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モノクローム

登場人物一覧

ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸

 色彩の全ては曖昧だった。真白の眸はぼんやりと焦点を合わせにくい。紅色の眸は色彩の区別を悪くする。
 故に、青年には色彩の感覚だけが全てだった。
 見えたままを口にすることはできまい。
 紫色の花を見て、青だと口にすれば不思議な顔を為れただろうか。鮮やかな緑は枯れ葉の如く霞みに見え、紅色とて枯れたように見えた。
 殆どの色彩が枯れ果てた世界のようではあったが、それでもランドウェラにとっては大した事ではなかったのが幸いだ。
 手にした金平糖の軽やかな色彩だけは世界の中に数ある色のようでもあった。小さくコロリと転がってしまうそれを掴む指先は距離感も曖昧ではあったが気にはしない。
 両の眼を合わせて見れば、ちぐはぐな距離感と色彩を何とか結びつけることが出来た。
 それは小さく、そして灰色に霞んだ色彩をしている事を知った。
 だが、常人とは見え方が違うのもまた確か。
 鮮やかな空色に、曇天の雲が流れゆくことは良く分かる。鮮やかに咲き綻んだバラは茶色に枯れて眺められたか。
 春に芽吹いた木々の茶色に見えた草木はそれ程に美しいと呼ばれる理由も分かりはしなかった。
 だが、これは緑だというのだと感覚的に掴む、色彩の違いと全て。霞んだ世界に彩りを与える事の出来る才は人々の見る世界へ変化させ、その生命を彩った。
 それは鮮やかな赤だ。
 枯れバラではない。花びら一枚一枚に血の色のように通った色彩がある。
 それは嫋やかな緑だ。
 枯れ葉ではない。この高原に溢れる緑はどれ程に美しいものであったか。
 景色全てに名を付けて大切に心に閉じ込めておくのだ。
 一粒、一粒の金平糖に軽やかな味があるように。

 ――この色は、青という。

 雨に濡れた景色の中で、紫色の花と青色の花の区別を付けるようにそう言った。

 ――この色は、紫という。

 金平糖に薄く透けた紫は世界の中では夜闇の如く美しい。
 絢爛なる世界の中を一歩ずつ確かめるように歩き行くランドウェラは傘を指した。
 雨垂のワルツを聴きながら、向かう空色を見上げる。曇天の色は翌々理解出来たけれど、その空の境目まではよく理解は出来なかった。
 ちぐはぐな視界の中で、手を伸ばせば掴めてしまいそうな天の気配に息を吐いてから、青年はもう一歩先へと踏み出した。
 ぱちゃりと跳ねた水の音。水溜まりを通り越した際に隣を通り過ぎたブラウンカラーのカエルは緑色の体で草木に紛れるように走って行ったのだろう。


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