PandoraPartyProject

SS詳細

amadeus

登場人物一覧

マナセ・セレーナ・ムーンキー(p3n000356)
魔法使い
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女

 プーレルジールからマナセ達がやってくるようになってから暫くの時が経った。マナセ自身は混沌世界でもそれなりに上手くやっているのだろう。
 アレクシアが様子を見に行けば彼女は何時もの如く楽しげに振る舞うのだ。「不安はない?」と問えば「それなりに元気だから大丈夫かも」などと軽やかに返す。
「マナセ君」
「どうしたの? アレクシア」
 気易い距離になれば、彼女は旧来からの親友であるかのように振る舞うのだ。にんまりと笑う彼女を見てから「あまり混沌世界にも慣れていないときにお願いして申し訳ないのだけれど」とアレクシアは前置きする。
「ロックさんと話したのだけれど」
「あ、古語魔法のこと?」
「そう。勉強をしたいな、って思って。ファルカウさんにも減点されちゃったし」
 マナセはきょとんとしてからアレクシアを見た。魔女ファルカウは魔法使いを相手にしたときに点数を付ける。物事への向き合い方や、各種様々な対処に関しての彼女なりの『評価』を行なうのだ。マナセもアレクシアも及第点ではあったのだろが、点数配分的には低いと言わざるを得ないのが実情だ。
 曰く、マナセに対しては未だ未だ発展途上であり、魔力の制御がおざなり。無鉄砲にも程がある。そしてアレクシアに対しては命を擲ってしまうというのは魔法使いにとっても低評価だ、との事だ。そうとも言われてしまえば「それはそうかも」とアレクシア自身も思ったのだが――

 ――わたくしはそのような人間には魔法は教えませんわ。

 ファルカウはさも当然のように返すのだ。魔女ファルカウ、プーレルジールで共に旅をした『迷宮森林』の主にして、古代の魔法を駆使する『古語オムニブス』の遣い手。
 ファルカウという女が教えてくれたのは己が駆使する魔法を古語オムニブスと呼ぶ事。そして、彼女の魔法は現代の魔法形態とは乖離していると云う事だ。
 プーレルジールではそれでも、マナセという魔法使いの少女が古語を読み解く事が出来て居た。僅かにでも解読し、それらを駆使して魔法を利用する事が叶っていた。
 混沌とプーレルジールには似通っている。この世界でも屹度、その魔法を利用する事は出来るはずだ。アレクシアは「学びたい」と願った。
 故に、ファルカウから学べないのであれば、同じく魔法使いであったウォーロック――元々はイルドゼギアと呼ばれていた青年だ――に声を掛けたのだ。
 そして今に至る。魔法を解読するならばマナセを頼れば良い。年若い娘は世界の理をも理解しているとは言い切れない。天才魔法使いと名高い勇者パーティーの魔法使いよりも更に若く、そして経験が少ないからこそその頭は柔軟に古語を理解出来るだろうという事だ。
「なんだかね、少し難しいのよ。例えば、此処に林檎があるじゃない?」
「うん。林檎……だね。それも普通だ」
「そう。でもね、この林檎を私達が共通言語で林檎と呼ぶけれど、ファルカウはバナナと呼ぶ可能性がある」
「……つまり、言葉の意味が違うという事?」
 首を傾いだアレクシアにマナセは頷いた。言葉にはそれぞれの意味がある。だが、古語が用いた文法や言葉の成り立ちが違えば大きく意味が乖離することがあると言うことだ。
 例えば、『美徳の不幸(Perdere)』。その魔法は拒絶を意味しているらしい。マナセはそれが美徳とは不幸だと唱える言葉であると認識しているらしい。
「成程。私達の知っている言葉と大きく乖離することがあるから、解読が難しいんだ?」
「そうなの! だから、例えば、ファルカウが私に教えてくれたのは砂に咲く華(Frauenglas)という魔法だったわ。
 あなたの上に天は立つ。全ては極光の元に――この魔法は、分からないのだけれど、魔女の災いを起こすものだっていわれてたの」
 マナセは悩ましげな顔をした。全てを白日の元に晒すという意味合いがあるのだという。正しい人は祝福される、災いはその罪を裁くように訪れる。
 誰もが報いの日がやってくるという意味を持つというこの魔法をマナセは「使ったことはないわ」と言った。
「使ったこと、ないの?」
「ないわ。だって、魔法がある事は教えて貰ったけれど、その効果までをファルカウは教えてくれないの。
 ただ、この魔法ってきっと危ない事だと思うわ。魔女の災いアーテルロサが起きた時の救いになれば良いけれど、とも思ったけれど」
「あーてる……?」
「アイオンのお母さんの病気よ。風邪って言ってたけど後で調べたら、そういうものなんだって。
 砂に咲いた花は周囲の水を全て奪って、それから、何もかもを喪って枯れて仕舞うの。
 だからね、アイオンのお母さんのように、肉体が石に変わっていって、最後に咲いた花の事を魔女の災いだと呼んでいるそうなの」
「……」
 アレクシアの肩がぴくりと揺らいだ。石花病。ずっとアレクシが向き合ってきた幻想種達の病だ。そのヒントがそこにあるのか。
 思わぬ収穫だ。マナセを見詰めてから「教えて貰っても良い?」とアレクシアは問うた。
「ええ、アレクシアにとって、これが収穫になるのなら。アーテルロサっていう病はファルカウが言うにはFrauenglasっていう魔法の結果らしいわ。
 この魔法は祝福を授け続けるのだけれど、罪を裁くように災いが訪れるの。その罪を裁くという効果が発動することでそうした身体的変化が訪れる人が居るらしいわ」
「特効薬って、あるのかな」
「んー……プーレルジールでは、延命治療は出来てたけど。
 ファルカウ曰くは大元を叩かなきゃ駄目なんじゃないかしら。魔女の呪いだったら、呪いを掛けた人を倒すしかないんじゃない?」
「プーレルジールではだれの呪いだったんだろう」
「分からないけど、ずっと昔の呪いでも、ファルカウが抱いて眠りに着いたからプーレルジールでは消えた呪いになると思う。
 あ、混沌ではあるの? あるなら、ファルカウに似た人が呪いを掛けたのかも。病気の人が出てるって事は、その魔女が活動的になったのかもしれないね」
 アレクシアは妙な顔をした。混沌世界で活動して居るであろう魔女ファルカウ。その人がプーレルジールで眠ったファルカウの遠い未来の姿なのであれば――
(……混沌世界で冠位魔種が深緑を襲ったことが引き金になったのかな? それとも……)
 破滅の気配に魔女が起き上がり、その体を滅びに支配されたことによって石花病が溢れ落ち、遂には当人が起き上がったのだろうか。
 その事ばかりを考えては居られない。アレクシアは首を振ってから「取りあえず、その話はまた考えるね」と笑いかけた。
「有り難う。それで、古語魔法なんだけど、私でも利用できるものはあるかな?」
「あると思うわ!」
 マナセは腰から下げて居た魔導書を手に取ってから「この中に、私が解読しかけたものも結構揃っているの。一緒にやりましょうよ!」と笑った。
 マナセが居住地として借り受けているのはローレットの一室だ。そのテーブルには様々な本が開かれている。薬草や植物の本が多いのはファルカウが森の魔女だからだろう。
「どういう魔法が使いたいの?」
「……うん、どれがいいかな」
「さっきのは? アレクシアが善性を持ち合わせて入れば、呪いも祝福に変わるわ」
「……でも、私にもしもがあったら?」
「滅びに手を貸すかも」
 アレクシアは妙な顔をした。それは危険性が高い。簡単なものならば、今持ち得る魔術の呪文に何かしらを添えるだけで大きく変化するだろうか。
 風の魔法を使うマナセはと唱えた。空を飛びたいならばと言葉にするのだ。
 林檎とバナナ問題というよりも関連文字列であるだけマシだ。マナセは「んー」と呟いてから魔導書をとんとんと叩いた。
「火の魔法って嫌い? sileo
「……火の魔法はそういうの?」
「全てが焼き払われたら、言葉も何もないから死を意味しているのね。ファルカウらしいって感じがする」
 森は、焼き払われたら灰になる。死者を意味しているのか。アレクシアは渋い表情をした。森の魔女は、森に生きる全てを愛するが故に焔を厭うていた。
 幻想種であるアレクシアとて焔への忌避感は抱いていたものだ。マナセもアレクシアの長い耳と此方を訪れてからアルティオ=エルムについて学んだ事によって、そうした事情は理解していたのだろう。
 アレクシアの渋い表情を眺めてからマナセが魔導書をぺらぺらと捲り続ける。別にそれを拒絶したわけでは無かったのだと慌てた様子で口を開こうとしたアレクシアにマナセは「じゃあね、これは?」と指差した。
「水の魔法! sapientia
「それを学ぼうかな。どう言う意味だと思う?」
「この言葉は、水は叡智だといっているの。海を指しているとおもう。
 だから、魔法にするなら、大海原から手繰り寄せるの。多分ね、水って言うのは叡智で、生きる糧なの」
「成程?」
「……アレクシアの知識の湖に、生きる意味を与えてやれば、きっと使えると思う。
 水というのは生かす意味があるから。きっと、全てを癒す力になるわ。――って、わたしが、そう思っただけなのよ」
「ううん、マナセ君が言うならあっていると思うよ」
「じゃあ、実践あるのみ?」
「そうだね、実践してみないと何も解らないかも知れない」
 アレクシアが頷けばマナセはにんまりと笑ってから「やりながら、魔法を!」と言った。
 意味が変わるかも知れない。新たな魔術形態になるかもしれない。アレクシアという娘が水という言葉に何を見出すかで大きく変化するのだろう。
 魔法とは、人の心そのものなのだ。だからこそ、ファルカウという女は古語魔法に当たり前の様な文法や、形式を与えていない。
 ただ、大気に存在するマナを手繰り寄せ、発動する魔法に意味を与えてやっているのだ。その言葉をマナセは借り受けている。
(多分、この魔法はマナセ君も、私も、ファルカウとは大きく違うものになるんだろうな。
 ……きっと、それぞれによって大きく変わってくる。魔法っていうのはそういうものだって事を忘れていたなあ)
 混沌で用いられる魔法は皆が馴染んだ形式が存在して居る。その呪文さえ知っていれば気軽に発動できるが古語魔法はそうではなかったのだ。
 だからこそ、プーレルジールでは彼女は危険因子だった。マナセという娘が家出したのはそう言う理由があったことも理解している。
「アレクシア?」
「ううん。マナセ君のオリジナルの魔法もいつか編み出されるのかなあって思って」
「勿論よ。わたしとアレクシアが協力すればファルカウなんてけっちょんけっちょんの魔法が編み出せるはずよ。
 ……なんだか、この世界も大変だし、そういう魔法をゲットすれば世界を救う事ってできるのかしら」
 アレクシアは「そうかもね」と笑った。ふと、そう笑ってからファルカウを思い出す。

 ――魔法というのは代償が付き物ですわ、魔法使い。わたくしたちは大気中に存在する全ての生命力を借り受けているだけ。
   大きな魔法を使いたいというならば、己のリソースを駆使しなくてはなりませんもの。だからこそ、魔法とは危険で魔法使いとは命を擲ってはならない。
   お分かりになって、魔法使い。
   わたくしたちは死ぬために魔法を使ってはなりません。

 彼女はぽつりと零した。それはマナセのために、だ。
 アレクシアは聞いていただけに過ぎないが、自身のが低かったのはそれが理由なのだろう。
 そんなことを思い出してから、アレクシアは「とりあえず、頑張ろうか」と微笑んだ。
 そうやって、命を擲って仕舞うことをファルカウは嫌うだろうけれど――アレクシアという娘は『何かのために命を擲ってしまえる少女』だ。
(きっと、ファルカウさんもそうだった)
 俯いてからアレクシアはファルカウが『己の過ちを繰返すな』と告げて居るかのようだと感じて前でいそいそと用意していたマナセを見た。
「それじゃあ、練習を始めましょう」
 天才魔法使いと呼ばれた異世界の少女は杖を魔導書を手に意気揚々と外に飛び出していく。
 広々としていて誰かを巻込まない場所に行きたいなあなんてアレクシアは考えながら「まだ寒いから上着を着てね」と声を掛けた。
 まるで妹のような可愛らしい少女は一度帰ってきて上着を引っ手繰ってから走り出す。
 うきうきとした表情をして居たマナセを眺めて居ればアレクシアの口元もついつい緩んでしまった。

  • amadeus完了
  • GM名夏あかね
  • 種別SS
  • 納品日2024年02月14日
  • ・アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630
    ・マナセ・セレーナ・ムーンキー(p3n000356

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