PandoraPartyProject

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約束ひとつ、足跡よっつ

登場人物一覧

祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
優しい白子猫
祝音・猫乃見・来探の関係者
→ イラスト

 悪性怪異:夜妖<ヨル>。
 そう呼ばれる火鈴の姿は大きく変わることはない。彼女は何時まででも幼い少女の姿をして居るのだろう。そう、思って居たのだけれど――
「ねえ、祝音は猫が好きでしょう」
 赤い尾をゆらゆらと揺らした火鈴に祝音は「うん」と頷いた。猫はふわふわとしていて可愛くて好きだ。祝音の頬が緩めて「ふわもこも好きだよ」と笑った。
 まじまじと見詰めている火鈴は「あのねえ」とどこか戸惑った様子で頬を紅色に染めてからちらりと眺め遣る。
「りん、猫さんの姿になれればずっと祝音と一緒に入れる?」
「……え、えっと」
「あのね、りん、猫さんの姿に化けられそうなの。だって、りんは夜妖で、人では無いから」
 赤い尾をゆらゆらとさせ、炎の気配をさせていた火鈴は祝音を伺った。確かに、人では無い火鈴は『猫の姿』になる事は出来るだろう。
 彼女は夜妖として自らを制し、能力を制御するためにも澄原病院に罹っていた。表向きには持病がある事にしているが元気いっぱいな彼女は「どんな病気なんだろう?」とクラスで噂されるようなアッパーな少女だ。
「もしかして、火鈴さんは猫の姿になる練習をして居るの?」
「うん! そうよ! そうなの。りんは祝音とずぅっと一緒に居たくって、体を変化させる練習をいっぱいしたのよ。
 猫さんの姿になれれば、祝音が戦いに出るときに役に立つかしら? 祝音をサポートして、ずぅっと一緒に居たいのよ」
 瞳をキラキラと輝かせる火鈴に祝音はぱちくりと瞬いた。彼女はずっと再現性東京で過ごしていた。
 再現性東京で過ごしていたからこそ、平和を謳歌してきたのだが――混沌世界の現状を鑑みれば祝音とて戦場に出ねばならず、火鈴の棲む再現性東京とて平和であるとは限らないだろう。
「ずっと、戦う練習をしてたの?」
「うん。りんは夜妖だから、普通の女の子じゃないわ。だから、戦うのだってへっちゃらなのよ」
「……でも、火鈴さんが危ない目にあっちゃう、よ?」
「いいのよ。祝音が危ない目にあうなら、それをりんも背負って上げたいの。だって、りんは祝音が大好きだから」
 瞳をキラキラと輝かせる火鈴に祝音はじいと見詰めた。彼女の言う通り戦う力を持った夜妖であるならば、自衛は身に着けておくべきだろう。
 猫の姿になって、ファミリアーの様に各種の対応を行なうというのは危険が過ぎる。祝音にとって、それは余りに望むものではないだろう。
「……火鈴さんが、危険な目になるのは、いやだよ」
「祝音が危険な目に遭うのに?」
「うん。火鈴さんがにこにこしていられるように、守るから」
「りんは祝音を守っちゃだめ?」
「火鈴さんは夜妖だけれど、僕はイレギュラーズだよ」
 そっと手を握り締めれば祝音は緩やかに俯いた。イレギュラーズである祝音と夜妖である火鈴では大きく違うことがある。
 それでも、世界情勢がこれだけ不安定だからこそ火鈴は祝音の力になりたいと願ったのだろう。
「僕が火鈴さんを守るから、大丈夫だよ。無理をしないで欲しいし、危ない目には遭わないで欲しい。みゃー。
 春は桜を見に行くって約束したよ。それに、たくさんたくさん、楽しい事をするなら、二人とも元気じゃなくっちゃ」
「そうね。りんか祝音が怪我をしちゃったらおでかけできないものね」
「うん、そうだよ。だからね、火鈴さんは僕達の住む東京を守って欲しいな」
 祝音のその言葉に火鈴はぱあと明るい笑みを浮かべた。鮮やかな微笑みを浮かべる彼女は「うん! うん! がんばる!」と何度も頷き続ける。
 幸せそうに笑った火鈴に祝音はほっと胸を撫で下ろした。きっと、これで彼女が戦場に飛び出すことはないはずだ。
 目的をはぐらかされた事に気付いたのだろう火鈴は「うぐう、うぐう」と何度も何度も唸る。
「……ねえ、祝音。あのね、あの……りん、良い子にするから……約束して欲しいことがあるの」
「なあに?」
「何があったって、どんなに大変でも、りんの所に帰ってきてね。りん、わがままだけれど。
 りんは祝音がとっても大好きで、祝音とこれからもずっと楽しく過ごしていきたいの。もしね、祝音が元の世界に戻るなら、りんも一緒に行きたい。
 あ、その時は猫になるよ。赤い猫ちゃん。にゃあ。ちゃんと小さな猫ちゃんの姿になって祝音のそばにいるんだから」
 自慢げに笑った火鈴が両手を組み合わせてから「むむん」と唸った。ちりんと音が鳴ってからその体を丸く収める。
 火鈴は赤毛の猫になって肉球をぷにりと祝音に乗せた。「猫さんだ」と祝音がぱちくりと瞬く。
「すごいね、火鈴さん」
「えへへ。がんばったんだよ、もっと、もっと、がんばるね」
 尾をゆらゆらと揺らし嬉しそうに笑った火鈴は「りんは無理をしないから、祝音は約束を守ってね」と笑った。
 小さな、小さな約束。
 これからもっともっと、遠くにまで走って行くために――その約束を守らなくちゃならないなあと祝音は困ったように笑った。


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