PandoraPartyProject

SS詳細

さざなむオーロラはなお美しき

登場人物一覧

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
トール=アシェンプテル(p3p010816)
つれないシンデレラ


 終焉の足音が近づいている。
 世界各地へと開いたバグ・ホールよる混乱は未だに根深く。
 挙句の果てに各地へと開いた『影の領域』は終焉からの扉だった。
 魔種の本拠から姿を見せた敵、世界最強の聖女を始めとする恐るべき敵はBad end 8と名乗ったという。
 トール=アシェンプテル(p3p010816)は愛剣に触れた。
 それで手が震えているのに気づかされた。
(……僕は)
 剣から手を放して、ぎゅっと握り締める。
(……こんな気持ちじゃあ、だめだ)
 深呼吸を繰り返す。
 オーロラ―エネルギーは本人の純粋な感情を力とする。
 こんな心の在り方のままで終焉への戦いなんて、そんなことできるはずもなかった。
「……ごめんなさい、力を貸してください」
 誰に聞こえるでもない小声で言って、トールはもう一度だけ大きく息を吐いた。


 終焉の足音が近づいている。海洋と深緑は燃えようとしているのだろうか。
 友人たちは死地に等しい戦場へ向かおうとしている。
 そして、それらの戦場はきっと沢山の死が待っている。
(わたしを必要としている人たちがたくさん……)
 ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)にとって、混沌は故郷だ。
 海種として生まれ育ったこの世界は滅びに直面している。
(救える命がたくさん……)
 世界が滅びようとしている。
 その過程には、きっと沢山の死が待っている。
 それの中には救える命がたくさんあるはずだ。
(少しでも、わたしの救える命を救いたい……そのための医学だから)
 小さな掌をぎゅっと握り締めて、ココロは一つ呼吸を置いた。


 戦いは始まろうとしていた。
 ココロはそんな中、トールの訪問を受けていた。
「トール君……どうしました?」
 彼の本当の姿――男装のままで訪れたトールを招き入れれば、少年の表情は優れない。
 少しだけこちらから視線を外したトールは少しだけ目を伏せている。
 緊張と、それからちょっぴりの不安、そんなものを抱いているような――そんな感じがした。
「突然の訪問、申し訳ありません……でも、どうしても言っておきたくて」
 改めて、まっすぐにココロを見たトールの表情は真剣そのものだった。
「もしかして、何か用事がありましたか?」
「いえ、今日は特に……」
 驚きつつも答えればトールがほっと胸を撫でおろす。
 不思議に思い首を傾げるココロの前で、トールが片膝をついて跪いた。
 それはお姫様へ王子様が傅くような。
 あの日、ココロにガラスの靴を履かせてくれた時のようだった。
「ココロちゃん。
 混沌が平和を取り戻したら……僕と結婚してれませんか」
 そう言って、彼はココロの手を取った。
「突然のプロポーズをどうか許してください。
 本当ならもっと段階を踏むべきなのは自覚しています」
 天色の瞳は綺麗だった。
 真っすぐな瞳には真摯な気持ちしか見当たらない。
「……でも今は明日にも世界がどうなるか分からない状況です。
 そんな中でこの気持ちを伝えずに、自分の中に迷いと後悔を残したまま戦い抜く自信がありませんでした」
 そう続ける彼の言葉を聞いて、ここに来たトールの表情の意味がようやく理解できた。
「もちろん、死ぬつもりも負けるつもりもありません。
 ココロちゃんも、ココロちゃんと生きた証を刻んだこの世界も、皆と力を合わせて必ず守ります」
 ただ真っすぐに真剣に語る少年は此処に来た時の躊躇いを感じさせないままにそう締めくくる。
「……不安がないと言えば嘘になります。だから今は貴女との約束が欲しい。
 プロポーズの返事は平和になったらじっくり考えて……いつか、改めて聞かせてください。
 その約束さえあれば、挫けずに戦い抜けると思うから」
 不安の吐露と共に伏せられた瞳がもう一度こちらを見て、視線がまた交じり合う。
「戦いが終わるまでは、シンデレラである貴女を守る騎士として。
 戦いが終わったら、ひとりの男として貴女の隣を歩んで生きたい。
 世界で誰よりも貴女のことを愛しているから――僕と結婚してください」
「えっと……」
 トールの手が少しだけ強張ったのをココロは感じていた。
「……お気持ちはとても嬉しいのですが……わたしはまだ医者として、医術士として半人前。
 まだまだやるべきことがあります」
 続けた言葉に、トールの手が少しだけ怖がるような震えを帯びる。
 やるべきこと、やりたいことはまだまだあった。混沌に迫る滅びだってその代表例の1つだ。
 この世界が滅びるまでの間に一体、幾つの救えたはず命が零れ落ちていくだろう。
「……でも、その」
 更に続ければ、驚きのような手の動きを感じる。
 対するココロは少しだけ、身体の奥が熱を帯びていくのを感じていた。
「立派な一人の医者になれたら。そう、シャル先生のようになれたら」
 今度はココロの手に少しだけ力が入る番だった。
「その時は……お……あ、あ、あっと! その時はあらためて考えさせてください!」
 重なりあった手が離れる。
 驚いた様子の少年は、けれど来た時のように不安そうではなかった。
「……ありがとうございます。返事をもらえる日を、お待ちしていますね」
 重ね合っていた掌を胸元に置いて、そうトールが安堵の息を漏らす。
「それと!」
 そんな様子がちょっとだけ格好よくて、でもちょっとだけ小生意気に見えて。
「ジョゼお父さんに許可もらってくださいね。あの人は超堅物ですよ。頑張ってください」
 ココロはそう続けていた。
「……そう、ですね。僕もその日が来たら、一度は母に逢ってほしいです」
 トールが目を瞠って、そのまま微笑を零す。
「……ココロちゃんのお父さんへの御挨拶をするためにも、まずは世界を救いましょう」
 そう続けた年下の少年は、やっぱり少しだけ格好良かった。


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