PandoraPartyProject

SS詳細

終わりにして始まりの

登場人物一覧

零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
武器商人(p3p001107)
闇之雲
アルム・カンフローレル(p3p007874)
昴星
水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで



『水底の澱は銀の篩へ、星の囁きは崩落の天秤へ』
『其は開闢を知り深淵を観測する者』
『我が鍵を以って北辰を標と定め、伏した記録を再演せん』
『起動せよ──妙見接続能神呪ユジ ソチリシュタ ソワカ



「──はっ!?」

 いつのまにか呆然としていた零・K・メルヴィルが最初に感じ取ったのは、うららかな日差しと頬を撫でる風だった。辺りを見回すとそこは大理石の様な白い石造りの神殿らしき建物の中庭で、零は名も知らぬ鮮やかな花でできた花畑の中に立っている。

「俺は──確か、そうだ。アルムの記憶喪失をなんとかしたくて……それで……師匠に……?」
「零様! よかった、此処にいらしたのですね」
「妙見子!? ここは何処なんだ?」
「詳しいことは私もわかりません。アルム様の中に記録されている世界なのは間違いないのですが……」
「アルムの、中?」

 気が付くといつのまにか零の傍には水天宮 妙見子が立っていた。零と同じ様に周囲を見回す様子から今しがた此処に来たことが窺える。その口ぶりから「此処がどういう場所なのか?」は把握している様であったが、その詳細は零と同じくわかっていないらしい。

「はい、覚えてらっしゃいませんか? 武器商人様が、直接アルム様の深層意識へ潜って手がかりを探す様にと」
「ああ、そっか……アルムの中……つまり、アルムが今まで来たことある場所ってことなんだな?」
「そういうことになりますね。まず、ここがどんな場所か把握を──」

「……あれ? 君達、どこから入ってきたの?」

「「……っ!?」」

 不意に誰かに背後から声をかけられ、零と妙見子は身を強張らせる。この建物がどんな場所かはわからないが、下手をしたら自分達は不法侵入者である。2人は慌てて言い訳をしようと振り返った……が、声をかけた人物の姿に目を見開いた。

「……アルム!?」

 紫と金の刺繍が施された純白の衣装を着ているものの、声をかけた人物は零や妙見子がよく知るアルム・カンフローレルの容貌に間違いなかった。しかし、男から返ってきたのは戸惑いの視線である。

「えっと……
「え、人違いって……だってお前は──「あーっと申し訳ありません、他人の空似だった様です! 私達ここに迷い込んでしまって心細くて見間違いをしてしまったようで!」」

 男からの疑念の視線に動揺した零が更に口を開こうとするのを抑えたのは妙見子だった。零は何か言いたげに妙見子に顔を向けたが妙見子は零の上着の裾を引っ張って強引に耳へ口を寄せ、「ここは向こうへ話を合わせて情報収集ですよ!」と叱咤する。

!!!」

 アルムに似た男のさらに後方から更に複数の人の気配が現れた。彼らはアルムの様に横に長く伸びた耳を有していたが、白い衣服を纏ったアルム似の男とは違い深緑色の質素な衣服を纏っている。

「その者達は……?」
「神殿関係者では無さそうですが……」

 「神官兵を」という声に零と妙見子が視線を交わす。逃げるか、それともここは敢えて捕まるべきか……。ところが、そんな神官らしき人々の動きを制したのは意外な人物だった。

「あー……えっと、皆さん。落ち着いて。この人達は私のお客様です。本当は私が案内するはずだったんですけど、手違いで迷わせてしまって」
「えっ。しかし神官長様、あなたは……」
「彼らのことは私が責任持って預かりますから。ねっ?」

 ほら、皆さん戻って戻って。とアルムに似た男に促されると、神官達はしぶしぶと建物の中へと帰っていく。零と妙見子が困惑していると、男が振り返った。

「場所を変えようか。ここ、本当は神殿に勤める神官しか入っちゃいけない場所なんだ」
「……どうして、俺達を助けたんだ?」
「ええと……何だか、困ってるみたいだったから」
「私達が言うのもなんですが……泥棒かもしれないのに」
「それならそれで対応しなくちゃいけないけど、そういう風には見えなかったからさ」

 アルムに似た男は微笑む。その笑顔はやはり、アルムが微笑んだ姿とそっくりだった。

「話を聞かせてよ。、こう見えてここの神官長だからさ。何か力になれるかもしれないよ?」



「なるほど、君達の友達のことを調べに此処に来たんだね。女神様なら何か知ってるかも。僕も会いにいくところだったから、一緒に行ってみようよ」

 そう言って神官長と呼ばれた男は零と妙見子を神殿の奥へと案内してくれた。すれ違う人々は2人に訝しげな視線を向けるが神殿長に気がつくと皆恭しく頭を下げている。呼ばれている役職の通り、彼は高い地位にいるようだ。

「女神様って気軽に会えるもんなんだな……」
「あれ、2人は女神様に会ったことない? 3歳、5歳、7歳の時の謁見とか……」
「わ、私達、かなりの田舎者でして! おほほ……」
「へええ……よほど遠くから来たんだね。じゃあ友達のためとはいえ、こんな時に此処まで来るのに大変だっただろう? 今はどこの大陸も不安定だって聞くからね……」
「なるほど……神殿の方で原因ってわかっていらっしゃるのですか?」
「地震の原因? ううん、学者先生達は『遥か昔にあったらしい大地震の予兆なんじゃないか』って言ってるけど、女神様はこれに関してはっきり仰られないから何とも……」

 妙見子が情報を探る間、零は通りがかりに村殿の窓から外を確認してみた。神殿の外には素朴な煉瓦を積み上げた慎ましい……しかし、人の生活感がしっかりと感じられる街並みが広がっている。街の中心部には市場もあり、人々の活気に満ちていた。地平の先にはこの世界特有のものだろうか、黄金色の海がゆらゆらと波打っているのが見える。……これも、アルムがかつて見た光景なのだろうかと零は考えながら神官長へと質問を重ねた。

「神官長ってさ、此処に勤めて長いのか?」
「そうだよ、僕は生まれた時から此処で育ったからね。小さい頃は『神子』って呼ばれてたんだ」
「へぇー。何かかっこいい……」
「えっ、そう? かっこいい? えへへ……照れるなあ」
(……どう思います?)

 神官長の後に続く形で案内をされているのを良いことに、妙見子がこっそりと零へと耳打ちした。零はちらちらと神官長の背中を見ながら戸惑った様子で自身の見解を小声で返す。

(どう思うって……やっぱりアルムにしか見えないよ。妙見子もそう思うだろ?)
(そう、ですね。ただ『自分はアルムじゃない』と言ったことが気になります。嘘を吐いている様子はなさそうなのですが……)

「2人とも!」
「わっ!?」
「ひゃいっ!?」
「ここが女神様のおわす所だよ……って、どうしたの?」
「い、いえ! なんでも!」
「凄く広い所だな〜って話してただけで!」

 実際、そこは宮殿もかくやという天井の高さを誇っていた。3人の目の前にある扉など、ゆうに5階建てのビルくらいはあるだろう。どうやって開けるのだろうと零が考えていると扉の横に備え付けられていた装置を神官長が操作した。機械仕掛けなのか、ギ、ギギギ……と巨大な金属同士が干渉しあう鈍い音が扉の中から聞こえてきてゆっくりと目の前の大扉が開き始める。

「入って入って! 最後まで開くのを待ってると時間かかっちゃうしさ」

 神官長に急かされるまま、2人は部屋の中へと足を踏み入れる。そこは扉の大きさに違わぬ巨大な部屋で──

 刹那、

「ッッッッッッッッ!!??」

 自身の喉を裂かれる。四肢を捥がれた。臓腑を千切られ、権能を踏み躙られ、五感をバラバラにされる。それは破壊を司る妙見子が矜持を擽られ無自覚な嫉妬を覚えてしまうほど圧倒的で、徹底的な蹂躙であった。

「妙見子!?」
「妙見子さん? 大丈夫?」
「……! 生き、てる……?」

 妙見子は自身が冷たい床に膝をついて放心していることに気が付く。それが1と気がついたのは息を整えて数秒経ってからだ。

【……大変失礼しました、人違いだった様です。貴女からは破壊神の気配を強く感じたものですから】

 ──妙見子の頭の中に、甘く凛とした女性の声が響く。改めて妙見子が部屋の中を見回すと、そこは扉の大きさに違わぬ巨大な部屋で部屋の中ほどには天井から床までこれまた巨大な御簾がかけられていた。その奥にある巨大な影こそが、まさかと2人は神殿長へと顔を向ける。

「女神様。神官長、ここに罷り越しました」

 神官長が膝を折り、恭しく祈りの姿勢を取った。やはり御簾の奥の巨大な影が彼らの『女神様』で間違いないようだ。

(……これが、女神様だってのか?)
(この姿は……)

 御簾越しに浮かび上がるシルエット──明らかに神官長達とは大きさだけでなくカタチも異なるその異形に2人は息を呑む。そんな2人を余所に、神官長は嬉しそうに……親しげな雰囲気すら漂わせて女神へと話しかけた。

「女神様。私へ託宣を授けていただく前に、どうか私の新たな友人達へご神助いただけないでしょうか?」
【いいえ、神殿長。貴方への託宣が何よりも最優先です。後ろの2人もそれで問題が無い筈です。
「……そう、ですか。女神様がそう仰られるなら」

 いったい彼女は何を知っているというのか。明らかに2人の目的を見透かしている様な女神の言動に、零と妙見子は固唾を吞んで女神と神官長のやりとりを見守る。

【神官長。貴方の旅立ちのときが来ました】
「! それじゃあ……」
【はい。まもなく
「破壊、神……」

 女神の言葉に妙見子が小さく呟いた。そして、自身が殺気を向けられた理由に納得する。まさにそれは、自身の役割に違いがない。

「……女神様。本当に、どうにもならないのですか? 世界は……滅んでしまうのですか?」
【……できる限りを尽くしますが、少なくとも破壊神が活動を始めることは止められません。それは血に深く刻まれた衝動の様なもの。それは連綿と受け継がれたサイクル。そして、私はそれを感じ取ることができるのです。だから神官長、貴方を送り出すのです。私が息絶えて全てが壊れた時、貴方が次の世界を創世できるように】
「……」
【神官長。貴方は優しく育ってくれました。そんな貴方が次の創世神となり、私の存在と、私が創生した世界のことを記録していてくれたのでしたらこれほど喜ばしいことはありません】
「……つつ、しんで……拝命、いたします」
【……ありがとう、神官長。ではそれをお飲みなさい】

 カラカラと小さな台車が1人でに神官長の前にやってくる。台車の上には小ぶりのワイングラスがひとつ。その中には零達が見たことのない様な金色の液体が入っていた。

「これは……もしかして今、各地で確認されているって報告されてる……」
【それは神酒アクア・イュース。それを取り込むことで貴方は私と同じになる。そして貴方の旅が始まるのです】
「僕は、なにをすればいいんでしょうか」
【多くの世界に会いなさい。多くの生命に会いなさい。多くのことを学びなさい。そして、あなたの作りたい世界を持ちなさい。かつての私の様に】
「……わかり、ました」
【神官長】
「はい」
【旅立つ貴方に、たったひとつの祝福を。、『アルム・カンフローレル』という名を与えます】
「アル、ム……!?」

 ばっと神官長……否、アルムは零と妙見子の方へ振り返った。2人も驚いた顔をしている。は、その歳になるまで名前を有していなかった。だから、人違いと思ったのも当然なのだ。その時点で、彼はアルムではなかったのだから。

「……そっ、か」

 そして、何かを理解した様子なのはアルムも同じだった。今までよりずっと晴れやかな表情で彼は2人に微笑みかける。

「どういうわけかわからないけど……。僕、君達となれるんだね。友達、に」
「……はい」
「ああ!」
「うん。それなら何にも怖くないや。どうか、待ってて」

 ありがとう。そう言って、アルムはワイングラスの中の金色の液体を飲み干した。

「うっ……!?」
「アルム!?」

 アルムの手の中にあったグラスが落下しガシャンと砕け散る。しゃがみ込んだアルムの灰の髪がぼんやりと金色に輝き、それに呼応する様にアルムの周囲に金色の粒子が漂っていた。苦しげに呻くアルムへ零が近づこうとしたが、その粒子に手を伸ばすと弾かれる様に拒絶される。

【どうか、ご武運を。──79回目の世界を創る者アルム・カンフローレル

 そんな女神の言葉がかけられたのを最後に、金色の光は強まって零と妙見子が目を閉じる。光が収まると、そこに既にアルムの姿は居なかった。

「アルム……」

 零は今、友人が旅立つ物語へと触れた。それが「創世神になるための旅」と知って驚きの方が大きくて上手く飲み込みきれていないが、アルムが「アルム」となった瞬間を見ることができたのは、大きな手がかりではないだろうか。そして、女神様にも色々聞かなきゃな。と御簾へと向き合ったところで。

 ──ジャララララララ!

「なんだぁ!?」

 突然、足元に銀色の鎖が大量に湧き出し零は慌てふためいた。よく見ると銀の鎖は妙見子の足元からも湧き出している。

【……お迎えの様ですよ】
「えっ!?」
「零様! この鎖を掴んでくださいまし!」

 妙見子が零へ向かって叫ぶ。その言葉に動揺しながらも零は銀色の鎖に手を伸ばし、掴み取る。すると2人の身体がぐんぐんと上に引っ張られ、硬い石の天井をするりと突き抜けた。

「うわっ、わーーーーっ!?」
【──私と、こうやって話せていることは、手がかりのひとつとなるでしょう】
「!?」

 女神からの言葉、その意味を深く考える前に。

 眩い光が、零と妙見子を包んだ。



「──おかえり。どうだった?」

 男とも女ともつかない不思議な声が上から降ってくる。気が付くと零は床に大の字になって転がっており、それを『師匠』に見下ろされていた。上体を起こすと妙見子は先に気がついた様で何やら難しい顔でソファーに座って考え込んでおり、そして当のアルムはすやすやと眠りこけている様だった。

「師匠……戻って、きたんだな俺達。ええと……何から話せばいいやら……」
「なに、もう少し先でもいいだろう。カンフローレルの旦那もまだ起きていないしね」

 そう言ってミステリアスに微笑むソレはお茶の用意を始める。

「たとえ、それがいかなる真実であろうともキミ達には時間がある。未来という尊い時間がね」

 はい。水天宮の方、あーん。とソレはお茶請けの一口フロランタンを難しい顔をしていた妙見子の口へと放り込んだのだった。ンピッと鳴き声がした。

  • 終わりにして始まりの完了
  • NM名和了
  • 種別SS
  • 納品日2024年02月17日
  • ・零・K・メルヴィル(p3p000277
    ・武器商人(p3p001107
    ・アルム・カンフローレル(p3p007874
    ・水天宮 妙見子(p3p010644
    ※ おまけSS『神話と真実』付き

おまけSS『神話と真実』

●アルム・カンフローレルの出身世界について

 彼の世界は創世と滅亡を繰り返している。多くの世界で見られる創世神/善神vs破壊神/邪神の世界観であり、創世神が世界を創造し、繁栄の後に破壊神が全てを破壊する。その数、実にアルムの住んでいた世界の時点で78回。アルムが創造するであろう世界は79番目ということになる。それ即ち、77回目までの世界の時点で創造神は破壊神に敗れ世界が滅亡しているということになる。
 この世界は創造神の価値観を基に作られるため、世代ごとにその価値観や発展速度は異なる。78番目の世界はいわゆる『中世的ファンタジー』な文化ではあるがどの種族もだいたい心が穏やかで優しく、治安の良い世界だったといえるだろう。強いて難を挙げるなら、やや競争心に欠けたため、時間に対して発展がゆっくりとしたものであったことだろうか。
 つまりSF的な超発展を遂げた世界の後に魔法が蔓延る世界が生まれることもあるわけだが、そのせいか時々前世代の『遺物』がオーパーツとして発掘されることがあり考古学者の頭を悩ませている。


●78番目の創造神について

 優しい世界を作りたかった女神。
 「生き物の本質は闘争である」という価値観のもと創造された77番目の世界に生まれ、アルムと同じ様な長い旅の果てに他の知性体の「優しさ」に触れ、「優しさ」のある世界を作りたいと願った。
 アルムの種族は78番目の世界において「最も古き種族」の末裔の1人であり、その姿は女神に「優しさ」を教えた人物を模している。


●78番目の破壊神について

 「生き物の本質は闘争である」という価値観を最も楽しんだ男神。単独戦闘に秀でた脳筋スタイル。
 創造神とは考えが相容れないが、彼女の深い智慧は『自分とは違う強い力』であると認めて敬意を払っている。
 後継の破壊神見習いにモリガンを選んだのはその理知にどことなく女神の面影を見出したからかもしれない。










【警告】

【警告】

【警告】

【不正な干渉を感知しました。直ちに対象をttttttttttttttttttt】

【…】
【……】
【………】

【情報を開示します】










●神格

 彼らの神格の大元は金色の海、即ち神酒アクア・イュースである。神酒アクア・イュースであり生命を生産→養殖→捕食のサイクルを行なっている。
 彼らの知性は低いが自身の生命維持のために他の生命体と同化する特性を持っており、神酒アクア・イュースを取り込んだ者は彼らの知性端末となる。
 創造神は複数の世界を渡航し、『自身』に神酒アクア・イュースに捧げるための生命体の情報エッセンスを蓄積し世界を創造、生命体を養殖する役割を持つ。
 反対に、破壊神は『ある時期』に養殖した生命体を全て神酒アクア・イュースへ捕食させる役割を持っている。
 この『ある時期』が食事周期なのか繁殖期など他の理由があるのかは定かではない。なぜなら、彼ら知性端末も必ずしも何か情報を『認識』しているとは限らないためだ。

●神格の強さ

 この世界において神格の強さとは即ち神酒アクア・イュースとの同化率を指す。彼らの知性端末は十分に神格が上がる(=神酒アクア・イュースとの同化率が上がる)と帰巣本能により神酒アクア・イュース本体がある場所へと帰還していくこととなる。
 知性端末は神格を上げる方法を『信仰を集めること』と認識しているが、これは知性端末としての防衛本能に近い認識であり、実際は自身の記憶領域に蓄積していない新しい生命体の情報エッセンスに触れることで神酒アクア・イュースの生産本能を刺激し活性化を促すことである。
 なお、同化率が上がりすぎると神酒アクア・イュースそのものになる可能性がある。最も、そうなるほど神酒アクア・イュースの性質を引き出したものは(現存されている歴史では)確認されていない。

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