは、何気ない昼下がりの出来事で。此からも続く日々の一日だった。




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