PandoraPartyProject

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遠きあなたへ

登場人物一覧

珱・琉珂(p3n000246)
里長
ヴィルメイズ・サズ・ブロート(p3p010531)
指切りげんまん

 ――あなたは、だぁれ?

 琉珂はそう問い掛けようかと考えて居た。覇竜観測所での戦いでのヴィルメイズを見た時から、何時かそうしなくてはならないと認識していた。
 フリアノンの里長である琉珂にとって覇竜領域の不和というのは見逃せない事だ。しかし、それだけではない。琉珂にとってのヴィルメイズは友人だ。そんな友人の身に起こった変化は見逃せるものではなかったのだ。
 彼の母だという人はどの様な反応をするだろうか。彼の変化を知ればきっと叱ってくれるだろう。いいや、それだけではない。彼の友人達は誰もがあの変化を――彼の中に居る誰かを拒絶するはずだ。
(良く分からない。私は里長として未熟だし、あまりに情報を得ているわけじゃ無いもの。
 里長としての勉強を始め立っていっても……フリアノン以外の情報には余りにも疎いのだもの)
 目を伏せた琉珂は嘆息する。ヴィルメイズの事が気になって、覇竜観測所のティーナと一緒にケーキを食べに行く約束の『下見』を先に行なう誘いを掛けたのだ。
 ティーナには事情を話してある。彼女は「構いませんよ」と穏やかに微笑んだ。ヴィルメイズに何らかの変化があったことは覇竜観測所の所長としても良く分かったのだろう。
「ご友人の事ならば仕方ありませんね」と彼女は優しく微笑んだのだ。
 故に、琉珂はヴィルメイズと再現性東京で約束をしていた。希望ヶ浜にやってきたヴィルメイズは「里長様~~~」と楽しげに手を振っている。
「琉珂」
「おっと、琉珂様」
「それでいいわ! ヴィルメイズ。だって、ここは里じゃないもの」
 にんまりと微笑んだ琉珂にヴィルメイズは頷いた。友人だと呼ばれるならばその通りに過ごすべきだ。
 うきうきと歩き出す琉珂にヴィルメイズも同じようにスキップをして歩き出す。共に進む二人は楽しげである。何方も『何も言わない』ままで過ごしているのだ。
 ヴィルメイズも最近誰かの声が聞こえている気がするが「ん~~、幻聴ですよ~~」と誤魔化すであろうし、琉珂自身も「何か夢遊病じゃない!?」と誤魔化すだろう。
 それだけ、彼は二人にとっても理解しがたい存在だったのだ。
「ねえ、ヴィルメイズ」
「はい、どうなさいましたか?」
「私ね、アナタのことってあんまり知らないの。だから、アナタの事を教えて欲しいわ。
 例えば、アナタの生れ育ったところとか、アナタが好きなこととか、あ、アナタのお母さんはアナタのお母さんじゃないのよね? イレギュラーズのお母さん」
「はい。産みの母ではありませんよ。スポポポーンと産まれていればビックリしますよね」
「そうねえ、びっくりするわ。だって、あのヒトって、竜種の奧さんでしょう? 私、フリアノンの里長だから良く分かるの」
 フリアノンの里長だから竜種には詳しいのよ、なんて笑った彼女はまだまだ年若く少女らしい。そうした話にも頬を染めて楽しげに話すのだろう。
 微笑ましく眺めるヴィルメイズに琉珂は「でも、それ以外って何も解らないわ。だって、私は頭でっかちなの」と言った。
「と、言いますと?」
「オジサマに習ったことばかりが私の世界だった。光がきらきらしてる空とか、美しい花の事。
 里の歴史は追々学んでいけば良いって言われたのよね。あ、お店はここよ。ケーキ食べましょう」
 うきうきと指差す琉珂に従ってヴィルメイズは其の儘店舗へと入った。チーズタルトがオススメなのだと微笑んだ琉珂は「私のオススメを頼むわね」と笑う。
 琉珂の好きな者を教えてくれるらしい。ヴィルメイズは「美しい我々と、美味しい料理で最高の一場面では~?」と揶揄うように声を弾ませた。
「ええ、最高よ。でもね、私、こういうことも全く知らなかったのよ。だからね、色々と知っていかなきゃならないの」
「琉珂様はよく頑張っていらっしゃいますよ。ムンッ」
「ムンッ。うふふ、そうよ。頑張っているの。だから、頑張っているついでに聞いても良い?」
「勿論」
 ヴィルメイズはにこりと微笑んでから頷いた。まじまじと見つめ合う。じいと眺めた琉珂はヴィルメイズの顔色を伺って居る。
 彼女が何を問いたいのか、ヴィルメイズも見当が付いていた。
「アナタは、頭の中に誰がいるの?」
「誰でしょう」
「誰なのかしら。アナタの中に居て、アナタを困らせているヒトは。きっと、アナタは恐ろしい事があったら簡単に全て、手放すでしょ。
 だから、心配なの。アナタの中に居る誰かに、アナタをとられちゃうことが」
「……はい」
「私って欲張りだからオトモダチをとられるの凄い嫌いなの。だからね、だから……アナタの仲の誰かが分かったら、私に教えて」
「と、言いますと?」
「私が、頑張ってアナタを助けてあげる! 皆でね!」
 にっこりと笑った琉珂にヴィルメイズは「有り難うございます」と微笑んだ。
 予感がするのだ。遠いあの人が、そっと手を伸ばす――それが何時になるか分からないけれど、今はケーキを食べて平穏を。


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